国際活動

農研機構 欧州WUR拠点駐在員
研究管理役 後藤一寿

はじめまして

読者の皆さん、初めまして。農研機構欧州拠点駐在員の後藤です。これから本ページを通して欧州での活動内容や最新の話題について、レポート形式で連載いたします。まずは自己紹介をいたします。私の専門はマーケティングサイエンスです。農業・食品産業の高度なビジネス展開についてオープンイノベーションの視点から研究。新品種の産地化・商品化や機能性食品開発等に携わってきました。現在は、欧州でのオープンイノベーションや最新のイノベーション政策を調査しつつ、農研機構と欧州連携先との共同研究やプロジェクトの立案業務を担当しています。駐在員の仕事は多岐にわたります。例えば、欧州での日系企業や研究機関、政府関係機関とのネットワークの拡大なども重要な任務です。さらに、農研機構の欧州でのプレゼンス向上を目指したセミナーやシンポジウムの開催なども進めています。このような駐在員の様々な取り組みや展開、さらに欧州の最新の情報について連載の中でご紹介していきたいと思います。

写真:WURのアジアマネージャーKalyan氏(右)と著者(左)、在蘭日本大使館にて

ワーヘニンゲン大学・研究センターとの連携の経緯

それではまず、農研機構の拠点を設置しているオランダ王国ワーヘニンゲン大学・研究センター(Wageningen University and Research)との連携の経緯について紹介します。
農研機構では、世界の有数な研究機関との連携を強化し、両機関の強みを活かして農業・食品・環境分野における国際連携強化を進めています。特に農業・食品関係研究において世界ランキング1位のオランダワーヘニンゲン大学・研究センターとの連携は重要です。2014年に農研機構とオランダワーヘニンゲン大学・研究センターとの組織間の交流がスタートし、2015年には包括連携協定(MOU)を締結いたしました。施設園芸分野などでの共同研究に加えて、農研機構の在外研究員制度などを活用し、研究者同士の交流も活発となっています。このような連携の下、2017年には農研機構とワーヘニンゲン大学・研究センターとのさらなる研究交流加速のために連絡研究員(リエゾンサイエンティスト)を配置することが決定し、合意文書に署名されました。この合意を受けて、2018年4月より農研機構本部より研究職員(研究管理役)が派遣され活動をスタートしています。2018年9月には、農研機構とワーヘニンゲン・大学研究センターとの連携のさらなる強化を目指し、久間理事長の欧州歴訪の最初の訪問先として同大学を訪問。ルイーズ・フレスコ総長と共同研究のさらなる推進について協議し両機関の連携強化を再確認、連携協定延長の合意文書に署名しました。さらに2019年9月には、連絡研究員の派遣延長に関する合意文書が交わされ、農研機構の目指す国際連携による世界の農業課題への貢献が再確認されました。一方、日蘭両政府レベルでは、2016年より日・オランダ農業協力対話が開始され、農業関連分野の様々な課題について議論されています。農研機構およびワーヘニンゲン大学・研究センターも政府の動きに呼応し、緊密に連携して課題解決に取り組んでいます。日本と欧州の連携強化による様々な共同研究の実現を目指しています。

写真:ワーヘニンゲン大学研究センターの講義棟Forum
写真:久間理事長(前列右)とフレスコ総長(前列左)による調印式

ワーヘニンゲン大学・研究センターの特徴

私の所属するワーヘニンゲン大学研究センターの大きな特徴は、国立農業大学と国立農業研究機関が統合され1つの組織になっている点です。同大はオランダのなかで唯一農業と食品に特化した大学です。このワーヘニンゲン大学・研究センターのユニークな組織について紹介します。ワーヘニンゲン大学・研究センターでは、組織改革に伴い、大学教育部門と研究所部門を同一組織内に有しています。大学部門では、学部・大学院教育を中心に行い、研究では基礎研究を主に担当。研究所部門は、オランダ全土に支所を持ち、応用研究・戦略研究を中心に担当しています。さらに、企業等からの共同研究も担当し、実学に近い研究の推進が特徴です。この研究所部門は農研機構と同じような役割を持つ組織です。

ワーヘニンゲン大学・研究センターの組織は、総長を中心とする役員会、役員会のアドバイザリーボード、本部スタッフ、施設設備スタッフに加えて、5つの分野にわたる専門グループで構成されています。専門分野は植物研究部門、食品・バイオ研究部門、動物研究部門、環境研究部門、経済研究部門の5分野で、それぞれ大学と研究所に分かれています。そしてこの5つのグループを統括するゼネラルマネージャーがいて、役員会のメンバーとなっています。さらに食品安全研究所があります。この研究所はダイオキシンや食品中の毒素等の分析を実施する機関です。

農研機構がリエゾンサイエンティストを設置している部局は大学本部のCorporate Strategy & Accounts (戦略本部)内です。この戦略本部では、大学の戦略、企業や政府との連携構築、外部研究資金の獲得、国際連携や国際戦略を担当しています。大学全体に関わる戦略立案に関わる部局であり、大学の中でも重要な位置にあります。戦略本部内には、私の他に、韓国、イラクからの駐在員が常駐しています。ワーヘニンゲン大学と農研機構の連携窓口はCSAのAccount Manager(アジア担当)です。Account Managersは5人おり、それぞれ、アジア、カリブ・ラテンアメリカ、アメリカ、アフリカ、中国をそれぞれ担当しています。Account Managerの役割は、それぞれの担当エリアとの連携強化、共同研究の推進、大学との連携強化、関連国との連携強化が主な役割です。農研機構は、ワーヘニンゲン大学・研究センターのスタッフとともに日蘭の強みを活かした活動を展開しています。

図:ワーヘニンゲン大学・研究センターの組織

今回は、農研機構欧州拠点の紹介、拠点が設置されているワーヘニンゲン大学・研究センターについて紹介しました。これからの連載について、まずはオランダの情報を中心に紹介していきたいと思います。例えば、なぜオランダが世界第2位の輸出国になれたのか?最先端の施設園芸研究、昆虫・植物代替タンパク質がブーム?馬鈴薯産業の展開など、様々な側面からオランダ農業、欧州での研究について紹介していきます。さらにワーヘニンゲン大学・研究センターで実施されている様々なプロジェクトについても随時ご紹介いたします。どうぞご期待ください。

参考URL: Wageningen University and Research