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第227回つくば病理談話会演題

433) 牛の心臓

  • 提出者(所属):中尾 蘭那(動物検疫所門司支所検疫第2課)
  • 動物種:牛
  • 品種:雑種
  • 性別:去勢雄
  • 年齢:10~12カ月齢
  • 死・殺の別:斃死
  • 解剖日:2022年6月27日
  • 解剖場所:動物検疫所門司支所新門司検疫場

発生状況及び臨床所見

2022年6月14日にオーストラリアから輸入された肥育用牛1,248頭中の1頭で、検疫1日目(6/15)から活力低下、呼吸促迫、起立忌避傾向が認められたため個別管理を行った。個別管理後も起立不能及び活力低下が続き、検疫9日目以降は40°C以上の発熱が継続し、聴診において心音は微弱であった。その後検疫13日目の早朝に死亡を確認した(推定死後12時間前後)。

病原検索

心臓、心嚢水、肝臓、肺からStreptococcus dysgalactiae subsp. dysgalactiaeが分離された。

剖検所見

心臓では心室中隔及び左心室の心筋全域に白色病巣が散在しており、左心室内に疣贅物が認められた。また、心膜腔内に血様心嚢水が貯留していた。肝臓は腹膜と癒着し、脆弱化及び退色が認められ、胆嚢内に黒色の泥状胆汁が貯留していた。肺では左右前葉の充うっ血が認められた。

組織所見(提出標本:心臓)

左心室の心筋で多病巣性に膿瘍形成が認められた。同部位の心筋細胞は変性・壊死し、周囲は炎症細胞浸潤を伴う線維性結合組織の増生が認められた。肝臓ではび漫性に肝細胞壊死が認められ、小葉中心~中間帯性に空胞変性がみられた。一部小葉間結合織内や小葉間静脈内に球菌及び桿菌が集蔟していた。肺では肺胞壁が軽度に肥厚し、肺胞腔内には漿液が充満し、中等度の出血、好中球を主体とした炎症性細胞の浸潤、線維素析出が認められた。また、一部で細菌塊が認められた。その他、腎臓、脾臓、浅頚リンパ節内に細菌塊が認められた。心臓、肝臓及び肺についてLancefield血清型C群の抗体による免疫染色を依頼中(動衛研)。

討議

牛では三尖弁に疣贅が形成されることが多いとされているが、本症例では左心室で疣贅物が見られた。肺炎から波及した可能性があると考えられるか。類似症例のご経験があれば、御教示いただきたい。

診断

  • 組織診断名:牛のStreptococcus dysgalactiae subsp. dysgalactiaeが関与した多病巣性化膿性心筋炎
  • 疾病診断名:牛のStreptococcus dysgalactiae subsp. dysgalactiaeが関与した多病巣性化膿性心筋炎

434) 鶏の胸骨滑液包の黄色凝塊物

  • 提出者(所属):萩原 寛子(共立製薬株式会社)
  • 動物種:採卵鶏
  • 品種:ボリスブラウン
  • 性別:雌
  • 年齢:131日齢
  • 死・殺の別:鑑定殺
  • 解剖日:2022年6月1日

発生状況及び臨床所見

約16万羽規模の養鶏場の複数の育成舎において、オイルワクチン接種後から徐々に減耗が観察された。検査を実施した約3万飼養の鶏舎では、ワクチン接種後から130日齢間に産卵見込みの無い削瘦鶏の淘汰も含めると約1.8%の減耗が確認された。削痩した4検体について病性鑑定を実施した。

病原検索

細菌学的検査では、3/4検体の気管、2/4検体の足根間関節及び中足趾節関節、頸部皮下の黄色凝塊物からMycoplasma synoviaeが分離された。その他、後肢の関節、肝臓、脾臓及び胸部及び頸部の黄色凝塊物を材料とした一般細菌検査では、有意な菌は分離されなかった。遺伝子検査では、全検体の気管、後肢の関節および胸部の黄色凝塊物からMS遺伝子、全検体の気管からIB遺伝子が検出された。

剖検所見

検査を実施した全検体に削痩が観察され、3/4検体の足根間関節及び中足趾節関節は腫脹し、割面では黄白色滲出液やチーズ様物が観察された。また、同3/4検体の胸部皮下(胸骨滑液包)に黄色凝塊物が多量に確認され、同様の凝塊物は1/4検体の頸部皮下にも少量観察された。

組織所見(提出標本:胸骨滑液包の黄色凝塊物)

胸骨滑液包の黄色凝塊物は著しい線維素の析出と偽好酸球から構成されており、多核巨細胞やマクロファージが周囲を囲み、凝塊物と筋層間には結合組織の増生が観察された。胸筋では広範囲に筋線維の大小不同の萎縮がみられ、深部では周囲の線維化を伴うオイルシストによる小肉芽腫が複数みられた。足根間関節及び中足趾節関節の滑膜は、絨毛状に過形成し、多層化した滑膜細胞の増生と表層の線維素析出、リンパ球、形質細胞及び偽好酸球浸潤が観察された。関節包や滑液包の腔内には、剥離した滑膜上皮、偽好酸球浸潤及び線維素析出が認められ、滑膜下組織では、水腫、偽好酸球浸潤を主とした炎症性細胞浸潤も観察された。また、骨髄では水腫が認められた。ウサギ抗Mycoplasma synoviae抗体(動衛研)を用いた免疫染色では、気管、後肢関節及び胸部病変部に陽性反応が確認された。

討議

胸骨滑液包内における病変と関節炎を併発しているご経験について、ご教授お願い致します。

診断

  • 組織診断:採卵鶏のMycoplasma synoviaeによる線維素および偽好酸球塊からなる胸骨滑液包炎、筋線維の萎縮およびオイルアジュバンド性肉芽腫
  • 疾病診断:Mycoplasma synoviaeによる鶏マイコプラズマ症(関節炎および胸骨滑液包炎)

435) 牛の心臓

  • 提出者(所属):土合 理美(栃木県県央家畜保健衛生所)
  • 動物種:牛
  • 品種:ホルスタイン種
  • 性別:雌
  • 年齢:4日齢
  • 死・殺の別:斃死
  • 解剖日:2021年12月20日
  • 解剖場所:栃木県県央家畜保健衛生所

発生状況及び臨床所見

乳用牛及び肉用牛を57頭飼育する施設で、2021年12月20日にホルスタイン種の子牛1頭が死亡した。提出症例は出生時から体格が小さく、体温がやや低い状態が続いていたが、初乳摂取及び自力ほ乳は可能であり、下痢や呼吸器症状は確認されなかった。2021年12月19日にミルクを飲まず起立不能となり、翌20日朝に死亡が確認されたため、病性鑑定を実施した。

病原検査

提出症例の尿を用いて実施したウイルス学的検査では、牛ウイルス性下痢ウイルスの特異遺伝子は検出されなかった。細菌学的検査では、肝臓及び心臓からPasteurella属菌、腎臓及び肺からAeromonas属菌が分離された。

剖検所見

提出症例の体格は小さく、やや削痩していた。心奇形は認められなかったが、心尖部の左心室壁及び中隔の心筋層に黄色の変性または壊死巣を中等度から重度広範に認めた。右肺は暗赤色を呈し、右肺前葉前部は硬結感を有した。左肺では散在性の軽度充うっ血を認めた。胸腺重量は55gだった。

組織所見(提出標本:心臓)

心臓では、左心室壁から心室中隔にかけて筋線維の好酸性の増加、空胞形成、壊死及び結合組織による置換を認め、周辺の筋間結合組織で出血、膠原線維増生、マクロファージの浸潤、黄褐色色素沈着を多数認めた。同様の出血及びマクロファージの浸潤像は心外膜及び弁膜でも認められ、心室中隔近傍の心外膜血管内に線維素及びマクロファージ主体の血栓を散見した。同部位のマッソン・トリクローム染色では、左心室から心室中隔にかけて、重度広範に青染する領域を認めた。グラム染色では明瞭な菌体を認めなかった。肺では重度うっ血及び軽度びまん性の漏出性出血を認め、泡沫状マクロファージ及び赤血球貪食マクロファージを散見した。右肺では全葉で重度びまん性の線維素化膿性気管支肺炎を呈し、気管支、細気管支、肺胞壁及び小葉間結合組織に好中球及びマクロファージの浸潤、線維素の析出及び炎症部周辺に多量のグラム陰性短桿菌を認めた。左肺では同様の病変を巣状に多数認めた。

討議

本症例は心臓の病理所見から、発生から1週間程度が経過した心筋梗塞であると考えられ、出生前に発症したものと推察された。類似症例の御経験について、またこのような病態を引き起こす感染症について、御教示願いたい。

診断

  • 組織診断:子牛の左心室から心室中隔にかけての線維化及びマクロファージ浸潤を伴う心筋壊死
  • 疾病診断:エロモナス属菌による線維素化膿性気管支肺炎、心筋梗塞