中日本農業研究センター

所長室より -【雑草イネに注意】-

中央農研の雑草制御グループでは、難防除雑草の一つである雑草イネに関する研究に取り組んでいます。
雑草イネは、栽培イネ(食用に用いられるイネや飼料用に用いられるイネなど)と同じ植物種であり、同じような姿をしています。しかし、この雑草イネは、種子が実るとすぐに脱落する性質があり、また、玄米色が赤いものが多く、収穫した米に混じると異物混入として取り扱われることになります。このようなイネを総称して、雑草イネ(weedy rice)と呼ばれています。
雑草イネも植物としてはイネなので、水田内の栽培イネの中に生えている雑草イネを除草剤で簡単に防除することはできません。一方、雑草イネが繁茂してしまうと、通常の雑草と同様に、本来の栽培イネの生育を抑制し、収量を低下させてしまいます。また、赤米の混入は、米の検査等級の低下などの問題につながります。この雑草イネは上述したように脱粒しやすいという性質があるので(手で穂に触れると簡単に粒が落ちてしまいます)、適切な対策を講じていかないと水田圃場全体に雑草イネが蔓延してしまい、栽培イネが収穫皆無になるといった事態も生じかねません。
このような赤米の形質を持つ雑草イネによる被害は、長野県ではじめに顕在化しましたが、そこでは水稲の直播栽培圃場で問題になっていたこともあり、これまでは直播栽培が雑草イネの蔓延の要因であると考えられてきました。しかし、昨年度、中央農研・生産体系研究領域の今泉智通主任研究員が、雑草イネが発生していた全国27地区(8県)を対象に聞き取り調査を実施した所、(1)水稲直播栽培の経験のある所は4地区のみであり、その他の23地区(85%)は移植栽培しか実施していなかったこと、また、(2)4県5地区では2000年以前からすでに雑草イネが発生していたことを明らかにしました。このことは、雑草イネは、最近生じてきた問題ではないこと、そして、水稲直播栽培に限定されるものではなく、移植栽培の圃場においても十分な注意が必要であることを意味します。
現在、水稲直播栽培の普及面積は2%程度にすぎませんが、移植栽培でも雑草イネが発生しているとなると、問題はかなり深刻であると言えます。また、雑草イネは、栽培期間中は通常のイネとの識別が難しいため、どうしても対応が遅れがちになります。そのため、中央農研では、雑草イネの特徴や、雑草イネを防除していくためのポイント等を整理した「警戒情報パンフレット-雑草イネ-」を作成し、ホームページで公開しています。
なお、現在の所、水稲直播栽培における雑草イネに有効な対策はありません。これは、直播栽培では、本田に直接種子を蒔くため、栽培用のイネも雑草イネも同時に出芽してくるからです。しかし、一方では稲作経営の規模拡大もかなり進んできており、水稲作の展開において直播栽培は欠かせない技術となっています。この点からも雑草イネの防除は重要な課題であり、まずは移植栽培においてこの雑草イネを早期に発見し、雑草イネが発生していた圃場に対してはパンフレットに示す除草剤の体系処理と手取除草を実施するなど、確実な対策を講じていく必要があります。
今回紹介した成果について詳しくは、上記のパンフレットや、後日、農研機構のホームページで公開予定の平成28年度普及成果情報「雑草イネは水稲移植栽培においても問題化する」を参照して下さい。
また、この雑草イネに対する注意喚起については、農林水産省『農業技術の基本指針』(平成29年改訂)のII営農類型別の技術的対応の方向、(I)水田作においても新たに記載が追加されています。これについては、農林水産省のホームページをご覧ください。