野菜花き研究部門

フラボノイド

フラボノイドは、フラバン(図101:2つのベンゼン環(C6)が3つの炭素(C3)で繋がったC6-C3-C6構造)を基本骨格とする有機化合物の総称です。フラボノイドに分類される化合物は現在までに7,000種以上が報告されています。フラバン骨格への水酸基(-OH)の付き方や修飾の様式によって、さらに以下のように分類され、その構造によって淡黄色、橙色、赤色、青色、紫色と幅広い色を発色します。

図101 フラバン骨格

<フラボノイド化合物の種類>

  • カルコン・ジヒドロカルコン・オーロン
  • フラバノン
  • フラボン
  • ジヒドロフラボノール
  • フラボノール
  • フラバン
  • アントシアニン
  • イソフラボノイド
  • ネオフラボノイド

ここでは、花の色と関係の深いいくつかのフラボノイドについて、もう少し詳しく解説します。

アントシアニン

アントシアニンは赤~紫~青色を呈する色素で、糖鎖(グルコース、ガラクトース、ラムノースなど)が結びついた配糖体の形で液胞に含まれています。糖鎖の他に、コハク酸やマロン酸などの有機酸が結合していることもあります(アシル化アントシアニン)。糖や有機酸が付くことで、水に溶けやすく、安定になります。

図102 アントシアニジンの基本構造

アントシアニンに結合している糖や有機酸を除いた部分(アグリコン)を「アントシアニジン」と呼びます。アントシアニジンはA、B、C環の3つの環構造からなり(図102)、B環に付いている水酸基(-OH)やメトキシル基(-OCH3)の数により、6種類のアントシアニジン(ぺラルゴニジン、シアニジン、デルフィニジン、ペオニジン、ペチュニジン、マルビジン)に大別され(図103)、それぞれ異なる色調を発現します。水酸基の数が多いほど青味を増す傾向にあり、水酸基が一つのペラルゴニジンは橙赤色、2つのシアニジンは赤紫色、3つのデルフィニジンは青紫色を示します。B環の水酸基がメトキシル基に置き換わると赤みを帯びます。

図103 6種類の主要アントシアニジンの構造

アントシアニジンに結合している糖や有機酸の数や種類もアントシアニンの色調に大きく影響します。さらに、アントシアニンはその構造以外にも(1)液胞のpH、(2)金属錯体の形成、(3)フラボンなどの共存する色素(コピグメント)との分子会合、(4)アントシアニン同士の分子会合で色調が変化します。詳しくは花の色のしくみ、「青色」を参照してください。

カルコン、オーロン

カルコン(図104)オーロン(図105)は、フラボノイドの中では特に濃い黄色を発色する色素です。分布は限られており、一部の植物種にのみ存在します。カーネーション(図12)コスモス(図14)、デルフィニウム、ボタン、ヒュウガミズキ(図14e)の花の黄色はカルコンにより発色しています。オーロンはカルコンが酸化してできるため、多くの場合、オーロンが含まれている場合はカルコンも一緒に含まれています。キンギョソウ(図14b)ダリア(図13)、ヘリクリサムの花はオーロンとカルコンにより黄色を呈しています。

図104 カルコン
図105 カルコン
図12 黄花のカーネーション品種「ビクトリア」
図13 黄花のダリア品種「イエローハット」
図14 黄花のコスモス品種「イエローキャンパス」
図14b キンギョソウ
図14b ヒュウガミズキ

フラボン、フラボノール

フラボンやフラボノールは、ほとんどの植物の花や葉、根など植物体全体に含まれています。単独で存在する場合は白から淡黄色を示しますが、クロロフィルやカロテノイドなど他の色素が存在する場合はマスクされて色が見えません。アントシアニン同様液胞に存在し、アントシアニンと共存すると補助色素(コピグメント)として働き、色を濃くしたり(濃色効果)、青みを増したり(深色効果)、というように色調を強調する効果を示します。また、アントシアニンを安定化して退色を防ぐ効果もあります。花の中には、含まれるアントシアニンの組成が同じでも、共存するフラボノイド組成の違いによって、異なる色調を示す例がたくさんあります。詳しくは花の色のしくみ「青色」の項を参照してください。

図106 フラボノイドの生合成経路

<フラボノイドの生合成>図106

  • カルコンの生合成
    フラボノイドの生合成は、アミノ酸の1種のL-フェニルアラニンから出発します。trans-ケイ皮酸、4-クマル酸を経て4-クマロイル-CoAが合成されます。これに3分子のマロニル-CoAがカルコン合成酵素(CHS)の触媒により縮合して最初のフラボン構造であるテトラヒドロキシカルコン(カルコンの1種)が作られます。
  • カルコンからアントシアニン・フラボノールの生合成
    テトラヒドロキシカルコンは黄色ですが、カルコン異性化酵素(CHI)の働きで、一旦無色のフラバノン化合物のナリンゲニンに変換されます。ナリンゲニンにフラバノン3-水酸化酵素(F3H)の働きにより水酸基が付与され、ジヒドロフラボノールが合成されます。ジヒドロフラボノールはジヒドロフラボノール還元酵素(DFR)、アントシアニジン合成酵素(ANS)の働きによりアントシアニジン(ぺラルゴニジン、シアニジン、デルフィニジン)に変換されます。一方、ジヒドロフラボノールにフラボノール合成酵素(FNS)が働くとフラボノールが合成されます。
  • アントシアニジンからアントシアニンへ
    花に含まれるアントシアニジンは、多くの場合、その水酸基にメチル基や糖が結合した状態で存在します。さらに糖に有機酸が結合したアシル化アントシアニンの形で存在する場合もあります。アントシアニジンに糖や有機酸が結合したものはアントシアニンと呼ばれます。アントシアニジンは不安定ですが、糖や有機酸が結合することにより安定し、水に溶けやすくなります。また、糖や有機酸の種類や付き方は植物により様々で、アントシアニンの発色にも大きく影響を及ぼします(「花の色のしくみ」青色の項を参照)