459) 豚の肺
- 提出者(所属):浪川 彩花(動物検疫所検疫部動物検疫課)
- 畜種:豚
- 品種:ランドレース
- 性別:雄
- 年齢:8カ月齢
- 死・殺の別:安楽殺
- 解剖日:2024年4月1日
- 解剖場所:動物検疫所 横浜本所
発生状況および臨床所見
入検時から右後肢の跛行を呈し、検疫第4日目(3月19日)に右後肢第4趾蹄の脱落が認められた。検疫第7日目(3月22日)には横臥状態を呈し、食欲低下および左後肢第2趾の内側に排膿痕が認められた。その後、発咳していたとの稟告があり、検疫第10日目(3月25日)に努力性呼吸を確認した。翌日、呼吸・心拍の促拍および耳介・鼻端のチアノーゼを呈していたため、輸入者の意向により、4月1日に安楽殺を実施した。なお、輸出国での検疫期間中に感染症を疑う所見は認められず、輸入検疫期間中にその他の個体で感染症を示唆する所見は認められなかった。
病原検索
左肺後葉、左鼠径リンパ節および左後肢足根関節部膿瘍を用いた細菌分離では、Trueperella pyogenesが分離され、また、左肺後葉ではFusobacterium necrophorumが分離された。
剖検所見
肺の両側後葉は胸壁と線維性癒着しており、右肺前葉の一部・副葉・後葉および左肺前葉・後葉に肝変化が認められた。また、全葉に約0.3~1cmの結節が散在していた。肺の割面では、結節は白色充実病変ないし被包化膿瘍で構成され、肝変化部では膿の滲出が認められた。左後肢足根関節は腫脹し、関節包内に膿の貯留を認めた。左側浅鼠径リンパ節は腫脹し、割面に膿瘍がみられた。
組織所見(提出標本:肺)
肉眼で認められた結節は細気管支を中心に分布し、被包化膿瘍は好中球を主体とした多量の細胞退廃物を主体にしたものから、マクロファージにおおむね置換されたものまで認めた。また、膿瘍ごとに細菌の量およびグラム染色性状は異なっていた。膿瘍膜には肉芽組織増生および単核細胞浸潤を認めた。被包化膿瘍周囲では肺胞内に好中球、線維素および血漿タンパクの貯留を、肝変化部位でも同様の所見を認めた。白色充実病変は線維芽細胞、単核細胞により構成され、病変周囲の肺胞内に線維芽細胞の増生およびマクロファージ浸潤を認めた。胸膜では癒着部に線維性肥厚を認め、被包化膿瘍と近接部では線維素の析出および線維芽細胞増生を認めた。
左後肢足根関節部の関節包は線維性に高度肥厚し、内腔にグラム陽性桿菌の菌塊と多量の好中球浸潤および炎症性退廃物の貯留を認めた。
討議
剖検所見的に異なる病変部位を細菌検査に供して、肺からTrueperella pyogenesおよびFusobacterium necrophorumが分離同定されたが、組織上では優位菌の割合および組織学的特徴が一致しない結果となった。菌の変性によりグラム染色結果が陰転することが考えられるか、また、採材部位数および細菌分離の注意点等についてご助言を賜りたい。
診断
- 組織診断:豚の肺の器質化およびグラム陽性菌を含む被包化膿瘍形成を伴う化膿性気管支肺炎
- 疾病診断:豚の化膿性気管支肺炎、トゥルエペレラ・ピオゲネス感染症
460) 鶏の趾蹠
- 提出者(所属):萩原 寛子(共立製薬株式会社)
- 畜種:鶏
- 品種:チャンキー
- 性別:雌
- 年齢:45日齢
- 死・殺の別:と殺
- 解剖日:2023年11月08日
発生状況および臨床所見
約4万羽飼養する養鶏場において、2023年6月~11月の出荷時に食鳥処理場でマレック疑い(皮膚)が多く確認された。また、マレック疑いは全鶏舎で認められ、集荷した約2~2.7%がマレック病として廃棄されていた。養鶏場では、飼養時に脚弱などのマレック症状は観察されていなかったが、1日約20羽程度の斃死が確認されていた。なお、雛はマレックワクチンを卵内接種後に初生(0日齢)で導入していた。提出標本は病性鑑定に供された3羽中のうち趾蹠に異常が観察された1羽である。
病原検索
遺伝子検査では、全検体からマレック病ウイルス(I型)の遺伝子が検出され、pp38領域を指標とした型別による検査から野外株が優勢であると判定された。その他、全検体からMycoplasma synoviae及び伝染性気管支炎ウイルスの遺伝子が検出された。
その他、インフルエンザ抗原は簡易キットで陰性、細菌学的検査では菌の発育は観察されなかった。
剖検所見
全検体の頸部から背部、下腿部の皮膚において羽根部の腫脹及び結節が観察され、提出症例では両趾蹠の腫脹も確認された。また、肝臓及び脾臓は小白斑を伴い腫大し、その他、腺胃の軽度な腫大と2/3検体の腕神経叢に軽度な腫脹が観察された。
組織所見(提出標本:趾蹠)
一部の皮膚では表皮から真皮にかけて壊死が観察され、表層にはグラム陽性球菌を中心とした菌塊が観察された。また、壊死周囲は多核巨細胞を含むマクロファージが囲み多数の偽好酸球浸潤のほか線維芽細胞の増生や水腫も観察された。真皮から皮下組織では、大小不同のリンパ様腫瘍細胞の増殖が著しく認められた。増殖巣には多数の小血管が観察され、血管周囲性に増殖が確認された。腫瘍細胞は大小不同の多形性で、核は淡明で顆粒からドット状のクロマチンや大型の核小体を有し、有糸分裂像も高頻度に認められた。
抗ヒトCD3モノクローナル抗体(clone F7.2.38, abcam)及び抗Meqモノクローナル抗体(動衛研)を用いた免疫組織化学的検査では、腫瘍細胞に陽性反応が認められた。
その他の臓器では、肝臓、脾臓、腎臓、腺胃、腸、皮膚及び脳にリンパ様細胞の浸潤や腫瘍性増殖、腕神経叢にリンパ球浸潤が極軽度に観察され、皮膚の羽包上皮には好塩基性核内封入体が認められた。また、十二指腸の粘膜上皮にコクシジウムのガメトサイトが多数観察された。
討議
本例のように羽毛の無い部位(脚や鶏冠など)におけるマッレク病変および採卵鶏での皮膚型のご経験について、ご意見を頂ければと思います。
診断
- 組織診断:肉用鶏の趾蹠におけるリンパ様細胞の浸潤及び腫瘍性増殖
- 疾病診断:鶏のマレック病(皮膚型)
461) 豚の小脳
- 提出者(所属):手塚 優奈(栃木県県央家畜保健衛生所)
- 畜種:豚
- 品種:LWD
- 性別:不明
- 年齢:43日齢(2023年11月8日生)
- 死・殺の別:鑑定殺
- 解剖日:2023年12月21日
- 解剖場所:栃木県県央家畜保健衛生所
発生状況および臨床所見
2023年11月上旬から12月上旬に、飼養頭数1万頭の一貫経営の養豚農家にて50~80日齢の離乳豚で死亡頭数が増加した。アモキシシリン等による対策を実施したところ死亡頭数は減少したが、同年12月21日に起立不能及び発熱を呈する豚がみられたため、3頭について病性鑑定を実施した。
病原検索
ウイルス学的検査の結果、3頭の大脳から豚テシオウイルス(PTV)が分離された。豚熱、アフリカ豚熱についてすべて陰性であった。サーコウイルスII型については、提出症例では陰性であったが、病性鑑定を実施した他2頭は、扁桃、腎臓、脾臓及び血清ですべて陽性であった。細菌学的検査では提出症例以外の1頭のみ脳からレンサ球菌が分離された。
剖検所見
腸間膜リンパ節の腫脹の他、著変は認められなかった。他2頭では共通して肺の一部の暗赤色化が、1頭で腸間膜リンパ節の腫脹がみられた。
組織所見(提出標本:小脳)
小脳では皮質から一部髄質にかけて広範に軟化がみられた。病変部では多量のマクロファージ及び脂肪顆粒細胞、一部では多核巨細胞が浸潤していた。また、変性した神経細胞も多数みられた。同様の所見が頭頂葉において限局してみられ、後頭葉では囲管性細胞浸潤が認められた。クリューバーバレラ染色では大脳の白質に染色性が低下する壊死部がみられ、また家兎抗Iba-1抗体(Wako)を用いた免疫染色では、浸潤するマクロファージに一致して陽性抗原がみられた。また、他の1頭では前頭葉から延髄にかけて、軽度から中等度の化膿性髄膜炎及び囲管性細胞浸潤がみられた。もう一頭の豚では前頭葉、間脳、延髄に非化膿性脳炎がみられた。その他、提出標本除く2頭の体表リンパ節では、リンパ球が重度に脱落し、家兎抗PCV2抗体(GeneTex)を用いた免疫染色の結果、浸潤したマクロファージ内に多量の陽性抗原がみられた。
討議
提出症例にみられた大脳~小脳の軟化病変は、テシオウイルス性脳脊髄炎において報告がない。成書によると脳軟化は中枢神経の虚血性壊死を原因としている。テシオウイルスは豚の腸管内に広く存在し、希にウイルス血症を引き起こすことで中枢神経系へと侵入すると考えられている。今回の軟化像はテシオウイルス感染により血管が傷害された結果、二次的に引き起こされたものと考察してよろしいか。他の脳軟化の原因や同様の経験があれば御教授願いたい。
診断
- 組織診断:豚の小脳における広範な脳軟化
- 疾病診断:豚テシオウイルス性脳脊髄炎