動物衛生研究部門

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マイコプラズマ乳房炎伝染力が強く難治性

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対象家畜

特徴

マイコプラズマ乳房炎

マイコプラズマが原因となる牛の乳房炎で、主な原因菌種はMycoplasma bovisである。マイコプラズマは宿主特異性が強い微生物であり、牛由来のマイコプラズマは他の動物にはほとんど感染しないが、牛群内での伝染力は極めて高い。

本疾病では乳房の4つの分房のうち、ひとつまたは複数に腫脹や発赤が起こり、泌乳量が激減あるいは泌乳が停止することもある。乳汁中に炎症性細胞が増えることによる乳質の低下や固形物の混入が見られるが、発熱や食欲不振は少ない。

罹患牛の乳汁は高濃度のマイコプラズマに汚染されているため、搾乳作業を介し容易に牛群内で蔓延する。原因マイコプラズマは罹患牛の乳汁のほか、周辺の敷きワラ、水回りなどの環境からも分離されるが、外見上健康な牛の呼吸器や生殖器にも生息している。一見健康であっても十分な検査を伴わない牛の導入は、マイコプラズマが清浄牛群に侵入し、本疾病が発生する契機となる。また、マイコプラズマは一般細菌用の培地では培養困難であり、また培養に2日以上を要する点が本疾病の診断を遅らせ、その結果として感染を拡大させる要因となっている。

わが国では、16員環マクロライドやテトラサイクリン系抗菌剤に対する低感受性M. bovis野外株が2000年以降全国的に蔓延している。また、肉用牛由来株の約7割、乳用牛由来株の約3割でフルオロキノロン系抗菌剤に対する低感受性変異が確認されている。一方、M. bovis以外の原因菌種であるM. californicumM. bovigenitaliumの野外株では、これら抗菌剤に対する感受性が現在も概ね維持されている。

対策

本疾病に有効なワクチンは報告されていない。M. bovis感染の場合、感染牛の早期摘発ならびに淘汰による蔓延防止が主な対策となる。抗菌剤感受性株やM. bovis以外の原因菌による乳房炎の場合、抗菌剤治療も有効策の一つである。抗菌剤治療後は環境性乳房炎の発生頻度が高くなるため、搾乳時のディッピングや牛舎環境の衛生管理の徹底による環境性乳房炎発生防止が重要である。不顕性感染牛も多く認められるため、本疾病発生歴がある農場では定期的なバルク乳検査と子牛鼻腔スワブ検査が感染牛の早期摘発につながる。前述のとおり、導入牛に対するマイコプラズマ検査は清浄牛群における原因菌の侵入を防ぐ有効策と考えられる。

[写真:Hayflick変法培地上のM. bovisの菌集落(colony)。目玉焼き状のcolonyとcolony周辺に存在する皺状構造物(film spot)が特徴である。]

動物衛生研究部門 : 秦英司


情報公開日 : 2015年1月14日
情報更新日 : 2024年11月18日