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第236回つくば病理談話会演題

456) 牛の結腸

  • 提出者(所属):宮﨑 貴生(静岡県中部家畜保健衛生所)
  • 畜種:牛
  • 品種:黒毛和種
  • 性別:雄
  • 年齢:約5カ月齢
  • 死・殺の別:死亡
  • 解剖日:2022年12月14日
  • 解剖場所:静岡県西部家畜保健衛生所

発生状況および臨床所見

2022年12月14日に、総飼養頭数900頭の肉用育成・肥育農場にて、約5か月齢の子牛が血便を呈して死亡したため病性鑑定を実施した。当該牛には発病時、ダイメトンを投与するも症状の改善はなく、3日後に死亡した。立入時、農場内で下痢が広がっている様子はなかったが、40°C以上の発熱を呈する子牛が散発していた。

病原検索

解剖牛の糞便から牛コロナウイルス(BCV)特異遺伝子が検出され、肺からはMannheimia haemolytica血清型1型が分離された。また、近隣ハッチで飼養されている牛の糞便からBCV、A群ロタウイルス、牛トロウイルス、牛アデノウイルス特異遺伝子が検出された。なお、病性鑑定を実施した解剖牛及び同居牛においてBVDV特異遺伝子は検出されなかった。

剖検所見

結腸及び直腸は充出血がみられ、泥状の下痢便が貯留していた。胸腔には赤色胸水が少量貯留し、肺と胸壁は線維素性に癒着していた。また、肺は左右の前葉から後葉の頭側1/3にかけて硬結感と強い出血がみられた。

組織所見(提出標本:結腸)

結腸では陰窩ヘルニアが多発性にみられ、内腔には粘液や細胞退廃物、好中球等が貯留し、重度に拡張していた。また、多くの陰窩で上皮細胞の剥離や内腔の軽度拡張、一部ではコクシジウムの寄生がみられた。
肺では周囲に燕麦細胞を伴う肺胞壁の凝固壊死が巣状にみられ、広範囲で肺胞腔内に線維素の析出や出血がみられた。また、胸膜は線維素の析出及び好中球の浸潤により肥厚し、小葉間結合組織は水腫性に拡張していた。

討議

本症例は免疫低下に伴うパイエル板のリンパ球減少により陰窩ヘルニアが形成され、コロナウイルス感染による粘液分泌亢進によって特徴的な病変を形成したと考察している。しかし、過去の牛コロナウイルス病の症例とはあまり類似していないように感じるので、本症例の病変形成機序や他の原因の可能性、類似症例のご経験等ありましたらご教授ください。また、本症例で散見されたコクシジウムの病変への寄与の程度等も併せてご討議頂きたい。

診断

  • 組織診断:糞便から牛コロナウイルス特異遺伝子が検出された牛における陰窩ヘルニア及び陰窩上皮細胞の剥離を特徴とするカタル性結腸炎
  • 疾病診断:牛コロナウイルス病を疑う、牛マンヘミア症

457) 牛の心臓

  • 提出者(所属):伊藤 咲(神奈川県県央家畜保健衛生所)
  • 畜種:牛
  • 品種:ホルスタイン種
  • 性別:雌
  • 用途:乳用
  • 年齢:胎齢4カ月齢
  • 死・殺の別:流産
  • 解剖日:2021年11月16日
  • 解剖場所:神奈川県県央家畜保健衛生所

発生状況および臨床所見

2021年11月16日に乳用牛40頭を飼養する農場において、胎齢約4ヵ月齢での流産が発生し同日病性鑑定を実施した。当該母牛は、3産目で2産目も2021年5月7日に流産(胎齢約4ヵ月齢)している。また、当該農場では2020年末から3~4頭流産が発生しており、2021年6月以降牛ウイルス性下痢ウイルス(BVDV)2型によるPI牛が5頭摘発されている。同居動物はいないが、過去にタヌキ及びネコの牛舎への侵入を認めた。

病原検索

ウイルス学的検査では、胎子の脳、脊髄、肺、肝臓、腎臓、脾臓を用いてペスチウイルス特異遺伝子検索を実施したところ、全ての臓器で検出されなかった。また、当該母牛及び周辺乳牛2頭のペア血清を用いて、アカバネウイルス、アイノウイルス、チュウザンウイルス、イバラキウイルス、牛流行熱ウイルス、BVDVの中和抗体検査を実施したところ、同居牛2頭においてBVDV1型の抗体上昇が確認され、母牛及び同居牛2頭においてBVDV2型の抗体上昇が確認された。細菌学的検査では、母牛の膣スワブからAerococcus urinaeが分離された。寄生虫学的検査において、流産母牛の血清、流産胎子の胸水を用いたネオスポラ蛍光抗体検査を実施したところ、母牛陽性、胎子陰性であった。

剖検所見

提出症例の体重は0.9kg、体長約30cmで赤色調を呈しており、脳は融解していた。

組織所見(提出標本:心臓)

心臓では心外膜、心内膜にリンパ球および形質細胞の浸潤、心外膜側の心筋線維間を中心にリンパ球の浸潤、広範囲に心筋細胞の横紋構造や核の消失(死後変化)が認められた。肝臓及び脾臓では髄外造血が認められた。腎臓では尿細管間質にシストが散見された。舌及び骨格筋では筋線維間にリンパ球及び形質細胞の浸潤が認められた。心臓、腎臓、舌、骨格筋について抗Neospora caninum家兎血清(動衛研)を用いて免疫組織化学染色を行ったところ、全てでタキゾイトに陽性像が認められた。

討議

成書には臓器中のネオスポラの分布は、脳、腎臓、舌、脊髄の順で多いとされているが、本症例では脳および脊髄に陽性反応は認められなかった。また、神奈川県内で直近に発生したネオスポラ症の胎子においても同様の結果であった。そのため、近年の組織病態について知見をいただきたい。

診断

  • 組織診断:牛流産胎子のNeospora caninumによる非化膿性心外膜炎、心内膜炎、心筋炎
  • 疾病診断:牛のネオスポラ症

458) 牛の脊髄

  • 提出者(所属):竹澤 詩穂(茨城県県北家畜保健衛生所)
  • 畜種:牛
  • 品種:黒毛和種
  • 性別:雄
  • 年齢:42日齢(2024年3月21日生)
  • 死・殺の別:死亡
  • 解剖日:2024年5月2日
  • 解剖場所:茨城県県北家畜保健衛生所

発生状況および臨床所見

繁殖母牛約200頭、肥育牛約700頭を飼養する一貫農場において、4月30日に子牛で遊泳運動がみられた。加療するも翌朝には哺乳欲なく、5月1日17時に死亡を確認。翌日、原因究明のため病性鑑定を実施した。母牛は初産で、本症例は過大子(54kg)のため難産で牽引され、育児放棄のため初乳製剤を与えられていた。3月26日に下痢、4月19日には元気消失及び40.3°Cの発熱により診療されていたが、加療後改善がみられていた。

病原検索

細菌学的検査では、脳、脳脊髄液、肺、心臓、肝臓、脾臓、腎臓、関節液からEscherichia coliが分離された。O抗原の血清型別について検索中。ウイルス学的検査では、脳、肺、肝臓、脾臓を用いたPCRで牛ウイルス性下痢ウイルス陰性であった。

剖検所見

外貌では右頚部に硬結感のある傷跡があり、臀部及び尾部には下痢便が付着し汚れていた。脊髄では、髄膜は肥厚しており、髄膜内は出血し膨満していた。大脳では、髄膜混濁及び血管充盈が認められた。肺の前葉では胸壁との線維性の癒着がみられ、暗赤色で硬結感があった。右前葉の割面では、微小膿瘍が多数みられた。心臓では、心嚢膜と心外膜の線維素性の癒着がみられた。左腎臓では腎盂内に白色液体が貯留していた。第四胃内にはわら状の食渣が確認され、約1cm四方の範囲で粘膜が肥厚している部分がみられた。大腿骨頭内には両側で黄白色線維様物が付着しており、関節液は混濁していた。

組織所見(提出標本:脊髄)

脊髄(提出標本)では、クモ膜下腔に好中球を主体とする炎症性細胞が重度に浸潤し、線維素の析出を伴っていた。病巣内には短桿菌が多数認められた。硬膜下にはマクロファージや好中球の浸潤がみられ、出血が顕著であった。灰白質では、好中球が広範囲に浸潤しており、血管壁は壊死し、周囲の神経網は好酸性を増していた。白質の血管には好中球を主体とする囲管性細胞浸潤がみられ、周囲には線維素が析出していた。灰白質との境界部の白質では好中球の軽度浸潤がみられた。大脳では、髄膜に好中球及びマクロファージを主体とする細胞が中等度から重度に浸潤し、線維素の析出、血管のうっ血及び拡張がみられ、肥厚していた。実質では、好中球の浸潤、微小出血が散見され、好中球やマクロファージによる囲管性細胞浸潤がみられた。一部では血管壁への細胞浸潤や壊死もみられた。髄膜や微小出血の部位に短桿菌が多数認められた。肺ではびまん性にうっ血がみられ、気管支腔内に好中球や細胞退廃物が充満し、その周囲にマクロファージの浸潤がみられた。肺胞腔内には好中球やマクロファージが浸潤していた。心臓では、心外膜に軽度にマクロファージの浸潤がみられた。腎臓では、腎盂の結合組織に好中球が浸潤していた。四胃では肉眼病変に一致して潰瘍が認められた。頚部皮膚では筋層の深部で出血がみられた。

討議

死後変化についてご教授ください。また、細菌の感染経路、感染時期についてご意見いただけますと幸いです。

診断

  • 組織診断:子牛の化膿性髄膜脊髄炎
  • 疾病診断:子牛のExPEC感染症を疑う