中日本農業研究センター

所長室より --農業法人における人材育成のポイントを刊行(その1)--

HRD_Point.jpg農研機構「マネジメント技術プロジェクト」では、先般、雇用型農業法人における人材育成に関する具体的取組を詳述した研究成果パンフレットを、中央農業研究センターのホームページ(「マネジメント技術」のコーナー。http://fmrp.dc.affrc.go.jp/)で公開しましたので、その概要を紹介します。
2017年3月24日の本欄(雇用型法人経営の人材育成をテーマに農研機構シンポジウムを開催)でも述べましたが、雇用型の農業経営の形成が進む中で、それらの経営においては人材の育成をどのように行っていくかが重要な課題となっています。特に、被雇用者がそれまで農業を体感したことのない非農家子弟であることも多いため、従業員への教育や能力養成に力を入れる経営が増えてきています。その際、単にノウハウを伝えるということだけでなく、従業員の能力や経営改善意欲の向上を図る取り組みもなされてきていることが注目されます。今回紹介するパンフレットは、法人経営への実態調査をもとに、それら雇用労働力を導入する農業経営における人材育成対策のポイントを整理したものです。
担当者は、常時雇用者を導入している20法人へ聞き取り調査(水田作4、露地野菜作8、施設野菜作5、畑作3)を実施するとともに、そのうち、複数の社員に生産管理(各種計画の作成、作業指示、要員配置など)の多くを任せていた4法人を取り上げ、それらに共通する人材育成のための取り組みの特徴、要点を摘出しました。
この4法人に共通する対応として、1従業員参加と情報共有の推進、2権限委譲の推進、3「個人別PDCAサイクル」の推進、4定期的なフィードバックやアドバイスの提供が指摘できます。
第1の「従業員参加と情報共有の推進」については、各法人とも、朝礼等の集まりや定期的な会議の場で作業の進捗状況や現在の課題を伝えて意見交換を行うといった対応を実施しています。家族以外の従業員が多くなると、農場での出来事を他人事と感じる従業員も生じてきますが、それらを自分の事と感じてもらうには組織に対する関心を高める必要があります。この点では、従業員の経営参画の場(会議、勉強会等)の確保や、農場内での出来事についての情報やデータを従業員と共有していくことが有効です。
第2は、「権限委譲の推進」です。各法人とも、作業別、作物別、エリア別などで責任者を決め、作業遂行や人員配置等に関する意思決定を任せています。このような権限移譲は農場運営に対する従業員の関与(帰属意識)を高めるとともに、モチベーション向上にもつながります。
第3は、「個人別PDCAサイクルの推進」です。各法人とも、従業員に対して個人別の目標や農場としての生産数量目標を設定させ、その結果が出た段階で、目標を達成できたかどうか、達成できなかった場合には何故達成できなかったのか、さらに、今後どのように改善したら良いのかなど、それぞれの担当者に考えさせる機会を与えています。
第4は、「定期的なフィードバックやアドバイス」です。各法人とも、権限委譲により責任や意思決定の一部を従業員に負わせるといった対応を行っていますが、単に任せっぱなしにするのではなく、経営者が求める役割に対してどの程度職務が遂行できているかを指摘する、あるいは、今後の成長に向けたアドバイスを与えるなどの支援を行っています。このような経営者の考え、評価等を定期的に伝えることで、組織の問題や改善案を考える上で新たな視点を発見するきかっけをつくるなど、従業員の育成を図ろうとしているのです。
各事例の営農類型や経営者の考え、組織文化などに応じて実施すべき対策は異なるため、それらに対して現場レベルで具体的にどう取り組んでいくかはまだ試行錯誤を重ねていく必要がありますが、しかし、いずれにしても「人を育てることが組織の維持・成長につながる」という信念のもと、粘り強く取り組んでいくことが重要です。
本稿では実践されている人材育成対策のポイントを解説しましたが、次回からは、各法人での具体的な取り組みの事例について紹介します。