おいしいオランダの馬鈴薯
オランダを代表する農産物の一つに馬鈴薯があげられます。馬鈴薯は、馬鈴薯をこよなく愛するオランダ人の食生活に欠かせないものになっています。そこで、今回はオランダの馬鈴薯産業を紹介するとともに、農研機構がワーヘニンゲン大学研究センターとスタートさせる馬鈴薯関係の共同研究について紹介します。
オランダでは、実に様々な馬鈴薯が販売されています。販売されている馬鈴薯は煮る、焼く、揚げるといった用途ごとに販売されています。冷凍のポテトフライの価格も安く、2.5キロで1.9ユーロ(240円)程度です。街を歩けば、ポテトフライお店がたくさんあり、店頭で生の馬鈴薯をカットし揚げたてを提供してくれます。また高級ポテトフライの専門店もあり、様々なトッピングとともに提供してくれます。ロックダウン前の状況ではありますが、街を歩けば、揚げたてのポテトフライをホクホクとおいしそうに頬張るオランダの方々に出会います。もはや国民食です。有名なゴッホの絵画「ジャガイモを食べる人々」でも写実の中心テーマは馬鈴薯です。古くから馬鈴薯が主要な食糧であり、誇りを持って生産している様子を物語っています。馬鈴薯がいかにオランダ人に食生活に浸透しているかがうかがえます。また、オランダ人の馬鈴薯に対するこだわりもとても強いと感じます。
オランダ馬鈴薯産業の主要データ
ここでオランダの馬鈴薯生産の主要データについて見てみましょう。馬鈴薯全体の作付面積は2000年以降15万~16万ha前後で推移しています。馬鈴薯は調理して食べる「生食用」デンプンの原料とする「デンプン原料用」種子として販売する「種子用」に分けられます。公開されている最新の作付けデータ(2019年)では、生食用78,898 ha、デンプン原料用45,007 ha、種子用43,708 haでした。総生産量で生食用47%、デンプン用27%、種子用26%でした。年次変動では、デンプン原料用の生産が減少傾向であるのに対し、種子用の生産が拡大しています。これは後述します種子輸出の増大に起因します。
生食用馬鈴薯農家の農家数は減少傾向にありますが(2019年:6,953戸)、農家当りの平均耕作面積は増加傾向です(2019年:約11 ha)。種芋農家数は2012年以降やや増加(2019年:2380戸)し、農家当りの平均耕作面積(2019年:約18 ha)および総耕作面積(2017年:4.4万ha)も増加傾向にあります。でん粉用農家数は年々減少傾向(2019年:1,587戸)し、農家当り平均耕作面積(2019年:約28 ha)および総耕作面積(2019年:4.5万ha)も2011年から減少傾向です。なお、これらの最新データはWageningen University and ResearchEconomic Researchが提供しているAgri &Food Portalにていつでも参照可能です。
オランダの馬鈴薯は多くが国内で冷凍ポテトフライに加工され輸出されています。図4はオランダ統計局によりまとめられたインフォグラフィックスですが、国内加工品の83%が輸出に回っています。冷凍ポテトフライの主な輸出先は、イギリスが最も多く、次いでドイツ、フランス、ベルギーが続きます。EU外では南アフリカ、アメリカなどが入っています。オランダ国内で、冷凍ポテトフライに加工することで付加価値を高め、主要な輸出品目へと成長させていることがわかります。
輸出品としては、オランダは種芋の世界シェアで60%(2017年)を誇る種子馬鈴薯の生産拠点です。種子馬鈴薯シェア2位はフランスですが、2位でもシェア10%、3位のイギリスは9%とオランダの圧倒的なシェアがわかります。種子馬鈴薯は病害虫への対応など厳しい栽培管理基準が設けられており、オランダの高い生産技術が種子馬鈴薯の生産を支えているといえます。また同時に、世界の馬鈴薯産業を支えている重要な役割も担っているといえるでしょう。
日本との比較と今後の展開
日本の馬鈴薯産業を概観すると、北海道を主要な産地とするデンプン原料用馬鈴薯、ポテトチップ等の加工用馬鈴薯、生食用馬鈴薯の生産があげられます。生産規模や生産性(反収)等をオランダとの比較(表1)で見てみましょう。農家数のみの比較で見ると、オランダが7,000戸に対して、日本65,000戸(北海道のみで8,918戸)と日本の方が大幅に多い事がわかります。生産規模が近い北海道での比較で見るとそれほど差はありませんが、栽培面積では、圧倒的にオランダが多くなります。生産性の指標である反収を見てみても日本が2.8から3.3トンであるのに対し、オランダは4.5~5.5トンと非常に高くなっています。オランダの馬鈴薯産業の特徴は、多様な品種の生産と平坦で広大な農地の効率的な利用による高い生産性が挙げられます。
WURとの馬鈴薯共同研究スタート
これまで見てきましたように、オランダの馬鈴薯産業は種子、生食用とも高い生産性を示しています。これらの生産性向上には、ワーヘニンゲン大学をはじめとする大学研究機関の貢献が大きいと考えられます。農研機構では2015年にWURと締結したMOUに基づき、WURとの連携強化および共同研究の推進を掲げあらゆる分野での共同研究推進を目標に、日蘭両国に資する研究を検討しています。2018年より馬鈴薯を対象としたデータドリブンアグリカルチャー(データ駆動型農業)に関する共同研究を検討して参りました。様々な研究機会と条件交渉の結果、オランダ政府の進める研究事業Topsectorに共同申請し採択に至りました。採択課題は"Transition To A Data-Driven Agriculturen (TTADDA) - for a new Dutch & Japanese Potato Circular Value Chain"です。また、農研機構とWURの2者間でも共同研究契約にて馬鈴薯生育状況のドローンによる計測等を実施し、馬鈴薯生産の高度化を図ります。いずれの研究も2020年度から4年間実施される予定です。Covid19感染症によるパンデミックにより、両国間の渡航は厳しい状況でございますが、再度渡航がかなうようになりましたらオランダ、北海道の生産フィールドでワークショップを開催するなど現場密着の研究を推進する方針です。
オランダ馬鈴薯産業の強みと、日本の精密農業の強みを活かし、両国の馬鈴薯農家・馬鈴薯産業に貢献できる研究成果の創出を目指します。