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第242回つくば病理談話会演題

472) 豚の回腸

  • 提出者(所属) : 浪川 彩花(動物検疫所精密検査部病理・理化学検査課)
  • 畜種 : 豚
  • 品種 : デュロック
  • 性別 : 雄
  • 年齢 : 3カ月齢
  • 死・殺の別 : 死亡
  • 解剖日 : 2024年6月6日
  • 解剖場所 : 動物検疫所 横浜本所

発生状況および臨床所見

輸入検疫開始から検疫期間中に著変は認められず、死亡前日(検疫第5日目(6月5日))の夕方まで活力食欲ともに良好であった。検疫第6日目(6月6日)朝8時30分頃、死亡しているところを管理人が発見し、同日10時50分より剖検を開始した。

病原検索

ウイルス学的検査では、直腸スワブを用いたPEDのPCR法及び豚熱の中和試験は陰性であった。細菌学的検査では、空回腸内容及び結腸内容のスワブ、腸間膜リンパ節のスタンプ材料を用いた細菌分離を行ったところ空回腸内容スワブからEscherichia coliが分離された(定量培養は未実施)。大腸菌毒素遺伝子を標的としたPCR法を実施したが、毒素遺伝子は検出されなかった。

剖検所見

口腔粘膜は蒼白。腹部膨満を呈し、血様の腹水が多量に貯留していた。腸管は全長にガスを容れて膨満していた。小腸漿膜面は暗赤色調で腸壁に分布する血管は怒張していた。小腸壁は肥厚し、内腔に血様~暗赤色泥状物を容れ、粘膜面は暗赤色調であった。腸間膜リンパ節は暗赤色調に腫大し、割面は粗造で濾胞明瞭であった。脾臓の辺縁では斑状の暗赤色調の部分が認められた。肝臓は褪色していた。

組織所見(提出標本 : 回腸)

絨毛は軽度萎縮し、一部で脱落壊死した粘膜上皮細胞を混じた線維素が内腔側に滲出していた。絨毛先端部から粘膜固有層にかけてび漫性高度に出血及び充うっ血しており、同部位では好酸球主体の炎症細胞の浸潤が高度であった。好酸球浸潤は400倍1視野あたり20個以上認められ、脱顆粒像が散見された。粘膜下組織は一部水腫性軽度に肥厚しており、分布する血管は充うっ血し、一部で出血が認められた。腸間膜リンパ節は濾胞及び傍皮質領域が増生しており、辺縁洞及び髄質では分布する毛細血管の拡張及び好酸球の高度浸潤を認めた。脾臓は軽度に赤脾髄及び白脾髄が萎縮し、肉眼で認められた暗赤色部分に一致した赤脾髄領域では充うっ血が認められた。

討議

剖検所見的に異なる病変部位を細菌検査に供して、肺からTrueperella pyogenesおよびFu小腸の出血や病変を惹起するような病原体の存在は病原検索や組織学的検索からは認められず、寄生虫も確認されなかった。また大腸菌の毒素遺伝子も検出されなかった。組織所見では、動物で血便の原因ともなる好酸球性腸炎に類似する所見がみられることから好酸球性腸炎と診断したが、同様の所見のご経験があれば鑑別疾患等の知見を伺いたい。

診断

  • 組織診断 : 豚の回腸における高度な出血を伴う好酸球性回腸炎
  • 疾病診断 : 好酸球性腸炎

473) 鶏の腎臓

  • 提出者(所属) : 萩原 寛子(共立製薬株式会社)
  • 畜種 : 種鶏
  • 品種 : チャンキー
  • 性別 : 雌
  • 年齢 : 208日齢
  • 死・殺の別 : 鑑定殺
  • 解剖日 : 2025年8月26日

発生状況および臨床所見

約3万4千万羽規模の養鶏場において、170日齢ごろから全鶏舎で1日1、2羽程度の斃死が続き、総排泄口周囲の汚れが観察されていた。抗生剤投与を実施したが、死亡羽数の減少は確認されなかった。提出症例は、病性鑑定に供された4羽中のうち瀕死鶏1羽である。

病原検索

細菌学的検査では、提出症例の肝臓、脾臓及び腎臓から少数のStaphylococcus aureus(S. aureus)、提出症例以外では、死亡鶏1羽の肝臓、脾臓及び腎臓、別の死亡鶏の卵管からEscherichia coliが分離された。また、全羽の小腸内容からClostridium perfringens A型が分離されたが、定量培養では全検体106個/g以下であった。遺伝子検査では、提出症例以外の1/4検体の気管から伝染性気管支炎(IB)遺伝子が検出され、虫卵検査では、全検体から少数のコクシジウムオーシストが認められた。更に、提出症例以外の1検体においてワクモ感染が確認された。なお、IB生・不活化ワクチン、コクシジウム生ワクチンは接種済みであった。

剖検所見(提出症例)

外貌では、総排泄口周囲の汚れが観察された。肝臓はやや退色し、左葉には広範囲の出血が見られた。また、脾臓腫大、腎臓の腫大及び退色、卵胞の凝塊、卵管萎縮、空腸上部に有輪条虫寄生が確認された。

組織所見(提出標本 : 腎臓)

全域において、糸球体が顕著に腫大していた。腫大した糸球体では、メサンギウム細胞が著しく増生し、断片化した核も多数認められた。足細胞の腫大や剥離、糸球体基底膜の損傷や係蹄壁における顆粒状の好酸性硝子様物質も観察された。また、糸球体の分葉化やボーマン嚢との癒着も認められた。なお、糸球体において係蹄壁の肥厚や炎症性細胞は観察されなかった。ウサギ抗ニワトリIgY抗体(Jackson社)による免疫組織化学的染色(IHC)では、係蹄壁に沿って顆粒状の陽性反応が認められた。コンゴーレッド染色では、糸球体及び尿細管間質に極僅か(1%以下)のアミロイド沈着が確認された。他の臓器では、肝臓のディッセ腔にアミロイドが重度に沈着し出血も観察された。また、脾臓は白脾髄のリンパ球が減少または消失し脾臓構造が不明瞭になり、アミロイド沈着が確認された。その他、限局性の化膿性肺炎、卵管萎縮及び極軽度な小腸炎が観察され、ウサギ抗S. aureus 抗体(動物衛生研究部門)によるIHCでは脾臓及び肺炎巣に極僅かな抗原が認められた。

討議

増殖性糸球体病変は、臨床症状を示さない正常なブロイヤーでも観察されるとの記載もありますが、鶏における糸球体病変の報告は乏しいため、ご経験についてご教授お願い致します。

診断

  • 組織診断 : 肉用種鶏の腎臓におけるメサンギウム増殖性糸球体症
  • 疾病診断 : アミロイド症

474) 牛の下垂体

  • 提出者(所属) : 手塚 優奈(栃木県県央家畜保健衛生所)
  • 畜種 : 牛
  • 品種 : 黒毛和種
  • 性別 : 雄
  • 年齢 : 3カ月齢
  • 死・殺の別 : 死亡
  • 解剖日 : 2025年2月14日
  • 解剖場所 : 栃木県県北家畜保健衛生所

発生状況および臨床所見

飼養頭数45頭規模の繁殖農場で、2025年2月初旬に風邪症状を呈する子牛が農場内に複数頭認められた。同年2月6日に当該畜がふらつき及び風邪症状を呈したため、獣医師が抗生剤等で治療を行ったが、2月7日には起立不能及び痙攣を呈した。2月14日の朝、死亡発見され、病性鑑定を実施した。

病原検索

細菌学的検査では、肺からPasteurella multocida が分離された。その他の臓器では有意菌は分離されず、肺のマイコプラズマの検査も陰性であった。下垂体のパラフィン包埋ブロックを用いて遺伝子検査を実施したが、同定には至らなかった。

剖検所見

脳底部では、視床下部から下垂体にかけて白色泥状物が貯留していた。また、胸及び腰部脊髄周囲は暗赤色化を呈していた。左側の眼球は白濁し、眼瞼周囲の皮膚には小豆大の痂皮が認められた。肺は左前葉後部から後葉にかけて硬結し、右肺中葉に広範に暗赤色化部位が認められた。心臓では左心室弁に5mm大の血腫が単在していた。

組織所見(提出標本 : 下垂体)

下垂体では、腺性下垂体主部の中央部に境界明瞭な大型の膿瘍がみられた。膿瘍周囲には好中球が中等度浸潤し、膿瘍内には多量の細菌塊が認められた。グラム染色では、膿瘍内に多量のグラム陽性球桿菌と中等量のグラム陰性桿菌がみられた。

大脳から脊髄では、前頭葉から脊髄腰膨大部にかけて、軽度から中等度の化膿性髄膜炎が認められた。線条体及び側頭葉の側脳室には中等量の好中球が認められた。頭頂葉及び延髄では、単核細胞を主体とする囲管性細胞浸潤が散見された。グラム染色では、髄膜にごく少量のグラム陽性球桿菌がみられた。

肺の左前葉後部では、中等度化膿性気管支肺炎がみられ、好中球浸潤に一致して少量の細菌塊が認められた。グラム染色では、肺にグラム陰性桿菌が認められた。

討議

成書によると、下垂体膿瘍は口腔や鼻腔の外傷、中耳炎等が原因とされており、第三脳室の漏斗窩を介して脳室へ波及するとされています。今回病原菌の感染経路について特定には至りませんでしたが、本症例の髄膜及び脳室の病変は下垂体膿瘍から波及したものと考察してよろしいか、討議願います。また、このような病変を形成する菌についての知見があれば、御教授ください。

診断

  • 組織診断 : 牛のグラム陽性球桿菌及びグラム陰性桿菌による下垂体膿瘍
  • 疾病診断 : 牛の下垂体膿瘍、化膿性髄膜脳炎及び化膿性脳室炎、牛のパスツレラ症