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第232回つくば病理談話会演題

446) フェネックの肝臓

  • 提出者(所属):佐倉 由美(動物検疫所門司支所検疫第2課)
  • 動物種:フェネック
  • 性別:雌
  • 年齢:2歳齢
  • 死・殺の別:死亡
  • 解剖日:2023年4月4日

発生状況及び臨床所見

2023年3月に輸入され係留検査を開始した11頭中の1頭で、入検から検疫10日目までは特段の臨床症状を認めず、活力良好に経過していた。検疫11日目に眼脂、被毛粗剛及び活力低下を認めた。検疫12日目午前に飼養管理のため収容房に立ち入った際、死亡しているのを発見し、同日午後に剖検を実施した。なお、輸入される約3か月前に輸出国において犬用7種混合ワクチンと動物用狂犬病不活化ワクチンが接種されていた。

病原検索

狂犬病:陰性(脳材料を用いたPCR法及びFA)
犬ジステンパー:陰性(気管ぬぐい液、腸管内残留糞便、脾臓、脳、肺を用いたPCR)

剖検所見

肝臓は顕著に腫大し退色、脆弱化、脾臓は腫大していた。肺は心臓と接している部分が暗赤色化していた。十二指腸は顕著に拡張し、粘膜はやや赤色であった。消化管内容は泥状であった。

組織所見(提出標本:肝臓)

肝臓では、びまん性の肝細胞脂肪変性が認められた。肝細胞の細胞質は大型の脂肪球により占められ、核は細胞の辺縁に圧迫されていた。肝小葉構造は不明瞭で、壊死した肝細胞と残存する肝三つ組がわずかに認められた。腎臓は尿細管上皮に脂肪変性が認められた。脾臓は一部の濾胞壊死、リンパ濾胞萎縮が認められた。盲腸は粘膜上皮の壊死、剥離が認められた。肝臓、腎臓の脂肪染色を依頼中(動衛研)。

討議

肝臓、腎臓の所見は栄養不良に起因する変化と診断したが、診断の妥当性と他動物種でも類似症例の経験があれば、御教示ください。また、キツネ属の症例は少ないため、キツネ属に特徴的に見られる正常組織像の知見がありましたら御教示願います。

診断

  • 組織診断:フェネックの肝臓のびまん性脂肪変性
  • 疾病診断:フェネックの脂肪肝

447) 鶏の中足趾節関節

  • 提出者(所属):萩原 寛子(共立製薬株式会社)
  • 動物種:鶏
  • 品種:チャンキー
  • 性別:雌
  • 年齢:413日齢
  • 死・殺の別:鑑定殺
  • 解剖日:2023年4月13日

発生状況及び臨床所見

約2万5千万羽規模の養鶏場の1鶏舎(5,000羽)において、54週齢ごろから1日10羽程度の斃死が続いていた。抗生剤投与を実施したが、一時的に抑制するのみで再び斃死が増加し、約1か月間に投薬と再発が4、5回繰り返されていた。提出症例は、病性鑑定に供された4羽中のうち左後肢に異常が観察された1羽である。

病原検索

細菌学的検査では、提出症例の中足趾節関節スワブ、提出症例以外の皮下、肝臓、腎臓や脾臓からEscherichia coli(E. coli:O78)が分離された。マイコプラズマの検査では、全検体の気管からMycoplasma gallisepticum(MG)、Mycoplasma synoviae(MS)の遺伝子が検出されたが分離はされず、提出症例の中足趾節関節スワブからは分離も遺伝子も検出されなかった。その他、提出症例以外の1/4検体の気管から伝染性気管支炎(IB)遺伝子が検出され、寄生虫検査では2/4検体から有輪条虫が認められた。なお、MGおよびMS生ワクチン、IB生・不活化ワクチンは接種済みであった。

剖検所見

外貌検査では、背部における軽度な脱羽と左趾蹠の腫脹が観察され、割面では黄白色滲出液が観察された。また、卵墜、閉鎖卵胞の凝塊、卵管萎縮、子宮内の白色凝塊物、嚢胞性右側卵管、肺と胸壁の癒着及び肺表面における黄色沈着物が確認された。提出標本以外では、後肢から背部の皮下における蜂窩織炎、脾臓腫大や小腸上部のおける条虫が観察された。

組織所見(提出標本:中足趾節関節)

中足趾節関節の関節包や腱鞘の腔内には、著しい偽好酸球浸潤及び線維素析出が認められ、滑膜は多層化し、滑膜細胞下では偽好酸球浸潤を主とした炎症性細胞浸潤が観察された。また、炎症が骨組織に及んだ骨髄では、軽度水腫、偽好酸球浸潤及び線維芽細胞増生が観察され、海綿骨周囲には破骨細胞が顕著に確認された。その他の臓器では、気管の粘膜固有層における単核細胞浸潤、肺胸膜炎、子宮内に菌塊を伴う好酸性滲出物と偽好酸球からなる塊状物が観察された。ウサギ抗E. coli O78抗体(デンカ製薬)を用いた免疫染色では、中足趾節関節、肺胸膜、子宮内塊状物に陽性反応が認められた。

討議

鶏大腸菌症では、敗血症のあとに心外膜炎や関節炎がよく観察されるとの記載もありますが、大腸菌による関節炎の国内での報告は少数です。実際の現場でのご経験について、ご教授お願い致します。

診断

  • 組織診断:肉用種鶏の中足趾節関節におけるEscherichia coli (O78)による線維素性および偽好酸球性関節炎
  • 疾病診断:Escherichia coli(O78)による鶏大腸菌症(関節炎)

448) 豚の大脳

  • 提出者(所属):平野 佳世(栃木県県央家畜保健衛生所)
  • 動物種:豚
  • 品種:LWD
  • 性別:不明
  • 年齢:胎齢119日
  • 死・殺の別:死産
  • 解剖日:2023年9月25日
  • 解剖場所:栃木県県央家畜保健衛生所

発生状況及び臨床所見

繁殖豚6頭を飼育する農場で、2023年9月21日に繁殖豚1頭が胎子10頭を死産した。分娩予定日を3日過ぎていたが、胎子はすべて黒子であり、大きさに差は認められなかった。その後、隣接した分娩房の繁殖豚1頭において、分娩予定日を5日過ぎても分娩兆候が認められなかったため、同年9月24日に分娩促進剤により胎子9頭を摘出した。異常産が続発したことから、翌25日に繁殖豚及び前日に流産した胎子3頭について病性鑑定を実施した。

病原検索

胎子3頭の脳及び胎盤を用いて実施したウイルス学的検査では、1頭の脳から日本脳炎ウイルスの特異遺伝子が検出された。また、繁殖豚6頭の血清及び胎子3頭の扁桃、脾臓、腎臓から豚熱及びアフリカ豚熱の特異遺伝子は検出されなかった。細菌学的検査では、2頭の肝臓または脳からStaphylococcus aureus、1頭の脳からEnterococcus feaciumが分離された。また、肝臓、腎臓、尿からレプトスピラの特異遺伝子は検出されなかった。

剖検所見

摘出された胎子は大小不同であり、白子及び黒子であったが、ミイラ胎子は認められなかった。剖検を実施した白子3頭のうち、2頭の大脳は欠損し水無脳症を呈していた。また、2頭の肝臓では黄色斑が認められ、そのうち1頭では膀胱内に尿が貯留していた。

組織所見(提出標本:大脳)

大脳では、神経細胞の変性、軽度のグリア細胞の浸潤が確認され、単核細胞を主とした囲管性細胞浸潤がまれに認められた。グラム染色で明瞭な菌体は認められず、抗日本脳炎ウイルス家兎血清(動衛研)を用いた免疫染色では、神経細胞の細胞質に陽性反応が確認された。そのほかの実質臓器について、有意な所見は認められなかった。なお、同腹の白子のうち、大脳の欠損が認められた2頭については、脳の固有構造は確認できず、髄膜付近の実質にマクロファージ及びグリア細胞の浸潤や石灰化が認められ、同血清による免疫染色ではグリア細胞浸潤巣に陽性反応が認められた。

討議

提出標本について、細胞反応は軽度であったが、免疫染色の陽性反応が多数認められた。この胎子についてはウイルスの感染からの経過が短いと考えて良いか、御教示願いたい。

診断

  • 組織診断:日本脳炎ウイルスによる豚の非化膿性脳炎
  • 疾病診断:豚の流行性脳炎