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第238回つくば病理談話会演題

462) 牛の脾臓

  • 提出者(所属) : 髙島 映令彩(群馬県家畜衛生研究所)
  • 動物種 : 牛
  • 品種 : 黒毛和種
  • 性別 : 雌
  • 年齢 : 80日齢(2023年7月18日生)
  • 死・殺の別 : 死亡
  • 解剖日 : 2023年10月6日
  • 解剖場所 : 群馬県家畜衛生研究所

発生状況および臨床所見

繁殖牛約75頭を飼養する繁殖和牛農場において、当該牛が10月4日に発熱(40.7度)、元気食欲低下を示したため、解熱剤および抗生物質により治療を行った。翌5日も解熱せず(40.9度)、元気食欲消失、呼吸促拍を示したため、再度解熱剤および抗生物質を投与したが、6日の朝、死亡発見し、同日の午前中に当所にて病性鑑定を実施した。

病原検索

細菌学的検査では、主要5臓器および大脳からSalmonella Dublin (SD)が分離された。

剖検所見

肝臓は、表面割面ともにモザイク状に赤褐色から黄褐色を呈し腫大していた。脾臓は軽度に腫大していた。腎臓は左右ともに赤色点が密発しており、米粒面大から大豆面大の白色斑が数個認められた。心臓において左心室の心内膜下は暗赤色を呈していた。肺の左右前葉前部および後部、中葉、左右後葉の前縁および副葉は小葉単位で暗赤色を呈していた。全身の筋肉および漿膜に赤色点が多発していた。腹腔に黄緑麦色透明の腹水が中等量貯留していた。

組織所見(提出標本 : 脾臓)

脾臓では、赤脾髄において多発性に壊死巣が認められ、細菌塊が散見された。壊死巣には少数の好中球、マクロファージおよび線維素が認められた。白脾髄はリンパ球の減少により萎縮していた。まれに脾静脈に血栓が形成されていた。家兎抗サルモネラ菌体抗原O9群血清(デンカ生研)を用いた免疫組織化学的検査により、脾臓において細菌塊に一致してO9群抗原が検出された。肝臓では、多発性に壊死巣が認められ、壊死巣にはリンパ球、マクロファージ、線維素および少数の好中球が認められた。腎臓では、皮質において壊死巣が認められ、壊死部周囲に好中球の軽度の浸潤と出血が認められた。心臓において左心室壁の心内膜に出血が認められた。肺において、細気管支内および肺胞内にマクロファージおよび好中球の中等度の浸潤、線維素の析出が認められ、多核巨細胞が散見された。全体に肺胞壁はII型肺胞上皮細胞の増生により肥厚し、肺胞領域では出血が多発性にみられた。空腸下部および回腸のパイエル板においてリンパ球の減少が認められた。

討議

本県ではSD発生農場が複数確認されているが、他県での発生状況はどうか、また同様の症例についてご経験・知見がありましたら、ご教授ください。また、本症例では免疫組織化学的検査の結果、細菌塊に一致するように陽性反応が認められましたが、本県で発生した別の症例ではSDが分離されていてもほとんど陽性反応が認められない結果となりました。死後変化等が免染の結果に影響するかどうかご教授いただければと思います。

診断

  • 組織診断 : 牛の脾臓における多発性巣状壊死
  • 疾病診断 : 牛のサルモネラ症

463) 牛の肺

  • 提出者(所属) : 中島 冬萌(長野県松本家畜保健衛生所)
  • 動物種 : 牛
  • 品種 : 黒毛和種
  • 性別 : 雄
  • 年齢 : 21日齢
  • 死・殺の別 : 死亡
  • 解剖日 : 2024年7月19日(死後7時間)
  • 解剖場所 : 長野県松本家畜保健衛生所

発生状況および臨床所見

2024年7月15日、肉用牛60頭を飼育する肉用牛繁殖農場において、子牛1頭に発熱、下痢が認められた。当該牛は臨床獣医師によってマイシリン、メロキシカムを4日間投与され下痢は改善したもの、7月19日に死亡したことから、死因究明のため病性鑑定を実施した。

病原検索

細菌学検査では、肺、気管拭い液から溶血性を示すグラム陰性短桿菌が分離され、IDテスト・HN-20ラピッドでMannheimia 属菌と判定された(相対確率:>99%)。分離株のPCR検査ではMannheimia haemolytica (M.h)、Histophilus somni (H.s)、Mannheimia glucosida (M.g)、Mannheimia ruminalis (M.r)に特異的な遺伝子は検出されなかった。さらなる原因菌特定のため実施した16SrRNAシーケンス解析ではいずれの菌株もMannheimia granulomatis (M.gr)に最も高い一致率(肺由来株 : 99.66%、気管由来株 : 99.52%)を示し、M.grのPCR検査でも特異的な遺伝子が検出された。マイコプラズマ検査では、肺からMycoplasma bovis を疑うコロニーは分離されなかった。ウイルス学検査では、主要臓器から牛ウイルス性下痢ウイルスに特異的な遺伝子は検出されなかった。

剖検所見

左右肺は前葉から後葉の一部にかけて暗赤色を呈し、前葉は胸壁と癒着、2~10mm大の白色病巣が多数認められた。気管内腔には白色膿様物が貯留していた。肺門リンパ節は腫大し、充うっ血していた。胸腺の低形成が認められた。

組織所見(提出標本 : 肺)

肺には境界明瞭で不規則な形状の凝固壊死巣が多発性に認められた。胸膜および小葉間結合組織、リンパ管内には線維素が析出していた。凝固壊死巣の周縁には燕麦細胞が認められ、壊死巣内にはグラム陰性短桿菌塊、グラム陽性菌が確認された。気管支、細気管支内腔に好中球、マクロファージ、細菌塊、線維素が認められた。肺胞壁はうっ血し、肺胞腔内にはマクロファージ、好中球が充満、線維素の析出、ときおり多核巨細胞が認められた。参考として実施した抗M.h血清型1抗体を用いた免疫組織化学染色では、凝固壊死巣内の菌塊のごく一部に陽性が認められた。

討議

M.grに関する他の動物種における既報では肉芽腫性病変が報告されているが、本症例では認められなかった。M.grによる牛の肺炎のご経験、診断名の妥当性、追加で実施すべき検索についてもご教授いただければ幸いです。

診断

  • 組織診断 : Mannheimia granulomatis が分離された牛の壊死性化膿性気管支肺炎
  • 疾病診断 : Mannheimia granulomatis が分離された牛の壊死性化膿性気管支肺炎

464) 豚の尺骨

  • 提出者(所属) : 加藤 壮浩(東京都家畜保健衛生所)
  • 動物種 : 豚
  • 品種 : 交雑
  • 性別 : 雌
  • 年齢 : 3カ月齢
  • 死・殺の別 : 鑑定殺
  • 解剖日 : 2024年2月13日
  • 解剖場所 : 東京都家畜保健衛生所

発生状況および臨床所見

2024年2月8日、豚飼養者から外貌異状、起立困難および跛行を呈した豚について原因究明のため病性鑑定の依頼があった。当該豚は同年1月中旬から右後肢の跛行を呈し、また1月末には左前肢手根部周囲が腫脹していた。豚熱ワクチン接種を同年1月10日に実施したが、その時点では外貌に異状は認められなかった。同腹に比べ発育が遅延していた。

病原検索

細菌検査にて、肺、左前肢(腫瘤・骨)、右臀筋、右大腿筋、右大腿骨頭の膿瘍からTrueperella pyogenes を分離。また、左前肢膿瘍からはYersinia enterocolitica およびStreptococcus dysgalactiae subsp equisimilis を分離。ウイルス検査にて、豚熱検査(PCR、ELISAおよびFA)は陰性。

剖検所見

体重約21kg。左尺骨遠位に約5cm大の硬結感ある腫瘤を認め、腫瘤表面は自壊していた。腫瘤は強固な結合組織により被包された複数の膿疱からなり、腫瘤が付着する尺骨は脆弱化し、骨中心部に膿瘍が認められた。右臀部表面に直径約1cmの痂疲が認められ、直下に小膿疱が認められた。右臀部から大腿部の骨格筋は水腫性に腫脹し、筋内部に膿疱が認められた。骨盤結合に付着する骨格筋に膿疱が認められ、右関節窩には破砕した大腿骨頭と膿瘍が混在していた。左肺前葉の一端に膿疱が認められ、胸壁と癒着していた。

組織所見(提出標本 : 尺骨(横断面))

尺骨海綿質中心部において、線維芽細胞や高度に増生した結合組織からなる肉芽組織に囲まれた凝固壊死巣が認められた。壊死巣には細胞退廃物や細菌塊、断片化した骨梁が混在し、辺縁に好中球やマクロファージが浸潤していた。肉芽組織は病変部周辺の骨梁間に拡がり、骨髄細胞は減数し、また、辺縁不整を呈する骨梁周囲に破骨細胞が散見された。骨格筋では、結合組織に被包された壊死巣が筋組織と境界明瞭に形成されていた。大腿骨頭では、海綿質に細胞退廃物が破砕した骨梁とともに散在していた。左肺前葉では、結合組織に被包された壊死巣が認められ、周囲肺組織には好中球やリンパ球が高度に浸潤し、含気部は消失していた。グラム染色では、尺骨の壊死巣にグラム陽性の球菌または桿菌が認められた。

討議

左前肢の病変形成は外傷に伴う環境からの感染が原因であり、骨内部へ拡大した背景には当該豚の免疫低下が関与したと考えられます。一方、肺や骨盤周囲の病変については、常在菌の日和見的増殖、また、肺や左前肢病変から後肢への血行性分布によるものと考えましたが、椎体等には肉眼的な化膿性病変は認められず、局所的に膿疱形成に至った点が不明です。当該菌の病変形成について経験等含めご意見をいただければと思います。

診断

  • 組織診断 : 豚のグラム陽性菌による尺骨の化膿性骨髄炎
  • 疾病診断 : 豚トゥルエペレラ・ピオゲネス感染症

特別企画 令和6年度 第4回動物薬病理研修会
牛のワクチン接種部位筋肉の病理組織学的検索

農林水産省動物医薬品検査所
病理ユニット

平素より、動物薬事行政の推進にご理解、ご協力いただき感謝申し上げます。

このたび、動物用医薬品分野における病理学的検査担当者の能力開発・養成の場を設け、動物薬業界各社の病理学的検査体制の充実を図る目的で、動物用医薬品特有の分野(効能・効果の対象となる動物における動物用医薬品関連の病理学的変化)に係る研修会を下記のとおり開催いたします。

本研修会は、令和3年度から1年に1回の頻度で開催しており、今年度が第4回目の開催となります。今年度は第238回つくば病理談話会の特別企画として発表させていただくこととなりました。本研修会は動物用医薬品分野における病理学的検査担当者向けではございますが、つくば病理談話会にご出席の方におかれましても是非ご参加いただけますようお願い申し上げます。

本研修会で使用する標本は、参加登録後にバーチャルスライドにて観察していただけます。事前課題も設けておりますので、そちらにも是非ご回答ください。課題の回答は必須ではありませんので、標本のみ観察されたい場合も参加登録をお願いいたします。

詳細につきましては、動物医薬品検査所ホームページの「お知らせ」欄に開催案内および参加登録フォームを掲載しておりますのでそちらをご覧ください。


  • 令和7年2月28日(金曜日)16時00分~16時30分(時間帯は予定)

  • 農研機構 動物衛生研究部門 大会議室
    〒305-0856 茨城県つくば市観音台3-1-5
  • 開催方法
    第238回つくば病理談話会 特別企画として開催
    参加登録 : 動物医薬品検査所ホームページの参加登録フォームから
    URL : https://www.maff.go.jp/nval/
  • 研修内容
    牛のワクチン接種部位筋肉の病理組織学的検索
  • 問合せ先
    農林水産省 動物医薬品検査所病理ユニット担当 : 落合
    メールアドレス nval_pathology@maff.go.jp