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第226回つくば病理談話会演題

430) 鶏の空腸

  • 提出者(所属):金森 健太(静岡県中部家畜保健衛生所)
  • 動物種:鶏
  • 品種:ジュリアライト
  • 性別:雌
  • 年齢:147日齢
  • 死・殺の別:鑑定殺
  • 解剖日:2021年10月25日
  • 解剖場所:静岡県西部家畜保健衛生所

発生状況及び臨床所見

総飼養羽数約230,000羽の採卵鶏農場において、約25,000羽収容の一鶏舎で2021年10月中旬頃から死亡羽数の増加が認められた。死亡羽数の増加を受けて、同月13日から15日までアンピシリンを投与したところ、一時的に死亡羽数の減少が見られた。しかし、22日頃から再び死亡羽数が増加してきたことから、削痩した生鶏2羽と死亡鶏2羽を用いて病性鑑定を実施した。

病原検索

細菌学的検査では、主要臓器から有意菌は検出されなかった。十二指腸内容物を用いたClostridium perfringens (Cp)の定量培養は、提出症例で有意な結果は得られなかったが、他の生鶏1羽から4.8×105CFU/gのCpA型菌が検出された。
寄生虫学的検査では、十二指腸内容物を用いた虫卵検査で17,328OPGのコクシジウムオーシストが検出された。

剖検所見

全ての鶏の小腸は膨満し、菲薄化が認められた。その他の臓器で著変は認められなかった。

組織所見(提出標本:空腸)

空腸では、粘膜上皮細胞の脱落と絨毛の重度の萎縮が認められ、陰窩は異型を呈し、一部粘膜上皮細胞では扁平化が認められた。粘膜固有層ではヘモジデリンの沈着が認められ、軽度の出血も散見された。一部の粘膜では、好酸性退廃物に線維素析出や細胞退廃物を伴う壊死が認められ、壊死部周囲の線維化も認められた。粘膜表層で認められた炎症産物には、グラム陽性大桿菌やグラム陰性桿菌が認められた。漿膜ではリンパ球、マクロファージ、偽好酸球等の炎症細胞の浸潤が認められた。

討議

本事例は鶏クロストリジウム・パーフリンゲンス感染症を発症し、加療により回復しきれなかった個体であったと推察しているが、その他の原因の可能性について。

診断

  • 組織診断名:採卵鶏の空腸におけるヘモジデリン沈着を伴う絨毛の萎縮、化膿性漿膜炎
  • 疾病診断名:原因不明

431) 豚の肝臓

  • 提出者(所属):近内 将記(神奈川県県央家畜保健衛生所)
  • 動物種:豚
  • 品種:雑種
  • 性別:雌
  • 年齢:49日齢
  • 用途:肥育
  • 死・殺の別:死亡
  • 解剖日:2021年7月17日(死後時間不明)
  • 解剖場所:神奈川県県央家畜保健衛生所

発生状況及び臨床所見

飼養頭数約30頭の一貫経営の農場において、豚熱ワクチン未接種の哺乳豚群が7月10日から下痢を呈した。提出症例は7月16日から食欲減退及びふらつきを呈し、17日に遊泳運動を呈した後に死亡したため、病性鑑定に供された。

病原検索

ウイルス学的検査及び蛍光抗体法により豚熱及びアフリカ豚熱は否定され、細菌学的検査及び遺伝子検査によりローソニア及び豚赤痢は否定された。細菌分離では主要臓器、腸間膜リンパ節及び腸内容物からEscherichia fergusoniiが分離されたが、分離菌から易熱性エンテロトキシン遺伝子は検出されなかった。また、豚サーコウイルス2型(PCV2)遺伝子が主要臓器・脳・リンパ組織から検出された。

剖検所見

外貌は肛門周囲に黒色調の汚れを認めた。肝臓の表面は粗造化及びモザイク状に白色化し、割面は散在性に黄褐色巣を認めた。腸管の漿膜面は全長で暗赤色調を呈し、結腸間膜では膠様浸潤を認めた。粘膜面では空腸から結腸にかけて偽膜形成を認め、盲腸に線虫を認めた。

組織所見(提出標本:肝臓)

肝臓では小葉間結合組織の肥厚及び好酸球の浸潤、小葉間動脈壁の粗鬆化及び炎症細胞の浸潤、グラム陰性細菌塊が認められ、剖検時の黄褐色巣では小葉中心性に出血を伴う肝細胞の壊死が認められた。空腸から結腸の粘膜表層は壊死し、グラム陰性細菌塊を含む偽膜の形成が認められた。粘膜固有層では出血が認められ、粘膜下組織から筋層ではしばしばマクロファージに両染性ないし塩基性ブドウ房状細胞質内封入体の形成及び脈管内にグラム陰性細菌塊が認められた。腸間膜リンパ節を含むリンパ組織では顕著なリンパ球の減少、多数のマクロファージに両染性ないし塩基性ブドウ房状細胞質内封入体の形成及び多核巨細胞・顆粒球の浸潤が認められ、一部では線維性結合組織の増生が認められた。肺ではしばしばマクロファージ及び好酸球の集簇巣が認められた。また、全身諸臓器組織ではグラム陰性細菌塊が認められた。マウス抗PCV2抗体(動衛研)を用いた免疫染色では全身諸臓器組織のマクロファージの細胞質、一部の肝細胞に陽性反応が認められた。

討議

本症例は鑑別疾病にセレン及びビタミンE欠乏症による肝異栄養症が挙げられる。セレン及びビタミンEの測定は行えていないが、①セレン及びビタミンE欠乏症に特徴的な筋病変が認められなかったこと、②PCV2の局在及び他臓器の病変を考慮し、肝病変はPCV2感染由来の可能性が高いと考えている。一方で、文献的なPCV2由来の肝炎ではリンパ球・組織球の浸潤が顕著であるが、提出症例に単核細胞浸潤が乏しいことに引っ掛かりを覚えている。PCV2由来の肝炎のご経験とその際の組織像について伺いたい。

診断

  • 組織診断:肝線維症、PCV2感染による肝細胞壊死
  • 疾病診断:豚サーコウイルス関連疾病、豚のEscherichia fergusonii感染症

432) 豚の肺

  • 提出者(所属):石塚 駿(茨城県県北家畜保健衛生所)
  • 動物種:豚
  • 品種:LWD
  • 性別:雌
  • 年齢:50日齢
  • 死・殺の別:鑑定殺
  • 解剖日:2022年6月30日
  • 解剖場所:茨城県県北家畜保健衛生所

発生状況及び臨床所見

母豚50頭を含む豚500頭を飼養する一貫農場において、2022年6月2日に豚熱ワクチン接種を実施した豚群72頭を6月12日に豚舎を移動させたところ、移動から2日目以降に、死亡豚が散見するようになり、豚群の半分が死亡した。死亡しない個体についても発育不良を呈するようになった。その後、同一豚舎内の他の豚群においても、発育不良や死亡が確認された。最初に症状が確認された豚群の3頭について原因究明のため病性鑑定を実施した。提出症例は、そのうちの1頭である。

病原検索

細菌学的検査では、肺からActinobacillus pleuropneumoniae(血清型5型)、Salmonella Choleraesuisが分離され、回腸と結腸からLawsonia intracellularisの特異遺伝子が、結腸からBrachyspira pilosicoliの特異遺伝子がそれぞれ検出された。ウイルス学的検査では、豚熱、アフリカ豚熱、豚サーコウイルス3型について全て陰性であった。豚サーコウイルス2型については、提出症例は陰性であったが、病性鑑定を実施した他2頭は、扁桃、脾臓、肺、血清全てで陽性であった。

剖検所見

病性鑑定に供した全頭に重度削瘦が認められた。提出症例では、両肺前葉がモザイク状に暗赤色化し、一部に化膿巣も認められた。また、腸管水腫も認められた。

組織所見(提出標本:肺)

肺では、気管支および細気管支内腔に細菌塊、好中球、滲出液が充満し、気管支上皮の過形成と一部上皮の変性壊死、上皮間に好中球浸潤が認められた。肺胞領域はびまん性に炎症細胞、水腫液、細菌塊、線維素などが充満しており含気部は消失、一部に細菌塊や燕麦細胞を伴う化膿巣が多発巣状に認められた。一部でII型肺胞上皮細胞の過形成、死後増殖を疑う長桿菌が認められた。大型血管では、血管内皮が腫大し、内皮下から血管中膜にかけて炎症細胞浸潤が認められた。胸膜には、線維素析出および炎症細胞浸潤が認められた。結腸では、偽膜形成と細菌塊を伴うびらん、潰瘍が多発性に認められた。偽膜には原虫様構造物が、びらんや潰瘍部には細菌塊と好中球やマクロファージ浸潤が認められた。一部の腸管粘膜上皮ではスピロヘータを疑う偽刷子縁やクリプトスポリジウムの付着が確認された。肝臓では、びまん性に類洞の炎症細胞浸潤、まれに多核巨細胞が観察され、局所ではチフス結節が認められた。

討議

多数の病原体が検出された症例の経験について。

診断

  • 組織診断:豚の細菌塊と燕麦細胞を伴う化膿性線維素性肺炎
  • 疾病診断:豚の豚胸膜肺炎