478) 馬の肺
- 提出者(所属) : 萩原 妙子(千葉県東部家畜保健衛生所)
- 畜種 : 馬
- 品種 : サラブレッド
- 性別 : 雌
- 年齢 : 19歳
- 死・殺の別 : 安楽殺
- 解剖日 : 2025年9月11日(死後約2~3時間)
- 解剖場所 : 千葉県東部家畜保健衛生所
発生状況及び臨床所見
本症例は16頭を飼養する乗馬クラブの1頭で、5月以降、運動不耐性、呼吸数の増加、削痩傾向が認められた。食欲低下、発熱、発咳、鼻汁は認められなかった。飼養者は夏負けと考え、8月に補液を行い、レッスンは停止していた。その後、食欲廃絶し発熱を認めて求診に至った。
9月7日の初診時には、発熱(39.7°C)、心悸亢進(48回/分)、頻呼吸(48~54回/分)、呼吸困難、抑うつが認められ、抗生物質、コルチコステロイド、NSAIDsが投与された。9月11日朝に起立不能となり、同日昼に安楽殺処置が施された。
病原検索
肺、中気管気管支リンパ節、気管、鼻腔スワブ、気管スワブを用いたPCRで、全検体から馬ヘルペスウイルス5型(EHV5)特異的遺伝子が検出された。EHV1およびEHV4に特異的な遺伝子は検出されなかった。主要臓器から有意な菌は分離されなかった。
血液検査(9月7日採血)
WBC↑16,500/μl(Neu-Stab 5.0%、Neu-Seg↑88.0%、Lym↓6.0%)、Hb↓11.5g/dl
剖検所見
肺は全葉で退縮不全を呈し、右肺表面は全体的に暗赤色で後葉辺縁と背内側は白色、左肺表面は全体的に白色を呈していた。左右後葉背側の胸膜表面に不整形の平坦な斑状の隆起が散在していた。断面では広範に不整形で単在~融合する白色結節が密発していた。気管気管支LNは腫大していた。
組織所見(提出標本 : 肺)
提出標本では、線維化病変と硝子膜形成の顕著な病変が隣接・混在し、その境界は不明瞭であった。線維化病変部では、間質に中等度から高度の線維増生を認めた。Ⅱ型肺胞上皮細胞の増生、肺胞に泡沫状マクロファージおよび好中球充満、時に多核巨細胞を認めた。マクロファージ核内にCowdry A型封入体が散見され、まれにFull typeで好酸性に近い核内封入体もみられた。硝子膜形成の顕著な病変部では、肺胞壁の軽度うっ血と軽度のヘモジデリン沈着、Ⅱ型肺胞上皮細胞の高度増生を認めた。肺胞には変性、脱落、合胞体化した上皮細胞やマクロファージ、好中球の充満、漿液貯留を認めた。細気管支上皮の変性や脱落、時に合胞体形成、細気管支腔に脱落上皮、好中球、マクロファージの混じる粘液貯留が散見された。細気管支周囲に炭粉を貪食したマクロファージが散見された。胸膜の軽度のうっ血と出血、一部で好中球、マクロファージの軽度浸潤を認めた。
討議
封入体は主に線維化病変部のマクロファージに認められましたが、線維化病変に隣接・混在する硝子膜病変は、比較的正常に残存していた肺胞領域でEHVが肺胞上皮に感染・傷害した結果生じたものでしょうか。あるいは、EMPFに伴う慢性炎症反応や血管透過性亢進により二次的に発生したものでしょうか。硝子膜病変の形成機序についてご意見をいただきたいです。
診断
- 組織診断 : 馬のCowdry A型核内封入体を伴う肺線維症、びまん性肺胞傷害(DAD)
- 疾病診断 : 馬ヘルペスウイルス5型の関与する馬多結節性肺線維症(EMPF)
479) 牛の骨格筋
- 提出者(所属) : 中村 素直(JA全農 家畜衛生研究所)
- 畜種 : 牛
- 品種 : ホルスタイン
- 性別 : 雄
- 年齢 : 10日齢
- 死・殺の別 : 試験殺
- 解剖日 : 2025年6月13日
- 解剖場所 : 当所
発生状況および臨床所見
当該個体は当所の試験に供するために酪農場から分娩直後に導入された。導入時から起立困難で、試験期間中も左後肢は硬直し、前方に投げ出すように座していた。前肢および右後肢は運動可能で這いずるように移動していた。試験が終了し、採材のために剖検に供された。
病原検索
左大腿の骨格筋よりスタンプ培養を実施したが、有意菌は分離されなかった。
剖検所見
左後肢は硬直しており、特に左膝関節は屈曲が困難であった。左大腿部の骨格筋にて、暗赤色から黄褐色で時に煮肉様を呈し、硬結感を有する病巣を多巣性に形成していた。皮下組織、坐骨神経周囲は黄色透明で膠様を呈しており、左膝窩リンパ節は腫大していた。肺の右前葉から中葉にかけて黄褐色調、充実した領域を認めた。
組織所見(提出標本 : 骨格筋)
筋線維は形態を保持したまま多病巣性から融合性に凝固壊死し、正常な筋線維との境界部は、肉芽腫が厚く取り囲み血管新生を伴う部分、マクロファージが薄く層状に取り囲む部分が混在していた。一部の凝固壊死巣では境界部分の残存する筋線維に石灰沈着を認めた。筋線維間の結合組織は線維素が豊富で拡張していた。神経線維束内の神経内膜で被包される神経線維間は漿液、線維素、赤血球の漏出により拡張し、血管内に赤血球が充盈していた。神経線維束周囲の結合組織も同様に漿液、線維素が漏出しており、多発性に血管内皮細胞が壊死し、線維素と赤血球、細胞退廃物を混じる血栓を形成していた。また、脊髄に異常は認められなかった。
肺は広範囲に肺胞腔内に好中球、マクロファージ、異物型の多核巨細胞が浸潤していた。
討議
肉芽腫が区画する筋線維の凝固壊死を形成していたことから筋線維の梗塞巣と考え、左後肢に血管の閉塞が生じていた可能性を考えました。しかしながら、剖検の際には血栓などによる塞栓を確認することができませんでした。診断の妥当性について討議を希望します。また、こうした運動障害を呈する症例の剖検に際して、ご助言がありましたらお願いいたします。
診断
- 組織診断 : 牛の左後肢骨格筋における肉芽腫が区画する凝固壊死
- 疾病診断 : 血栓塞栓症を疑う、誤嚥性肺炎