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第239回つくば病理談話会演題

465) 豚の肺・気管気管支リンパ節

  • 提出者(所属) : 中村 素直(JA全農 家畜衛生研究所)
  • 畜種 : 豚
  • 品種 : LWD
  • 性別 : 不明
  • 年齢 : 2カ月齢
  • 死・殺の別 : 鑑定殺
  • 解剖日 : 2025年3月4日
  • 解剖場所 : 農場

発生状況および臨床所見

飼養頭数13,000頭規模の養豚場で2024年4月から3,000頭収容の子豚舎(500頭/ロット)で豚群内の体重のバラつき、死亡頭数が増加したため、5月に病性鑑定を実施し、豚サーコウイルス2型(PCV2)が原因と診断された。対策として離乳前および離乳時に子豚へのワクチン接種を開始した。2025年3月から再び子豚の発育不良が認められたため、当所に気管気管支リンパ節を含む肺、鼠径リンパ節、腎臓が病性鑑定に供された。

病原検索

肺、肺門リンパ節、鼠径リンパ節からの定量PCRではPCV2遺伝子が12.83~13.08 log copies / mL検出された。PRRSウイルス遺伝子は肺で4.54 log copies / mL検出され、気管気管支リンパ節、鼠径リンパ節では検出限界以下であった。その他の病原体検索は、実施していない。

剖検所見

送付された肺左前葉前部、後部、副葉は退縮不全を示し、末梢は桃赤色に充実していた。後葉は全体が赤色を呈し、小葉間結合組織が明瞭であった。気管気管支リンパ節は暗赤色になり、腫大していた。腎臓は全体に1~3 mm径の白斑を多数認めた。割面では皮質に放射状の白色巣を認めた。

組織所見(提出標本 : 肺、気管気管支リンパ節)

肺胞中隔はリンパ球、マクロファージ浸潤、線維素血栓形成により多病巣性から融合性に肥厚していた。肺胞腔内にはマクロファージが浸潤し、II型肺胞上皮細胞が顕著に増生していた。小葉間結合組織は水腫性に拡張して、リンパ管内腔に赤血球、線維素、マクロファージが流入していた。気管支粘膜上皮は増生し、気管支粘膜固有層にはリンパ球が浸潤していた。各リンパ節ではリンパ球が減少して細網細胞が増生していた。同部ではマクロファージが浸潤し、小柱周囲洞に首座する多数の多核巨細胞を形成していた。腎臓では多病巣性に尿細管上皮細胞が変性、壊死し周囲にリンパ球、マクロファージが浸潤していた。抗PCV2ウサギポリクローナル抗体(当所作製)を使用した免疫組織化学染色により肺胞腔内、気管支、血管周囲に浸潤するマクロファージの細胞質内に陽性抗原を認めた。そのほかリンパ節のマクロファージ、多核巨細胞の細胞質内、腎臓のマクロファージ、尿細管上皮の細胞質内に陽性抗原を認めた。

討議

今回の症例は病理組織学的に、他の病原体の関与のないPCV2による肺炎と考えました。典型例と考えてよいか、また組織診断の妥当性について討議をお願いします。同農場での5月時点での肺炎は肺胞中隔での血管炎を特徴とする肺炎でした。本症例との組織像の相違点は感染時期の違いと考えましたが、皆様のご意見をお聞きしたく存じます。

診断

  • 組織診断 : PCV2感染による多病巣性リンパ球組織球性間質性肺炎
    多核巨細胞を伴うびまん性組織球性気管気管支リンパ節炎
  • 疾病診断 : 離乳後多臓器性発育不良症候群(PMWS)

466) 牛の肝臓

  • 提出者(所属) : 石原 希朋(山梨県東部家畜保健衛生所)
  • 畜種 : 牛
  • 品種 : ホルスタイン種
  • 性別 : 雌
  • 年齢 : 58カ月齢
  • 死・殺の別 : 鑑定殺
  • 解剖日 : 2024年10月24日
  • 解剖場所 : 農場敷地内埋却地

発生状況及び臨床症状

令和6年10月に搾乳牛約40頭の酪農場において、家畜伝染病予防法第5条によるヨーネ病定期検査のため、抗体検査を実施したところ、1頭が陽性(ELISA値:0.89)となり、遺伝子検査でヨーネ病患畜(142.17pg/2.5µl)となった。家畜伝染病予防法に基づき、殺処分し、ヨーネ病検査マニュアルに従い腸管・腸間膜リンパ節を採材し、肝臓・腎臓についても採材した。摘発時に臨床症状は認めず、妊娠約9カ月であった。本農場では初めての発生であった。

病原検索

マイコバクチン加ハロルド培地を用いて、十二指腸~直腸の消化管内容物、空腸部・回腸部・回盲部腸間膜リンパ節及び乳房上リンパ節について37°C、3ヶ月、好気培養したところ、空腸~直腸の消化管内容物及び空腸部・回腸部・回盲部腸間膜リンパ節でヨーネ菌が分離された。このほかの病原検査は行っていない。

剖検所見

空腸・回腸はホース様に肥厚し、回腸粘膜はワラジ状を呈していた。空腸部・回腸部・回盲部腸間膜リンパ節は顕著に腫大していた。肝臓及び腎臓では著変はみられなかった。

組織所見(提出標本 : 肝臓)

肝臓では類上皮細胞を主体とした肉芽腫が散在していた。血管周囲にはマクロファージ及びリンパ球が中等度に浸潤していた。チール・ネルゼン染色では類上皮細胞や多核巨細胞の細胞質内に少数の菌体が観察された。回腸では粘膜固有層から粘膜下組織にかけて類上皮細胞が重度に浸潤していた。粘膜下組織は水腫性に肥厚していた。空腸部・回腸部・回盲部腸間膜リンパ節はいずれも皮質を中心に類上皮細胞が重度に浸潤し、水腫性に肥厚していた。チール・ネルゼン染色では十二指腸~直腸の粘膜固有層、回腸の粘膜下組織及び腸間膜リンパ節で抗酸菌が観察され、回腸及び腸間膜リンパ節では多量に菌体が観察された。腎臓では著変はみられなかった。

討議

ヨーネ菌は経口感染後、腸管粘膜のM細胞に取り込まれたのち、パイエル板のマクロファージに運ばれる。その後、種々の実質臓器及びリンパ節に広く拡散し、重度感染の場合、菌血症となるとされている(動物病理学各論第3版)。本症例においても血行性にヨーネ菌が播種し、肝臓に病変を形成したものと推察された。ヨーネ病患畜と診断された場合の病性鑑定ではマニュアル記載部位のみを検査し、実質臓器を検査していない。実質臓器での病変形成について経験がある方は排菌量等についてご教授願いたい。

診断

  • 組織診断 : 牛の肝臓におけるヨーネ菌による多発性肉芽腫
  • 疾病診断 : 牛のヨーネ病