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第229回つくば病理談話会演題

436) 豚の肺(宿題報告)

  • 提出者(所属):水野 剛志(群馬県家畜衛生研究所)
  • 動物種:豚
  • 品種:LWD種
  • 性別:去勢雄
  • 年齢:50日齢
  • 死・殺の別:鑑定殺
  • 解剖日:2022年5月9日
  • 解剖場所:群馬県家畜衛生研究所

発生状況及び臨床所見

総飼養頭数14,000頭規模の一貫経営養豚場の離乳豚のみを飼養する農場(5,500頭規模)において、40日齢前後の離乳豚が下痢、発熱を呈し死亡する事例が多発したため、病性鑑定を実施した。当該豚はCSFVワクチンを2022年4月19日に接種済みであった。

病原検索

ウイルス学的検査の結果、脾臓、腎臓および口蓋扁桃を用いたRT-PCRでペスチウイルス特異的遺伝子が検出され、RFLP法および遺伝子系統樹解析でCSFVと確認された。細菌学的検査の結果、肺からPasteurella multocida が分離された。その他の主要臓器および大脳から有意な細菌は分離されなかった。

剖検所見

鼻鏡、眼瞼、耳翼、臀部、大腿部にチアノーゼがみられた。肺は全体に退縮不全であり、右前葉前部および後部、中葉、副葉、右後葉頭側、左後葉頭側は境界明瞭に赤褐色を呈し、硬度を増していた。前縦隔リンパ節は暗赤色を呈し拇指頭大に腫大し、後縦隔リンパ節は腫大し数珠状を呈していた。脾臓は重度に腫大し、割面において針先大~帽針頭大の暗赤色変化が多発していた。心臓では心冠脂肪組織の膠様萎縮がみられ、黄色にやや混濁した心嚢水が貯留していた。肝リンパ節、腸間膜リンパ節、体表リンパ節(耳下腺、下顎、浅頸、腸骨下、鼠径)は腫大し、割面は暗赤色を呈していた。

組織所見(提出標本:肺)

肺では、気管支、細気管支および肺胞に好中球、マクロファージおよび線維素を容れていた。全体に肺胞壁はⅡ型肺胞上皮細胞の増生やマクロファージの浸潤により肥厚していた。肝臓では、小葉間結合組織は単核円形細胞の浸潤により拡張していた。胆嚢の粘膜固有層は単核円形細胞の浸潤により肥厚していた。脾臓では、リンパ球の減少により白脾髄は萎縮しており、赤脾髄において巣状の出血が多発していた。大脳および小脳の髄膜、脈絡叢では単核円形細胞の浸潤がみられた。大脳、小脳および中脳の灰白質において軽度~中等度の囲管性細胞浸潤が認められた。各臓器付属リンパ節、体表リンパ節においてリンパ球の減少がみられた。マウス抗PRRSV抗体(RTI)を用いた免疫染色では、肺胞壁に浸潤したマクロファージの細胞質に陽性反応がみられた。CSFVの免疫染色については動衛研に依頼中。

討議

本症例は、CSFVとPRRSVに同時感染していたと考えられ、PRRSVについては肺の免疫染色において自身の経験にないほどの多数の陽性反応が認められた。これはCSFV感染による影響と考えてよいか、ご教授願いたい。

診断

  • 組織診断:豚のCSFVとPRRSVによる間質性肺炎、線維素性化膿性気管支肺炎
  • 疾病診断:豚熱、豚繁殖・呼吸障害症候群

439) 牛の肝臓

  • 提出者(所属):島田果歩(千葉県中央家畜保健衛生所)
  • 動物種:牛
  • 品種:ホルスタイン種
  • 性別:雌
  • 年齢:22日齢
  • 死・殺の別:斃死
  • 解剖日:2023年2月27日
  • 解剖場所:千葉県南部家畜保健衛生所

発生状況及び臨床所見

約330頭規模の酪農家で、2023年2月15日に10日齢の双子の子牛1頭が虚脱、起立困難、哺乳活力低下、褐色泥状下痢及び脱水を呈したため、補液、抗生物質により治療した。16日に哺乳活力向上、糞便は正常に戻ったが起立困難はその後も継続し、26日に死亡したため病性鑑定を実施した。体重は25kgであった。他方の子牛は7日齢から元気消失等の症状を呈し、16日齢で死亡した。

病原検査

好気培養下で肝臓、肺からTrueperella pyogenesが分離された。肝臓、臍帯から嫌気培養下でFusobacterium necrophorumが分離され、PCR検査でFusobacterium necrophorum subsp. necrophorumの特異遺伝子が検出された。

剖検所見

臍静脈に乾酪壊死が認められ、肝臓は腹壁及び横隔膜と癒着し、癒着面及び割面に1~5mm大の乾酪壊死が多数認められた。心臓では心室中隔に1cm大の白色病巣が認められた。

組織所見(提出標本:肝臓)

肝臓では、大小不同の多発性の乾酪壊死、小型の膿瘍が認められた。円形の乾酪壊死が融合し、大型で不定形を呈するものもあった。乾酪壊死の辺縁部では中等度の線維素析出、炎症細胞の変性像が高度に認められ、さらに外層では軽度の線維芽細胞の浸潤、線維化により被包化されていた。周囲の実質では、中等度の肝細胞索の乱れ、クッパ―細胞の増数及び好中球の浸潤、うっ血が認められた。グラム染色では、壊死巣にグラム陰性桿菌塊及びグラム陽性桿菌塊が認められた。抗F. necrophorum兎血清(動衛研)を用いた免疫染色では、大型の壊死巣辺縁部から中心部、小型の壊死巣中心部に陽性反応が認められ、抗T. pyogenes兎血清(千葉県)を用いた免疫染色では、大型の壊死巣中心部、小型の壊死巣辺縁部から中心部に陽性反応が認められた。
臍動静脈では内膜から中膜において層状壊死が認められ、辺縁部では線維素析出、炎症細胞の変性像が認められた。心臓では大型の凝固壊死が認められ、周囲に中等度の線維芽細胞の浸潤、線維化が認められた。

討議

他県での臍帯炎から波及した肝炎の症例についてご経験があれば、病変形成と細菌の分布、死亡の原因と考えられた病変についてご教授願います。

診断

  • 組織診断名:牛のFusobacterium necrophorum subsp. necrophorum及びTrueperella pyogenesによる多発性壊死性肝炎
  • 疾病診断名:牛のFusobacterium necrophorum及びTrueperella pyogenes感染症

440) 豚の盲腸

  • 提出者(所属):中村 素直(JA全農 家畜衛生研究所)
  • 動物種:豚
  • 品種:LWD種
  • 性別:雄
  • 年齢:不明(約30kg)
  • 死・殺の別:と殺
  • 解剖日:2022年3月28日
  • 解剖場所:当該農場

発生状況及び臨床所見

肥育養豚場において、繁殖農場から導入した豚に体表蒼白、削痩がみられた。当該農場の獣医師の巡回時に、血便を認めたため、原因解明のため解剖を行った後、当研究所に病性鑑定が依頼された。本症例は当研究所に持ち込まれた3検体のうちの1例である。

病原検査

小腸および盲腸について、サルモネラの分離培養、乳剤を用いたBrachyspira pilosicoliならびにLawsonia intracelluralisのPCR検査を実施したところ、L. intracellularis遺伝子のみが検出された。

剖検所見

外貌は体表蒼白、軽度に削瘦し、小腸はいわゆるゴムホース様に硬結感を有していた。腸管粘膜はポリープ状に隆起し、特に盲腸粘膜は多結節性の隆起と発赤がみられ、内腔は狭窄していた。

組織所見(提出標本:盲腸)

盲腸では陰窩の過形成により粘膜が肥厚していた。表層の粘膜上皮は剥離し、周辺の粘膜固有層では出血を認めた。過形成する陰窩は分岐や蛇行などの組織異型を示していた。陰窩上皮は杯細胞を欠き、核の管腔側への局在や有糸分裂像をしばしば認めた。粘膜固有層ではマクロファージが高度に浸潤し、まれに多核巨細胞を認めた。Warthin-Starry染色では過形成する陰窩上皮細胞の管腔側にコンマ状の桿菌が黒染された。抗L. intracellularis抗体を用いた免疫組織化学染色では陰窩上皮細胞および粘膜固有層の単核球の細胞質に抗原が認められた。

討議

本症例では、(1)盲腸に病変が形成された点、(2)肉眼的にポリープ状の増殖が認められた点、(3)組織学的に粘膜固有層でのマクロファージ浸潤およびL. intracellularis抗原が認められた点が特徴的と考えました。類似病変のご経験をお持ちの方、このような病変形成に至った原因について知見をお持ちの方がいらっしゃいましたらご教授お願い致します。

診断

  • 組織診断:豚のLawsonia intracellularisによる増殖性肉芽腫性盲腸炎
  • 疾病診断:Lawsonia intracellularis感染症(豚増殖性腸症)