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第240回つくば病理談話会演題

467) 牛の肝臓

  • 提出者(所属) : 清水 耕平(千葉県東部家畜保健衛生所)
  • 畜種 : 牛
  • 品種 : 黒毛和種
  • 性別 : 雄
  • 年齢 : 2日齢
  • 死・殺の別 : 鑑定殺
  • 解剖日 : 2024年9月12日
  • 解剖場所 : 千葉県中央家畜保健衛生所

発生状況および臨床所見

搾乳牛約100頭を飼養する酪農場において、9月10日に分娩予定日から約1カ月遅れで当該子牛が出生した。出生時後弓反張ぎみで初乳は摂取できなかった。9月11日に吸乳反射なく、四肢屈曲難、起立不能を呈した。臍に膿瘍が認められたため抗生物質が投与された。9月12日に初乳を摂取するが臨床症状改善せず予後不良で病性鑑定に供された。解剖時体重37kg、体温37°C、起立不能で眼球振盪を呈していた。

病原検索

細菌学的検査では、脳、心臓、肺、肝臓、腎臓、脾臓、下顎リンパ節、鼓室胞からEscherichia coli 血清型O20が分離された。このうち数株を対象に腸管外病原性大腸菌(Extraintestinal Pathogenic E. coli : ExPEC)の病原関連遺伝子を標的としたPCR法を実施したところfimH、iutA、iroN、irp2、fyuA、sitA、iss、ompT が検出された。

剖検所見

胸腺は軽度に低形成であった。肺では右前葉後部から後葉、左前葉前部から後葉にかけて点状出血が認められた。小腸では腸重積が1カ所認められた。左側の鼓室胞に膿様物が貯留していた。左の手根関節では透明、粘稠性のない関節液が増量、右手根関節では黄色、粘稠性のある関節液が増量していた。

組織所見(提出標本 : 肝臓)

肝臓では、門部において高度の小葉中心性の凝固壊死が広範囲で認められた。壊死部には軽度の出血と好中球浸潤、壊死部辺縁では肝細胞の軽度の空胞変性が認められた。また壊死部とその周囲に細胆管反応が軽度~中等度認められた。グラム染色では壊死部と周囲の類洞にグラム陰性桿菌が散見され、家兔抗E.coli O20抗体を用いた免疫組織化学的検査において菌塊に一致して陽性反応が認められた。臍帯では臍静脈壁においてグラム陰性桿菌を伴う化膿性炎が高度に認められ、炎症は周囲の結合組織に波及していた。腎臓では糸球体で微小な血栓が散見された。肺では胸膜の一部に軽度の線維素析出、好中球浸潤と、肺胞内に軽度の線維素析出を伴う出血、好中球浸潤が散見された。胸腺では皮髄が軽度不明瞭だった。脾臓では白脾髄のリンパ球が減少しており脾リンパ小節は認められなかった。回腸ではパイエル板のリンパ球減少が認められた。

討議

本県では子牛のExPEC感染症において本症例の様な高度の小葉中心性の肝細胞凝固壊死が認められたのは初めてである。類似症例のご経験について情報提供をお願いいたします。

診断

  • 組織診断 : 子牛の腸管外病原性大腸菌(ExPEC:O20)による小葉中心性肝細胞凝固壊死
  • 疾病診断 : 子牛のExPEC感染症

468) 豚の膵臓

  • 提出者(所属) : 服部 七星(埼玉県中央家畜保健衛生所)
  • 畜種 : 豚
  • 品種 : 雑種
  • 性別 : 雄
  • 年齢 : 約2カ月齢
  • 死・殺の別 : 斃死
  • 解剖日 : 2024年11月21日
  • 解剖場所 : 埼玉県中央家畜保健衛生所

発生状況および臨床所見

一貫経営養豚場において、11月初旬から離乳後約2週間の豚が下痢を呈し、虚弱個体の死亡頭数が増加したため、原因究明のため病性鑑定依頼があった。なお、当該農場では離乳後1か月間飼料に炭酸亜鉛を添加していた。また、母豚はPRRSワクチンを年3回及び豚熱ワクチンを年1回接種、肉豚は豚熱ワクチンを30~60日齢で接種しており、本症例は10月28日に豚熱ワクチンを接種済みであった。

病原検索

細菌学的検査では有意菌は分離されなかった。ウイルス学的検査では、PRRSウイルス特異的遺伝子が扁桃、肺、脾臓、腎臓から、豚サイトメガロウイルス特異的遺伝子が肺、脾臓、腎臓から、豚アデノウイルス特異的遺伝子が扁桃から検出された。

生化学的検査

肝臓の亜鉛濃度は1,683ppm、銅濃度は6ppm、鉄濃度は782ppmであった。腎臓の亜鉛濃度は979ppm、銅濃度は77ppm、鉄濃度は1,106ppmであった。

剖検所見

被毛粗剛および高度な削痩が認められ、体重は3.23kgであった。特異的な剖検所見は得られなかった。

組織所見(提出標本 : 膵臓)

膵臓では、腺房細胞および膵島の減少により既存の膵臓の組織は認められず、導管様構造により置換されていた。導管様構造の内腔には好中球を含む細胞退廃物を入れていた。小葉間結合組織は線維化およびリンパ球浸潤が認められた。グリメリウス染色およびアルデヒド・フクシン染色を実施したが、膵島は確認できなかった。

肺ではマクロファージおよびリンパ球浸潤により肺胞壁が肥厚していた。抗PRRSウイルス抗体を用いた免疫染色では、肺胞壁に浸潤したマクロファージの細胞質に陽性を示した。

討議

膵臓でみられた導管様構造は、腺房細胞から導管様上皮細胞への化生と考えてよいか伺います。また、同様の症例の経験がありましたらご教授願います。

診断

  • 組織診断 : 豚の膵臓腺房細胞および膵島の減少と導管様上皮細胞の増加が顕著な慢性膵炎
  • 疾病診断 : 豚の亜鉛中毒、豚繫殖・呼吸障害症候群(PRRS)

469) 鶏のファブリキウス嚢

  • 提出者(所属) : 宮﨑 貴生(静岡県中部家畜保健衛生所)
  • 畜種 : 鶏
  • 品種 : 岡崎おうはん
  • 性別 : 雌
  • 年齢 : 68日齢
  • 死・殺の別 : 鑑定殺
  • 解剖日 : 2024年7月17日
  • 解剖場所 : 静岡県中部家畜保健衛生所

発生状況および臨床症状

2024年7月16日、自家配合飼料を給与する約400羽規模の平飼い養鶏場から、脚弱、眼瞼浮腫、眼の白濁を主徴とした鶏の異常について通報があり、病性鑑定を実施した。当該鶏群は5月10日に初生導入され、10日後に脚弱の症状がみられた。当初はカルシウム過剰を疑い、飼料組成を変更したところ、一度は症状が軽減したが、6月20日に再び脚弱を呈した。脚弱を呈した個体のうち3分の1程度で眼瞼浮腫、眼球混濁がみられ、眼が開かなくなると衰弱が進行し、死亡が散発するようになった。また、当該鶏群では発育不良による個体間の大きさのバラツキが目立っていた。

病原検索

細菌学的検査では主要5臓器及び脳から有意菌は分離されなかった。ウイルス学的検査は、鳥インフルエンザ簡易キット陰性、血液凝集抑制試験でニューカッスルウイルスの抗体価は5倍未満、ファブリキウス嚢のパラフィン切片を用いた遺伝子検査で伝染性ファブリキウス嚢病ウイルス特異遺伝子は陰性であった。

剖検所見

提出症例を含む3羽全羽で削痩、2羽で左右眼球混濁がみられた。提出症例とは別の眼球混濁個体では、左右眼瞼の腫脹及び左眼瞼内にチーズ様物がみられた。また、3羽共に脾臓が著しく萎縮していた。

組織所見(提出標本 : ファブリキウス嚢)

ファブリキウス嚢の粘膜上皮で重度の扁平上皮化生および過角化がみられた。角化上皮細胞間には偽好酸球の浸潤や一部で細菌塊がみられ、ファブリキウス嚢内腔には細菌塊を含む細胞退廃物が貯留していた。また、濾胞内のリンパ球は減少し、髄質では細網細胞の増生がみられた。

上皮の扁平上皮化生や過角化は鼻涙管や尿管、嗉嚢でもみられた。また、鼻涙管では粘膜固有層にリンパ球や偽好酸球の浸潤がみられ、管腔内には細菌塊や偽好酸球を含む細胞退廃物、粘液の貯留がみられた。

討議

本症例は臨床症状及び組織所見からビタミンA欠乏症を疑った。ビタミンA欠乏症でのファブリキウス嚢における病変の報告例は少なく、成書にも記述がないようであるが、類似症例のご経験等あればご教授いただきたい。

診断

  • 組織診断 : 鶏のファブリキウス嚢における粘膜上皮の扁平上皮化生及び過角化
  • 疾病診断 : ビタミンA欠乏症を疑う