454) 山羊の乳房
- 提出者(所属):松本 裕治(埼玉県中央家畜保健衛生所)
- 動物種:山羊
- 品種:トカラヤギ
- 性別:雌
- 年齢:62カ月齢(2018年2月8日生まれ)
- 死・殺の別:斃死
- 解剖日:2023年4月17日
- 解剖場所:埼玉県中央家畜保健衛生所
発生状況および臨床所見
山羊8頭、めん羊4頭を飼養する動物展示施設において、当該山羊が2023年3月18日に出産(初産)し、翌19日に食欲廃絶を呈した。同月20日には血乳がみられたことから管理獣医師が急性乳房炎と診断し治療を実施したが改善はされなかった。翌月10日から発咳や呼吸速迫がみられ、16日に起立不能及び呼吸困難を呈し死亡したことから、原因究明のため病性鑑定を実施した。
病原検索
細菌学的検査では、肝臓、脾臓、肺、胸水及び心嚢水からレンサ球菌が分離された。右乳房のパラフィン包埋ブロックからレンサ球菌属菌の特異的遺伝子検出を検討中。
剖検所見
右乳房において腫大、硬結及び乳頭に痂皮の形成がみられ、乳房内部には乳房炎軟膏が貯留していた。右胸腔内には灰白色混濁胸水が多量に貯留し、胸壁に線維素が析出していた。右肺前葉及び中葉は重度に萎縮し、後葉は萎縮、硬結及び胸壁に線維性に重度癒着していた。左肺は退縮不全がみられ、線維性に胸壁と一部癒着していた。気管支リンパ節及び肝門リンパ節は腫大し、割面は膨隆していた。
組織所見(提出標本:乳房)
右乳房では、乳腺組織の壊死、結合組織増生がみられた。増生した結合組織では辺縁部にリンパ球、マクロファージの浸潤がみられ、結合組織周囲に変性好中球の浸潤、線維素の析出がみられた。また、乳管腔内及び腺胞腔内に細菌塊がみられた。左乳房では、著変は見られなかった。肺では、右肺前葉で重度に結合組織が増生し、肺構造が消失していた。右肺後葉及び左肺後葉で気管支腔内に好中球、リンパ球が浸潤し、一部で膿瘍の形成がみられた。肺胞腔内は漿液の貯留、好中球、リンパ球の浸潤、線維素の析出が認められた。グラム染色で右乳房の乳管腔内及び腺胞腔内、右肺後葉の肺胞腔内でグラム陽性球菌が認められた。
討議
山羊の乳房炎について、原因、診断は牛の乳房炎に準ずると記載された文献があり、本症例は牛の乳房炎に準じて診断しました。山羊の乳房炎について知見がございましたらご教授いただければ幸いです。
診断
- 組織診断:山羊のグラム陽性球菌による乳房炎
- 疾病診断:乳房炎、レンサ球菌による化膿性線維素性気管支肺炎
455) 鶏の腎臓
- 提出者(所属):石原 希朋(山梨県東部家畜保健衛生所)
- 動物種:鶏
- 品種:ジュリアライト
- 性別:雌
- 年齢:160日齢
- 死・殺の別:斃死
- 解剖日:2023年12月11日
- 解剖場所:山梨県東部家畜保健衛生所
発生状況および臨床所見
令和5年12月11日に飼養規模約18万羽の採卵鶏農場の1鶏舎(飼養羽数約3万羽)で死亡鶏が通常約3羽のところ、24羽に増加しているとの通報があり、A型インフルエンザ簡易検査を13羽(死亡鶏11羽、衰弱鶏2羽)に実施し、全羽陰性を確認した。死亡鶏は鶏舎全体に散在して観察された。簡易検査に供した死亡鶏のうち6羽(No.1~6)について病性鑑定を実施した。本症例はそのうちのNo.6である。当該鶏群は系列育雛場から導入され、孵化場及び育雛場において鶏伝染性気管支炎ウイルス(IBV)ワクチン(C-78株、ON株、TM-86株、AK01株、練馬株、H120株)を接種されていた。
病原検索
遺伝子検査ではNo.2、3、5、6のクロアカスワブからIBV特異遺伝子が検出され、発育鶏卵によるウイルス分離検査では全羽の腎臓及びNo.2、5のクロアカスワブからIBVが分離された。分離されたIBVはS1遺伝子型別RFLPにて、JP-I型に分類され、シーケンス解析の結果、IB生ワクチン株であるS95株と遺伝的に近縁(99.53~99.85%)であった。
剖検所見
頭部から頸部が背方向に屈曲していた。
組織所見(提出標本:腎臓)
腎臓では、間質にリンパ球が中等度に浸潤していた。尿細管や集合管では管腔が拡張し、上皮は扁平化し、変性していた。また、尿細管内腔には好酸性球状または針状の結晶がみられた。また、針状の結晶周囲に異物型多核巨細胞やマクロファージの浸潤した痛風結節も多発性に観察された。マウス抗IBV抗体(HyTest)を用いた免疫染色では尿細管上皮に一致して陽性像が観察された。No.1~5についても、同様の所見が認められた。気管では粘膜固有層に軽度のリンパ球浸潤が観察されたが、線毛の消失はみられなかった。
討議
分離されたIBVはワクチン株(S95株)と遺伝子的に近縁であった。同様にS95株と近縁株の症例経験がある方は病変分布についてご教授願いたい。また、本症例では炎症細胞はリンパ球主体であり、尿酸塩沈着が高頻度にみられたことから慢性経過と考えて良いか。
診断
- 組織診断:採卵鶏における鶏伝染性気管支炎ウイルス(遺伝子型JP-I)による尿細管間質性腎炎
- 疾病診断:鶏の鶏伝染性気管支炎(腎炎型)