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対象家畜 :豚、いのしし
1. 原因
ASFウイルス(African swine fever virus、ASFV)は、asfarviridae科に分類される大型2本鎖DNAウイルスである。ウイルス粒子の大きさは260-300nmで、外部および内部に2つのエンベロープを有する。豚の単球・マクロファージでよく増殖する。
2. 疫学
本ウイルスは、アフリカ大陸のサハラ砂漠以南に棲息するイボイノシシなどの野生動物とダニの間で不顕性感染してきたと考えられる。近代化に伴い、欧州から家畜として豚が導入されたことによって致死率100%に達する豚(およびイノシシ)の感染症として顕在化した。1950年代後半には、ヨーロッパ、中南米で大きな流行となり、養豚業に多大な被害をもたらした。また、2007年には汚染した食物の残渣を介して黒海沿岸のジョージアに侵入し、以来、アゼルバイジャン、ロシア、ウクライナなどへ拡大し、2020年末までにベルギーやドイツといった西ヨーロッパの国々まで波及している。他方、同系統のウイルスはユーラシア大陸東方へも拡大し、2018年にはアジアで初めて世界最大の養豚国である中国(遼寧省)で発生した。この発生の後、中国大陸全省にまん延したほか、韓国、ベトナム、モンゴル、ラオス、ミャンマー、カンボジア、フィリピン、インドネシア、東チモールなど、アジア・太平洋地域の国々で猛威を振るい、甚大な被害をもたらしている。
3. 臨床症状
症状は、急性例では臨床症状や病理所見はCSF(豚熱)と酷似し、外貌から区別することは困難である。病態はウイルスの病原性の強さによって甚急性、急性、亜急性、慢性と様々で、致死率もこれに伴って0~100%と大きな幅があるが、現在世界的に流行するウイルスでは概ね急性で、致死率もほぼ100%である。アフリカに棲息するイボイノシシなどの野生動物は、生物学的には食用となる豚やイノシシとは近縁でなく、本病に罹患しても症状を示すことはない。
4. 病理学的変化
腎臓の出血や脾臓の腫大や出血、消化管、循環器系の出血病変が認められる場合がある。
5. 病原学的検査
赤血球吸着反応、蛍光抗体法、PCR法、リアルタイムPCR法、ウイルス分離、CSFワクチン接種豚への感染試験など。
6. 抗体検査
ELISA法、間接蛍光抗体法、イムノブロッティング法など。
7. 予防・治療
亜急性や慢性のASFに罹患した動物ではウイルスに対する抗体は産生されるもののウイルスを中和する能力がないため、従来型のワクチンは本病に対する有効性は示さない。過去に大流行したスペインやポルトガルでは大規模な殺処分等により本病を撲滅し、また現在世界的な流行にあっても、豚・イノシシを対象とした摘発淘汰の徹底や個体数の削減により、再度の清浄化に成功したチェコやベルギーなどの例がある。有効な治療法は存在しない。
8. 発生情報
9. 参考情報
- 獣医感染症カラーアトラス第2版(文永堂)、動物の感染症第4版(近代出版)、家畜伝染病ハンドブック(朝倉書店)
- ASF(アフリカ豚熱)について(外部リンク : 農林水産省)
- 「アフリカ豚熱に関する特定家畜伝染病防疫指針」(令和2年7月1日)(外部リンク : 農林水産省)
- ASF(アフリカ豚熱)関連情報
- 迅速かつ高精度なASF(アフリカ豚熱)遺伝子検査法の開発 : 令和元年度 農研機構普及成果情報
編集 : 動物衛生研究部門
(令和3年12月 更新)