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第241回つくば病理談話会演題

470) 豚の肺

  • 提出者(所属) : 伊藤 咲(神奈川県県央家畜保健衛生所)
  • 畜種 : 豚
  • 品種 : 大ヨークシャー種
  • 性別 : 雌
  • 用途 : 繁殖
  • 年齢 : 26カ月齢(2023年2月15日生)
  • 死・殺の別 : 鑑定殺
  • 解剖日 : 2025年4月23日
  • 解剖場所 : 神奈川県県央家畜保健衛生所

発生状況および臨床所見

2025年4月23日に、県内農場において2回の不受胎・食欲廃絶・起立不能により、廃用判断となった母豚を解剖した。当該母豚は、2024年10月3日(2産目の離乳後)から発情不明瞭となり、11月22日、12月23日に再発情が認められたがどちらも不受胎となった。その後2025年1月12日に再発情し受胎した。3月25日から食欲廃絶となり、イプコン注で治療。4月2日には食欲廃絶に加え鼻汁や眼脂も現れ、アンピシリン及びビタミン剤で治療したが改善は認められず4月8日にダルマジンで人工流産を実施。胎子11頭に異常は認めなかった。その後も治療を続けたが改善せず廃用判断となった。治療中は体温38度程度と低く、ストール豚舎では当該母豚の他に40頭程度の母豚を飼養していたが、同様の症状を示す個体は認めなかった。

病原検索

ウイルス学的検査では、肝臓、腎臓、脾臓、肺、肺門リンパ節を用いてPCV2, 3及びPRRSVの遺伝子検索を実施したところ、PCV3が脾臓でのみ検出された。細菌学的検査では、肝臓から優位菌は認められず、サルモネラの増菌培養を行ったが陰性だった。

剖検所見

体長140cm、体高70cm、体重190kgで削痩、鼻鏡の乾燥、黒色眼脂、濃尿、左下顎擦過傷が認められた。肺では、全域で小葉間結合組織の明瞭化、前葉前部・後部、中葉、副葉の一部肝変化、肺門リンパ節の赤色肥大(3cm~10cm)、前葉前部先端で肺気腫を認めた。心臓では、心嚢水20ml(赤色)、僧帽弁に5mm大の薄黄結節物の付着、右心耳の肥厚を認めた。腹腔内には腹水200ml(淡黄色)が貯留し、20cm×5cmのゼラチン状塊を認めた。脾臓はやや腫大し、肝臓では胆嚢の暗赤色化、外側左葉に小豆大の白色結節を認めた。左腎皮質に放射状に梗塞巣を一ヵ所認め、一部空腸の軽度菲薄化、直腸に硬便停滞を認めた。

組織所見(提出標本 : 肺)

細気管支内腔に好中球、マクロファージを含む好酸性物質の貯留を認め、肺胞壁はリンパ球、マクロファージ、多核巨細胞の浸潤及び線維素血栓により重度に肥厚し、一部領域では好中球、肺胞水腫及び2型肺胞上皮細胞の増生を認めた。気管支周囲、小葉間結合組織、血管周囲及び肺胸膜には毛細血管~小血管の増生を認めた。肝臓では、微小肉芽腫及び出血巣の散在、小葉中心性の鬱血、多核巨細胞を認めた。心臓では筋線維の好酸性変化及び一部線維化、大型核及び連鎖核を認めた。腎臓では梗塞巣で尿細管間質の肥厚、ボーマン嚢上皮の肥厚、糸球体の委縮、線維細胞性半月を認め、比較的正常な部分では尿細管間質に多核巨細胞を認めた。空腸では、絨毛先端にかけて粘膜上皮の変性及び粘液産生の亢進を認めた。肺門リンパ節では、被膜直下の出血、リンパ球の減少、リンパ洞の拡張を認めた。

討議

本症例の様な血管増生のご経験及び病態生理、抗生物質使用後の評価についてご助言お願いします。

診断

  • 組織診断 : 肺小動脈の増生を伴うリンパ球組織球性間質性肺炎
  • 疾病診断 : 間質性肺炎(原因不明)

471) 牛の腎臓

  • 提出者(所属) : 竹澤 詩穂(茨城県県北家畜保健衛生所)
  • 畜種 : 牛
  • 品種 : ホルスタイン種
  • 性別 : 雄
  • 年齢 : 59日齢(2023年7月9日生)
  • 死・殺の別 : 斃死
  • 解剖日 : 2023年9月6日(死後約7時間)
  • 解剖場所 : 茨城県県北家畜保健衛生所

発生状況および臨床所見

約1200頭規模のF1及びホルスタインの肥育育成農場で2023年7月頃より子牛で下痢が多発。8月に4頭、9月に3頭死亡した。本症例は8月18日に導入し、8月20日から下痢がみられ治療が続いていたが、9月6日午前中に死亡し、同日原因究明のため病性鑑定を実施した(No.1)。また、同じ畜舎内で発生している下痢の6頭について糞便検査を実施した(No.2-7)。

病原検索

細菌学的検査では主要臓器、脳、空腸、結腸、胸水、腹水、関節液からEscherichia coli 血清型O78が分離された。ウイルス学的検査では、糞便スワブを用いたPCRで牛トロウイルスが陽性、牛ロタウイルス、牛コロナウイルス陰性。糞便のショ糖浮遊法でオーシストは認められず、イムノクロマト法でクリプトスポリジウム陽性。同じ畜舎内の下痢便では、牛ロタウイルス(No.3)、牛コロナウイルス(No.2, 3, 6)、コクシジウム(No.4)クリプトスポリジウム(No.7)陽性となった。

剖検所見

腹腔内には橙色で混濁した腹水が中等度貯留し、黄白色線維素が浮遊、臓器に付着していた。腎臓は右が27cm×17cm、左が21cm×14cmに腫大し、左腎の表面は白色で大小不同の隆起がみられた。割面では腎盂が顕著に拡張しており、左腎では中等度、右腎では重度に実質が菲薄化し、黄色混濁尿を容れていた。膀胱内は尿が充満していた。胸腔内にも腹水と同様の胸水が軽度に貯留し、心嚢膜とその周囲に線維素の析出がみられた。右股関節内には線維素が析出し、関節液は粘稠性が低下していた。

組織所見(提出標本 : 腎臓)

左腎臓(提出標本)では、皮質で放射状に壊死がみられ、壊死領域では、尿細管腔内に多数の細菌や好中球が充満し拡張し、特に菌塊がみられる部分で尿細管上皮細胞が壊死、脱落しており、周囲の間質には好中球が浸潤し、多くが変性していた。糸球体はボーマン嚢腔が拡張し、うっ血がみられ、周囲の血管では血栓がみられた。皮質と髄質の境界部ではうっ血が顕著で、髄質は菲薄化し、集合管管腔の変形、間質の結合組織増生がみられた。集合管は特に腎盂に近い部分で管腔内に菌塊、好中球等をいれ拡張し、間質にも好中球が浸潤していた。右腎臓では、皮質および髄質の菲薄化が重度で、一部で左腎臓と同様の壊死がみられた。膀胱では粘膜上皮細胞が脱落していた。肝臓、腎臓、胃、腸管の漿膜には線維素析出、好中球浸潤、細菌が軽度にみられた。脾臓、腸間膜リンパ節、鼠径リンパ節ではリンパ球数の減少がみられた。抗E.coli O78ウサギ血清(デンカ生研)を用いた免疫組織化学染色では、細菌に一致して陽性反応がみられた。

討議

今回の所見から菌は上行性に感染したと考えてよいか、ExPECや他の病原体での類似症例のご経験がありましたらご教授いただきたいです。また、診断名についてご意見いただきたいです。

診断

  • 組織診断 : 子牛の腸管外病原性大腸菌(ExPEC)O78感染による壊死性化膿性尿細管間質性腎炎および水腎症による髄質の菲薄化
  • 疾病診断 : 子牛のExPEC感染症、水腎症