2017年7月―。青いキク誕生のニュースは、世界に驚きを与えました。
白、赤、黄、ピンクと花の色は多彩ですが、そのうち市販されている青い花の割合はたったの2~3%。" 青系 "とされる紫色の花でもわずか 6 ~ 7%に過ぎません。世界中の研究者が、約 1 世紀にわたって花の色の研究を行っています。また多くの研究者が、青い花の開発に情熱を傾けてきました。青いキクも例外ではなく、その誕生までには多くの時間が必要でした。このページでは、世界初の青いキクが生まれるまでの軌跡をご紹介します。
青い色素を持たないキク
キクは日本の切り花出荷量の4割を占め(農林水産省、平成26年)、色も赤や黄など多彩です。しかしキクには青や青紫のような "青系" の
花色がなく、青いキクの誕生が望まれていました。そこで 2001 年農研機構は青いキクの開発に着手、2004 年からサントリー※との共同研究を開始しました。
キクは青い色素を持たないばかりか、青い花を持つ近縁野生種も存在しません。そこで従来の育種方法ではなく、遺伝子組換え技術を用いた研究開発を行ったのです。
※サントリーグローバルイノベーションセンター株式会社
遺伝子工学技術の結晶
赤系のキクにさまざまな花から青い色素をつくる遺伝子を導入したなかで、カンパニュラの遺伝子により紫色のキクが生まれました。青い花にするための色素は十分にあるのに、それだけでは青くなりませんでした。そこでさらに青く、より鮮やかな青色を目指して研究を続けました。その結果、カンパニュラの遺伝 子とチョウマメの遺伝子を同時に加えることで、研究開始から 16年、青いキクが誕生したのです。
市場までのプロセス
結婚式で花嫁が青いものを身につけると良いと言われるように、お祝いシーンとも相性の良い青いキク。現在、実用化に向けた研究段階にあ ります。生物多様性評価の審査など国の認可を経て、青いキクが店頭に並ぶ日が待たれます。
花の形も色々
キクと聞いてすぐに思い浮かべる輪ギクはもちろん、デコラ咲き、アネモネ咲き、ポンポン咲きなど、さまざまなタイプの青いキクが、この技術を利用してつくられています。 種類豊富な青いキクの誕生で、多彩なアレンジも可能になるでしょう。
青いキクが花屋に並ぶには
遺伝子組換え技術を使ってつくり出した青いキクを一般の人が直接手に取ることができるようになるためには、生物多様性の観点から、花粉が飛んで野生のキクと交配するのを防ぐ必要があると考えられます。現在、花粉ができないようにする方法などが研究されています。
広報誌「NARO」No.12 掲載記事