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第230回つくば病理談話会演題

441) 牛の回腸

  • 提出者(所属):松本 裕治(埼玉県中央家畜保健衛生所)
  • 動物種:乳用牛
  • 品種:ホルスタイン種
  • 性別:雌
  • 年齢:29カ月齢(2020年3月18日生まれ)
  • 死・殺の別:鑑定殺
  • 解剖日:2022年8月15日
  • 解剖場所:埼玉県ストックポイント

発生状況及び臨床所見

乳用牛61頭を飼養する県機関において、当該牛が2020年7月に下痢を発症し、その後改善するも削痩及び発育不良を呈したことから、原因究明のため病性鑑定を実施した。なお、2022年6月2日に遺伝的不良形質検査を(一社)家畜改良事業団に依頼し、牛コレステロール代謝異常症は陰性だった。

病原検査

細菌学的検査では、主要臓器から有意な細菌は分離されなかった。空腸、回腸、腸間膜リンパ節及び直腸便を材料にヨーネ病リアルタイムPCR検査を実施し、ヨーネ病は否定された。

血液・生化学的検査

血液検査は、RBC:565×104/μL、WBC:6400/μL、白血球百分率:Eo 15.5%、Neu 19.5%、Ly 65%、Ht:29.7%、フィブリノーゲン:600mg/dLであった。
血清生化学検査は、Alb:4.6g/dL、A/G:1.59、ALP:219IU/L、T-Cho:195mg/dL、BUN:75mg/dL、Cre:3.3 mg/dL、iP:12.5 mg/dLであった。

剖検所見

外貌は削痩がみられた。剖検所見では、十二指腸から回腸にかけて腸粘膜のわらじ状の肥厚がみられ、結腸及び直腸粘膜は軽度肥厚していた。腸間膜リンパ節は腫大、暗赤色化及び皮髄明瞭であり、肝門リンパ節及び左腎門リンパ節も同様に暗赤色化がみられた。肝臓では2×2cm大の白色斑が1か所認められた。腎臓は左右で退色及び針先大赤色斑の散在がみられた。右腎の複数の腎葉には1×3mm大の黄白色が散在しており、一部密発していた。心臓は心室部の狭長がみられ、左心室内膜に1~2mm大の赤色斑が散在していた。肺は右中葉が暗赤色化していた。

組織所見(提出標本:回腸)

回腸では、粘膜固有層に好酸球及びリンパ球の重度浸潤、腸絨毛の萎縮、変性及び壊死がみられ、粘膜固有層及び粘膜下組織の線維増生により腸粘膜の肥厚が認められた。その他の腸管では、十二指腸から直腸にかけて好酸球の軽度~重度浸潤、十二指腸及び空腸の腸絨毛では萎縮、変性、壊死及び腸粘膜の肥厚が認められた。腎臓では、皮質の間質に巣状壊死、皮質及び髄質の間質に好酸球の重度浸潤、尿細管管腔内に尿円柱の形成が認められた。その他、肝臓、脾臓、肺、これらの付属リンパ節においても、軽度から中程度の好酸球浸潤が認められた。

討議

本症例は若齢時に好酸球性腸炎を発症し、その後下痢が治まる程度には回復しましたが、腸炎が慢性化し、栄養吸収が阻害され発育不良を呈したと考えています。しかし、好酸球性腸炎を惹起した原因や慢性化し腎臓にまで障害を引き起こした機序については、考察の域を出ていません。何か知見がございましたらご教授いただければ幸いです。

診断

  • 組織診断:牛の回腸における好酸球性回腸炎
  • 疾病診断:好酸球性腸炎、好酸球性腎炎

442) 牛の肺

  • 提出者(所属):石原 希朋(山梨県東部家畜保健衛生所)
  • 動物種:牛
  • 品種:ホルスタイン種
  • 性別:雌
  • 年齢:7日齢
  • 死・殺の別:鑑定殺
  • 解剖日:2023年3月17日
  • 解剖場所:山梨県西部家畜保健衛生所

発生状況及び臨床所見

本症例は分娩予定日を2週間超過しても分娩兆候が認められず、分娩誘発剤により、2023年3月10日に分娩された。出生直後より、起立不能、斜視が認め、ギャロップ様の心音が聴取された。予後不良と診断され、病性鑑定に供された。

病原検索

細菌学的検査では臍帯からTrueperella pyogenes、Streptococcus dysagalactiae等複数の細菌、肺からS. dysagalactiaeが分離された。ウイルス学的検査では遺伝子検査・分離検査(牛ウイルス性下痢ウイルス、ブニヤウイルスSimbu血清群、イバラキ病、牛流行熱ウイルス、イバラキ病)は不検出、母牛の血清を用いたアカバネ病及び牛流行熱ウイルスの中和抗体検査は2倍以下であった。

血液検査

低コレステロール血症(48.0mg/dl)、低カルシウム血症(3.7mg/dl)、低マグネシウム血症(0.8mg/dl)が認められた。

剖検所見

削痩し、胸腺は萎縮していた。右心の弁膜に血腫、心外膜に微小出血巣が多発して観察された。肺では右前葉の胸膜に線維素がみられ、左後葉の一部でモザイク様の病変が認められた。臍帯に血餅の付着がみられた。

組織所見(提出標本:肺(左前葉後部))

提出標本の小~中動脈は平滑筋及び膠原線維の増生により動脈壁が肥厚していた。肥厚した動脈壁に褐色色素顆粒を貪食したマクロファージが多数みられ、褐色色素はベルリン青染色で青色を呈した。また、気管支、細気管支及び肺胞壁に軽度に好中球が浸潤していた。右肺前葉の胸膜は好中球の浸潤、線維素析出及び線維芽細胞の増生により重度に肥厚していた。臍動脈外膜では細菌塊を伴った壊死がみられ、好中球が浸潤し、線維素が析出していた。臍静脈は内腔に細菌塊がみられ、内膜が壊死し、好中球が浸潤していた。前頭葉上部灰白質の一部で空胞変性がみられ、周囲にグリア細胞の浸潤がみられた。肝臓の類洞内及び脾臓の赤脾髄に好中球の浸潤が軽度から中等度に認められた。

討議

肺高血圧症と診断したが、この診断は適切か。また、ヘモジデリン貪食マクロファージが肺胞腔内ではなく、動脈壁に多くみられた。このような沈着の要因はどのような要因が考えられるか、同様の経験がある方、ご教授願いたい。

診断

  • 組織診断:新生子牛の肺におけるヘモジデリン沈着を伴う動脈壁の肥厚
  • 疾病診断:牛の肺高血圧症、化膿性線維素性胸膜肺炎、化膿性臍動脈炎、化膿性臍静脈炎