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第231回つくば病理談話会演題

443) 豚の肺

  • 提出者(所属):宮﨑 貴生(静岡県中部家畜保健衛生所)
  • 動物種:豚
  • 品種:LWD
  • 性別:去勢
  • 年齢:88日齢
  • 死・殺の別:鑑定殺
  • 解剖日:2022年12月22日
  • 解剖場所:静岡県東部家畜保健衛生所

発生状況及び臨床所見

総飼養頭数約1900頭の一貫経営養豚場の肥育豚舎において、肥育豚の死亡頭数が増加したため病性鑑定を行なった。同豚舎の豚では元気消失、食欲廃絶、発咳がみられ、特に症状の強い3頭に関して鑑定殺を行った。

病原検索

ウイルス学的検査によりCSFV、ASFV遺伝子陰性が確認された。3頭に共通して大脳、肺、扁桃、血清からPRRSV遺伝子、血清からPCV2遺伝子がそれぞれ検出され、3頭中2頭の大脳、扁桃からPEV-B遺伝子が検出された。細菌検査では3頭中提出症例を含む2頭の肺からActinobacillus pleuropneumoniae血清型2型(App2型)が分離され、残りの1頭からはPasteurella multocidaが分離された。

剖検所見

肺胸膜と胸壁が線維素性に癒着し、肺は全葉性にくすんだピンク色を呈していた。左右の肺の後葉断面には膿瘍が散見された。外貌およびその他の主要臓器に著変はみられなかった。

組織所見(提出標本:肺)

肺では気管支、細気管支、肺胞内に好中球が浸潤し、被包化膿瘍が複数みられた。また、肺胞壁の凝固壊死が巣状にみられ、その周囲を燕麦細胞が取り囲んでいた。肺胸膜では線維素析出および好中球の浸潤がみられた。その他の領域ではII型肺胞上皮の増生および単核細胞の浸潤により肺胞壁の肥厚がみられた。また、提出症例を除く2頭の脳では、大脳~脳幹部に非化膿性脳炎がみられた。家兎抗App2型抗体(動衛研)を用いた免疫染色では肺の燕麦細胞浸潤巣や膿瘍内部、肺胸膜に陽性反応がみられ、家兎抗PRRSV抗体(動衛研)を用いた免疫染色では複数の肺葉で肺胞壁のマクロファージに陽性反応がみられたが、脳では陽性反応がみられなかった。

討議

本症例では肺胞壁の凝固壊死巣と膿瘍が混在するように形成されていたが、これは病変の慢性化に伴い、壊死巣に炎症細胞が浸潤して膿瘍に変化している像と考えて良いか。また、検出された病原体以外に病変形成に関与したと疑われる病原体があればご教授ください。

診断

  • 組織診断:肥育豚のActinobacillus pleuropneumoniae血清型II型による化膿性壊死性気管支胸膜肺炎およびPRRSVによる間質性肺炎
  • 疾病診断:豚胸膜肺炎、豚繁殖・呼吸障害症候群

444) 鶏の腎臓

  • 提出者(所属):近内 将記(神奈川県県央家畜保健衛生所)
  • 動物種:鶏
  • 品種:ボリスブラウン
  • 性別:雌
  • 年齢:180日齢
  • 用途:採卵
  • 死・殺の別:鑑定殺
  • 解剖日:2018年1月4日
  • 解剖場所:神奈川県県央家畜保健衛生所

発生状況及び臨床所見

2017年12月29日に飼養羽数約2万羽の養鶏場で12月17日からA鶏舎で死亡羽数の増加がみられた旨の通報があり、翌日に立ち入り検査を実施し、鳥インフルエンザの簡易検査は陰性であった。2018年1月4日、A鶏舎で死亡の継続、1月3日からB鶏舎でも死亡羽数の増加がみられると通報があり、A・B鶏舎の各2羽を病性鑑定に供した。なお、鳥インフルエンザの簡易検査は1月4日も陰性であった。

病原検査

細菌学的検査には肝臓、腎臓及び肺を供し、肺からはPasteurella multocidaが分離された。ウイルス学的検査では気管、肺、肝臓、脾臓及び腎臓を用いた発育鶏卵によるウイルス分離を実施したが、胚に異常は認められず、尿膜腔液のHA検査は陰性であった。また、気管、肺及び腎臓を用いた伝染性気管支炎ウイルスのPCR検査を実施したが、いずれも検出限界以下であった。

剖検所見

提出症例の体重は1.3kgであり、元気消失をしていた。腹腔では卵墜、気嚢・腹膜の混濁、脾臓の腫大及び卵管の萎縮を認めた。

組織所見(提出標本:腎臓)

腎臓では糸球体に線維素血栓、足細胞の硝子滴変性・腫大・増生、糸球体係蹄基底膜の断裂~消失を認め、一部で細胞性半月の形成に伴う糸球体閉塞を認めた。肝臓では類洞に多数の線維素血栓~沈着及び偽好酸球の増加、グリソン鞘に単核細胞浸潤を認めた。脾臓では赤脾髄領域及び莢血管周囲に多数の線維素沈着、リンパ組織の萎縮を認めた。その他臓器では気管支の粘液分泌亢進、筋胃の微小粘膜びらん、卵黄性腹膜炎を認めた。病性鑑定に供したその他3例では、程度の差はあるものの提出例と概ね同様の病変を認めた。

討議

本症例は肝臓、脾臓及び腎臓に細菌性敗血症の典型的な所見が認められたが、足細胞の所見は珍しいと思われるため、提出した。動物種問わず細菌性敗血症時の糸球体病変のご経験について伺いたい。

診断

  • 組織診断名:細菌性敗血症の鶏の糸球体における細胞性半月形成を伴う足細胞の硝子滴変性、腫大及び増生
  • 疾病診断名:細菌性敗血症

445) 豚の肺

  • 提出者(所属):石塚 駿(茨城県県北家畜保健衛生所)
  • 動物種:豚
  • 品種:LWD
  • 性別:雌
  • 年齢:116日齢
  • 死・殺の別:鑑定殺
  • 解剖日:2022年2月28日
  • 解剖場所:茨城県県北家畜保健衛生所

発生状況及び臨床所見

母豚240頭を含む豚2,500頭を飼養する一貫農場において、通常20-25頭/月ほどの死亡数である肥育豚舎において前日まで異常が認められなかったが、2023年2月28日に14頭の死亡を確認したため、畜主から管轄家保に通報があった。家保が立ち入り検査を実施したところ、死亡豚は複数の豚群にわたり、結膜炎や耳翼の紫斑が認められた。また、複数の豚群で呼吸器症状を呈する個体や、豚房の片隅に体を寄せ合うパイルアップが認められた。当該豚舎には86-138日齢の豚がおり、27および53日齢で豚熱ワクチン接種済の116日齢の豚3頭について原因究明のため病性鑑定を実施した。提出症例は、そのうちの1頭である。

病原検査

ウイルス学的検査では、脾臓、腎臓、扁桃、血清を用いたRT-PCRで、脾臓、扁桃、血清からペスチウイルス特異的遺伝子が検出され、RFLP法およびシーケンス解析で豚熱ウイルス遺伝子と確認された。扁桃の凍結切片を用いた豚熱ウイルスを対象とした蛍光抗体法は、陰性であった。また、アフリカ豚熱ウイルス、豚サーコウイルス2型および豚繁殖・呼吸障害症候群ウイルスの特異的遺伝子は検出されなかった。
細菌学的検査では、肺からPasteurella multocida、脳からStreptococcus porcinus、血液からTureperella pyogenes がそれぞれ分離された。

血液検査

血液検査は、RBC:616万/μL,WBC:20,620/μL,LYM:11,260/μL,Ht:30.3%,PLT:30.5万/μLであった。

剖検所見

後躯麻痺による起立不能および結膜炎を呈し、体温は40.8度であった。気管支および両肺尖部で膿瘍を認めた。その他の臓器では異常は認められなかった。

組織所見(提出標本:肺)

肺では多数の肺小葉が無気肺状で、気管支や細気管支内腔には変性した好中球が充満しており、肺胞領域では、好中球やマクロファージの浸潤、肺胞水腫、II型肺胞上皮細胞過形成などが認められた。細気管支や血管の周囲にはリンパ球や形質細胞が浸潤していた。一部の細気管支では、粘膜上皮の過形成、炎症細胞や結合組織による内腔の閉塞がみられた。病変が軽度の肺小葉では、細気管支周囲や一部の肥厚した肺胞壁においてリンパ球やマクロファージの浸潤がみられた。豚熱ウイルス特異的プローブを用いた、RNA in situ ハイブリダイゼーションでは、肺、扁桃、回腸パイエル板、回腸リンパ節で陽性であった。

討議

本症例における豚熱ウイルスの病変形成への関与について。

診断

  • 組織診断名:豚熱ウイルス感染豚における化膿性組織球性気管支間質性肺炎
  • 疾病診断名:豚の豚熱