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第233回つくば病理談話会演題

449) 牛の肝臓

  • 提出者(所属):水野 剛志(群馬県家畜衛生研究所)
  • 動物種:牛
  • 品種:ホルスタイン種
  • 性別:雌
  • 年齢:2カ月齢
  • 死・殺の別:死亡
  • 解剖日:2023年10月30日
  • 解剖場所:群馬県家畜衛生研究所

発生状況及び臨床所見

総飼養頭数50頭規模の酪農場において、2023年7月25日生まれの当該牛に10月19日ごろから下顎、耳下、膁部などの体表の膨隆がみられ始め、同年10月27日、管轄の家保に病性鑑定依頼があった。同日に家保が当該牛および母牛の採血を実施し、当該牛について40°Cの発熱、体表の膨隆、重度の削痩および可視粘膜の蒼白を確認した。10月30日に鑑定殺を予定していたが、10月29日昼ごろに死亡したため、翌10月30日に当所にて病理解剖を実施した。

病原検索

ウイルス学的検査では、肝リンパ節および肩前リンパ節を用いたPCRでBLV特異遺伝子は検出されなかった。また、当該牛および母牛の血清を用いた牛伝染性リンパ腫エライザキットでは、抗体陰性となった。細菌学的検査では、主要臓器および大脳から有意菌は分離されなかった。

血液検査

Ht:10%、WBC:6,500/μL。白血球百分比はSeg:20%、Lym:78%、Mono:1%、Eos:1%で、異型リンパ球は認められなかった。

剖検所見

肝臓は全体に褪色し重度に腫大しており、割面において網目状に白色変化が認められた。腎臓は左右とも表面全体に帽針頭大の白色斑が多発しており、割面において皮質に同様の変化が認められた。各体表リンパ節は左右対称に重度に腫大し、割面は膨隆。各臓器付属リンパ節も重度に腫大し、割面は膨隆。

組織所見(提出標本:肝臓)

肝臓では、小葉間結合織においてリンパ球様腫瘍細胞が浸潤・増殖し、類洞においても同様の腫瘍細胞が軽度に浸潤していた。腫瘍細胞の核は大小不同で円形~類円形を呈し、二核を有するものも散見され、細胞質は中等量~豊富であった。同様の腫瘍細胞は、脾臓の白脾髄、腎臓皮質の尿細管間質、左心耳の心外膜下組織、肺の気管支および細気管支周囲、気管の粘膜固有層、膵臓の腺房細胞間、回腸パイエル板、胸腺および胸骨骨髄においても認められた。各体表リンパ節、各臓器付属リンパ節においても同様の腫瘍細胞の浸潤・増殖がみられ、固有構造は消失していた。マウス抗CD3モノクローナル抗体(DAKO)、マウス抗CD79αモノクローナル抗体(ニチレイ)を用いた免疫染色では、腫瘍細胞はCD3陽性、CD79α陰性であった。

討議

同様の症例についてご経験・知見がありましたら、ご教授ください。

診断

  • 組織診断:子牛の肝臓におけるT細胞性リンパ球様腫瘍細胞の浸潤・増殖
  • 疾病診断:牛の散発性(子牛型)牛伝染性リンパ腫

450) いのししの骨格筋

  • 提出者(所属):徳武 慎哉(長野県松本家畜保健衛生所)
  • 動物種:いのしし
  • 品種:ニホンイノシシ
  • 性別:雄
  • 年齢:不明
  • 死・殺の別:捕殺
  • 解剖日:2023年2月3日
  • 解剖場所:長野県松本家畜保健衛生所

発生状況及び臨床所見

2023年1月30日に県内A地域で捕獲されたいのししを解体中、心臓や骨格筋に米粒大~大豆大の白色結節を多数確認したと狩猟者から相談を受け、当所で病性鑑定を実施した。県内B地域では、2014年に捕殺された野生いのししの骨格筋から同様の白色結節が発見される事例があったが、病性鑑定は実施しなかった。

病原検索

直接鏡検では、骨格筋より摘出した白色結節の圧平標本で小鉤を伴う額嘴及び4個の吸盤を持つ条虫の原頭節を1個認めた。嚢虫の遺伝子抽出物を用いたMultiplex PCR では、テニア属条虫に特異的な遺伝子が検出された。遺伝子増幅産物を用いた遺伝子解析では、有鉤条虫(Taenia solium)と99.08-100%の高い相同性を認める一方、他のテニア属条虫との相同性は92.66%以下であった。

剖検所見

骨格筋では、長径10mm前後の楕円形~紡錘形の嚢虫を散在性に認めた。嚢虫の嚢壁は白色透明で、内腔に無色透明の液状物と直径4mm前後の小円形白色点(頭円錐)を認めた。
心臓では、骨格筋と同様の嚢虫を散在性に認めた。

組織所見(提出標本:骨格筋(大腿四頭筋))

骨格筋では、結合組織により被包化した嚢虫を認めた。増生した結合組織には好酸球、形質細胞、リンパ球の浸潤を散在性に認めた。嚢壁は好酸性に染まる薄い角皮、1層の角皮下細胞層及び、分岐した小管状構造を伴う薄い疎性結合組織の3層を認めた。嚢壁外表面には微繊毛(角皮絨毛)を伴う角皮が疣状に隆起した角皮突起を認め、内表面は疎性結合組織が露出していた。頭円錐では、迷路状の虫体壁及び2個の吸盤を伴う原頭節を認めた。虫体壁には厚い角皮、筋線維束及び長径13μm前後の石灰小体を多数認め、石灰小体はコッサ染色で陽性を認めた。

討議

文献によると、国内における有鉤条虫症及び嚢虫症は人・豚ともに輸入症例が主とされ、現在ではいずれも稀な症例と考えます。類似症例に遭遇した経験のある方がいれば情報提供をお願いします。

診断

  • 組織診断:野生いのししの有鉤嚢虫による好酸球浸潤を伴う骨格筋の線維増生
  • 疾病診断:野生いのししの有鉤嚢虫症

451) 山羊の回腸

  • 提出者(所属):加藤 壮浩(東京都家畜保健衛生所)
  • 動物種:山羊
  • 品種:雑種
  • 性別:雌
  • 年齢:25カ月齢
  • 死・殺の別:法令殺
  • 解剖日:2023年6月13日
  • 解剖場所:東京都家畜保健衛生所

発生状況及び臨床所見

当該個体は2022年6月に動物展示施設へ導入された。導入時より採餌不良がみられ発育が停滞していた。2023年5月28日頃より泥状便を呈し、投薬等実施したが回復せず、また、削痩や粘膜の蒼白が認められた。6月12日に病性鑑定を実施し、糞便を用いたヨーネ病遺伝子検査において定量陽性となり患畜と決定した。

病原検索

糞便、回盲リンパ節、乳房上リンパ節及び回盲部における10cm、30cm、50cm、1m上の各部位からヨーネ菌遺伝子を検出。

剖検所見

体重約13kg。外貌では肛門周囲の汚れ、削痩、被毛粗剛が認められた。内臓は全体として水腫様で、心冠部脂肪組織や腸管膜は膠様を呈していた。第四胃から下部消化管における消化管内容物は乏しく、直腸領域にわずかに粘性便を認める程度であった。腸管壁は腸管全域で菲薄しており、腫大した腸間膜リンパ節は結腸領域にのみ認められた。

組織所見(提出標本:回腸(回盲部より50cm上部))

回腸では粘膜固有層に類上皮細胞の重度の浸潤が認められ、腸絨毛は著しく拡張し、一部は癒合していた。類上皮細胞は粘膜下織においても認められ、粘膜下のリンパ濾胞やその周囲に中程度に浸潤していた。また、漿膜の毛細血管周囲にリンパ球や類上皮細胞の軽度浸潤が認められた。抗酸菌染色により類上皮細胞内に染色陽性となる菌体が多数認められた。回盲リンパ節では、広範にわたり類上皮細胞が浸潤し、リンパ節固有構造が置換されていた。その他の腸管への類上皮細胞の浸潤は、結腸では軽度、空腸及び盲腸では中程度であり、また、結腸及び直腸の腸間膜リンパ節では軽度であった。

討議

ヨーネ菌感染個体の肉眼病変に関して羊や山羊、鹿では軽度との説明がある一方、腸管の肥厚を肉眼所見として示す症例報告も確認される。病変の発現程度には個体の年齢や栄養状態、病原体の感染量等様々な要因が関与すると思われるが、ヨーネ病の病態進行と肉眼及び病理組織学的病変との関連性についてご教授願います。

診断

  • 組織診断:山羊の回腸における肉芽腫性腸炎
  • 疾病診断:山羊のヨーネ病