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436) 豚の肺

発生状況及び臨床所見

総飼養頭数14,000頭規模の一貫経営養豚場の離乳豚のみを飼養する農場(5,500頭規模)において、40日齢前後の離乳豚が下痢、発熱を呈し死亡する事例が多発したため、病性鑑定を実施した。当該豚はCSFVワクチンを2022年4月19日に接種済みであった。

病原検索

ウイルス学的検査の結果、脾臓、腎臓および口蓋扁桃を用いたRT-PCRでペスチウイルス特異的遺伝子が検出され、RFLP法および遺伝子系統樹解析でCSFVと確認された。細菌学的検査の結果、肺からPasteurella multocida が分離された。その他の主要臓器および大脳から有意な細菌は分離されなかった。

剖検所見

鼻鏡、眼瞼、耳翼、臀部、大腿部にチアノーゼがみられた。肺は全体に退縮不全であり、右前葉前部および後部、中葉、副葉、右後葉頭側、左後葉頭側は境界明瞭に赤褐色を呈し、硬度を増していた。前縦隔リンパ節は暗赤色を呈し拇指頭大に腫大し、後縦隔リンパ節は腫大し数珠状を呈していた。脾臓は重度に腫大し、割面において針先大～帽針頭大の暗赤色変化が多発していた。心臓では心冠脂肪組織の膠様萎縮がみられ、黄色にやや混濁した心嚢水が貯留していた。肝リンパ節、腸間膜リンパ節、体表リンパ節(耳下腺、下顎、浅頸、腸骨下、鼠径)は腫大し、割面は暗赤色を呈していた。

組織所見(提出標本:肺)

肺では、気管支、細気管支および肺胞に好中球、マクロファージおよび線維素を容れていた。全体に肺胞壁はII型肺胞上皮細胞の増生やマクロファージの浸潤により肥厚していた。肝臓では、小葉間結合組織は単核円形細胞の浸潤により拡張していた。胆嚢の粘膜固有層は単核円形細胞の浸潤により肥厚していた。脾臓では、リンパ球の減少により白脾髄は萎縮しており、赤脾髄において巣状の出血が多発していた。大脳および小脳の髄膜、脈絡叢では単核円形細胞の浸潤がみられた。大脳、小脳および中脳の灰白質において軽度～中等度の囲管性細胞浸潤が認められた。各臓器付属リンパ節、体表リンパ節においてリンパ球の減少がみられた。マウス抗PRRSV抗体(RTI)を用いた免疫染色では、肺胞壁に浸潤したマクロファージの細胞質に陽性反応がみられた。CSFVの免疫染色については動衛研に依頼中。

討議

本症例は、CSFVとPRRSVに同時感染していたと考えられ、PRRSVについては肺の免疫染色において自身の経験にないほどの多数の陽性反応が認められた。これはCSFV感染による影響と考えてよいか、ご教授願いたい。

診断

437) 豚の結腸

発生状況及び臨床所見

肉用豚約120頭を飼育する放牧養豚場において、2022年5月に導入した群で下痢及び死亡が散発すると報告があり、 6月30日死亡個体について病性鑑定を実施した。当該農場では、前月末にも血便を主訴に死亡豚1頭及び同居豚6頭の糞便の病性鑑定を実施しており、その結果、死亡豚の寄生虫検査では鞭虫及び回虫卵陽性、同居豚の寄生虫検査ではコクシジウム(5/6)、鞭虫(1/6)陽性、遺伝子検査では豚赤痢菌(1/6)、結腸スピロヘータ(4/6)、Lawsonia intracellularis(4/6)陽性が確認されていた。

病原検査

ウイルス学的検査によりCSFV、ASFVおよびPCV2遺伝子陰性、PRRSV遺伝子陽性が確認された。細菌培養では、肺から大腸菌及び連鎖球菌、肝臓からCNS及び連鎖球菌、脳からグラム陰性桿菌が分離された。また腸内容物のPCR検査では、豚赤痢菌、結腸スピロヘータ、Lawsonia intracellularisは陰性が確認された。腸内容物の寄生虫検査では、コクシジウム及び線虫卵は検出されなかった。

剖検所見

外貌では削痩と眼窩陥凹を認めた。肝臓では軽度にミルクスポットを認めた。小腸内容は乏しく、粘膜は赤褐色・菲薄化を呈した。腸間膜リンパ節は軽度に腫大を呈した。盲腸内容物は暗赤色水様性を呈した。結腸から直腸内に白色線虫を少量認めた。結腸粘膜下に5mm前後の白色結節を散在性に認めた。肺では一部肺小葉が軽度に暗赤色を呈した。

組織所見(提出標本:結腸)

結腸では、管腔内に細胞退廃物を含む粘液の付着を認めた。陰窩は粘液の貯留を伴って拡張し、粘膜下組織には類上皮細胞及び線維芽細胞に被包された5mm前後の膿瘍を散在性に認めた。膿瘍内には壊死組織、線虫断面、細菌塊を認めた。Warthin-Starry染色では拡張した陰窩内等に大型らせん菌は認められなかった。その他、肺では一部小葉で軽度の肺胞壁肥厚を認めるが抗PRRSV兎血清を用いた免疫染色では陰性を示した。肝臓では軽度に小葉間結合組織の増生と炎症細胞浸潤を認めた。空腸では死後変化の亢進、粘膜固有層への炎症細胞浸潤、パイエル板のリンパ球減少を認めた。

討議

本症例は、過去の類似症例(2011年家畜衛生研修会:No,14)に比較して豚鞭虫寄生数が少ない一方で粘膜下組織の病変形成が激しい印象を受けました。類似の病変形成に関して、必ずしも鞭虫の寄生量に影響されるものではないのか、知見があればご教示下さい。

診断

438) 鹿の回腸

発生状況及び臨床所見

都内展示施設より、鹿が下痢や削痩等を呈して一部が死亡するなど、抗酸菌の感染を疑う異状を確認した旨の連絡を受け、2021年6月、病性鑑定を実施した。死亡鹿及び同居鹿の糞便を用いたヨーネ病リアルタイムPCRで定量陽性となり患畜と決定した。患畜の決定以降、自衛殺及び斃死個体について病性鑑定を実施し、最終的に対象数は18頭となった。

病原検査

糞便、腸管、腸間膜リンパ節を用いたヨーネ病リアルタイムPCR陽性。また、ヨーネ菌分離培養で陽性となった分離菌について型別検査を実施し、牛型と判定。※検査の一部を農研機構動物衛生研究部門へ依頼。

剖検所見

高度に削痩し、下痢による臀部の汚れを認めた。腹腔内には線維素が析出し、腸管が癒着していた。腸管の漿膜面は赤色を呈し、空回腸壁の菲薄化を認めた。

組織所見(提出標本:回腸及び付属リンパ節)

回腸では粘膜固有層に多核巨細胞を伴う類上皮細胞の高度の浸潤を認め、粘膜固有層は肥厚し、腸絨毛の脱落や短小化がみられた。回腸付属リンパ節では辺縁洞や皮質への浸潤が顕著であり、リンパ節の固有構造が置換されていた。類上皮細胞及び多核巨細胞の細胞質内にチールネルゼン染色陽性の菌体を認めた。類上皮細胞の浸潤は、空腸及び付属リンパ節、回盲部においても高度にみられたが、十二指腸、盲腸、結腸及び直腸では軽度であった。肝臓では散在性に微小の壊死や肝細胞の空胞変性、類洞の拡張を認めた。

討議

類似症例についてご経験がありましたら、ご教授お願い致します。

診断