中日本農業研究センター

所長室より --農業法人における人材育成のポイントを刊行(その3)-(業績評価と目標管理)--

前回は、(株)山波農場における作業別責任者制度について紹介しましたが、このような従業員への責任や権限の付与と併せて、給与体系構築の際に業績評価の導入も進められてきています。
例えば、この山波農場では、勤務時間に基づく給与体系だと仕事が早く終わる人ほど給与が安くなり、業務効率向上への動機付けにつながらないという理由から、2004年より年俸制を採用しています。その際、入社5年目までは業績評価と給与は連動させず、6年目以降、かつ、25歳以上から、年齢に応じた定額部分(35歳まで上昇し以降は一定)と業績評価に応じた変動部分を合計して年間の給与総額を決め、それを12分割して月々に支払うという方式にしています。なお、変動部分は給与総額の半分、減額幅は前年の10%までと決められています。
そして、その変動部分を規定する業績評価の方法については、毎年1~2月に代表が面談を行い、a.作業別責任者としての評価(作業別のランク5段階×作業責任者としての遂行度評価7段階)、b.技術・知識・協調性などに関する評価14項目について、いずれも7段階の絶対評価で実施しています。中位の4点は標準ではなく、最初1点から始まり、徐々に7点に上がっていきます。さらに、JGAPの管理項目で決められた責任者(農薬管理、労働安全など)を担当すると(山波農場はJGAP認証農場です)、査定が上がる仕組みとなっています。そして、代表は、この業績評価の面談の場で、代表から見た各人の長所や、今後伸ばしていくべき能力などを話し合うようにしています。
また、長野県の(有)ティーエム(しろうま農場)でも、何年かの試行錯誤を経ながら、2013年度より以下のような技能と目標達成度合いに応じた給与制度を導入することとしました。
その一つが、基本給に加え、機械操作のレベルに応じた手当の導入です。機械操作のレベルは5段階に分かれ、トラクター操作、ロータリーがけ、代掻き、アタッチメント脱着等の習熟度に応じてランク分けされ、レベル1は最低限のトラクター操作とロータリーがけができる、レベル2は代掻きができる、レベル3は指示がなくても1人でロータリーと代掻きができる、レベル4はどのような作業機でもトラクターを操作できアタッチメントの脱着もできる、レベル5は代表と同様に何でもできるといった区別となっています。そして、最上のレベル5では、月2万円の手当が支給されることになっています。
また、基本給は、年齢に応じた固定部分に、個人別の目標達成度に応じて月+1~-1万円が加減される方式となっています。なお、この個人別目標については、それぞれが職務上達成したいと考える目標を、毎年3月下旬の営農開始前の会議の場で、社員全員の前で表明します。そして、11月には、各従業員が自ら表明した目標に対する達成度を自己評価して報告書を作成し、さらに、農場長と副農場長も各社員の目標達成度を評価します。それらを踏まえ、最終的に、役員会で各社員の人事評価が決定されます。
評価結果は秋から冬に代表により面談で伝えられるとともに、そこでは、各社員の良かった点や、今後の課題などが話し合われます。また、新人社員とは年3~4回面談を行うなど、きめ細かい対応を心掛けています。なお、このような個人目標の設定おいては、目標を明確にすること、特に、達成目標が具体的な内容となること(例えば、フォークリフトの免許をとるなど)を意識して設定するようにしています。
人材育成において、多くの法人では、固定的な部分と実績に対応した変動部分を設け、かつ、この変動部分は、より高度な技能の獲得や、目標への達成度合いから評価していく仕組みとしています。そのような目標設定や技能レベルに応じた手当や報酬を設けることは、従業員の能力向上や経営改善意欲を喚起していく上で有効な手段といえるでしょう。
また、そこで注目されるのが、獲得すべき技能レベル、あるいは目標設定が抽象的なものとならず、業績評価が客観的、公正に行えるよう具体的な内容となるようにしていること、また、評価の方法や社員の目標設定に関する情報を会社全体で共有されるようにしていること、さらに、評価結果をただ通知するのではなく、代表が一人一人の社員と面談し、そこにおいて改善点や今後取り組むべき方向を伝えようとしているという点です。
このような業績評価の実施は、農業法人に限らず多くの組織、会社において実施されていることですが、これまで、そのような業績評価が難しい、あるいは、不向きと考えられてきた農業法人においてもそれが進められてきていることが注目されます。この点では、それぞれの経営の特徴、事業内容に即した取り組みを実施していく必要があります。
なお、以上の内容について詳しくは、パンフレット「農業法人における人材育成のポイント」(https://fmrp.dc.affrc.go.jp/publish/management/HRD_Point/)を参照して下さい。