中日本農業研究センター

所長室より --2つの国際シンポジウムを開催--

本年9月に、中央農業研究センターが中心となって2つの国際シンポジウムを開催しました。
その一つが、9月19日(火)に京都市で開催した雑草イネに関するシンポジウムです(農研機構国際シンポジウム:「Weedy Rice, the stranger in our midst. Can we get along? 」。なお、シンポジムの構成はhttp://www.naro.affrc.go.jp/event/list/2017/09/077206.html を参照して下さい)。このシンポジウムは、第26回アジア太平洋雑草科学会議の前日に開催したものですが、合計139名、うち海外からもアジアの国々を中心に65名の参加があり、この問題に対する関心の高さが伺われました。
雑草イネが発生してきていることは、以前に、この「所長室より」のコーナー(http://www.naro.affrc.go.jp/narc/director/2017/074478.html)で紹介しましたが、これは日本だけでなく、海外の稲作でも大きな問題となっています。
シンポジウムでは、米国、中国、オーストラリア、日本の4ケ国、合計6名の研究者から雑草イネの遺伝的由来や種子休眠性、さらに、雑草イネを制御していくための具体的な対策等について報告がなされました。特に、最後の「アジアにおける雑草イネ制御のための戦略」という講演は、オーストラリア・クイーンズランド大学のBhagirath Chauhan博士が、以前に国際イネ研究所(IRRI)で雑草イネ対策に関する研究を進めてきた経験に基づく知見を報告されたもので、その内容は多岐にわたる示唆に富むものでした。同時に、海外においても品種選択や栽培対応面で様々な試行錯誤を行っている状況にあり、雑草イネに対する有効な対策はまだ見出し得ていないという印象を受けました。この点では、広く海外の研究者とも情報共有を図りながら、営農現場において実効性を持つ対策を確立していく必要があり、同時に、そこでの成果は、海外の稲作の技術的問題点の改善にもつながる包括的なテーマであると思います。
また、9月29日(金)には、つくば市において、「作物の持続的安定生産を目指した病害虫管理技術開発の展望」をテーマに農研機構国際シンポジウムを開催しました(シンポジウムの構成は、http://www.naro.affrc.go.jp/event/list/2017/07/076273.htmlを参照して下さい)。
このシンポジウムは、前日に行われた農研機構における病害虫研究分野に対する海外レビューに続いて開催したものであり、シンポジウムでは、レビューアーとして招いたドイツ・ユリウスキューン研究所のJohannes A. Jehle博士、アメリカ・カリフォルニア大学デービス校教授のDiane E. Ullman博士、アメリカ・ワシントン大学教授のRoger N. Beachy博士に加え、宮崎大学農学部の大野和朗教授、東京大学大学院総合文化研究科の渡邊雄一郎教授、さらに農研機構から2名(果樹茶業研究部門・中野亮主任研究員、野菜花き研究部門・飯田祐一郎主任研究員)という合計7名の講演者により海外及び日本での病害虫研究における先端的な取り組みが紹介されました。
中でも、Beachy博士からは、今後の世界の食料生産の方向を考えていく上で環境保全型農業は非常に重要な役割を持つこと、また、そのためにも、化学合成農薬の適正な使用や化学農薬に代替する技術の開発が重要となること、さらに、そのような研究開発に関する情報発信や研究成果の社会への還元ということについて研究者は社会的責任(social responsibility)を持つ必要がある等の指摘を受けたことが印象的でした。
このシンポジウムでは合計117名の参加者があり、今後の病害虫管理技術の開発を進めていく上で多くの示唆を得ることができました。
研究を進めていく上では、幅広い視野のもとで、海外における先進的な取り組みに関する情報を積極的に得ていくことが重要であり、この観点からも、今回のような国際連携・共同に関わる活動を引き続き実施していきたいと考えています。