西日本農業研究センター

所長室だより -所長就任にあたって-

執務室の所長 この4月1日付けで近畿中国四国農業研究センター(以下、近農研)の所長に任命されました長峰司(ながみねつかさ)です。
就任にあたりましてご挨拶を申し上げます。
【私の経歴】
私は、昭和51年4月に当時の中国農業試験場に研究員として採用され、小麦作跡の水稲直播栽培技術の開発などを約7年行いました。
その後、農業技術研究所(現農業生物資源研究所)で水稲の光合成能力と低温抵抗性の多様性や遺伝解析、さらにはジーンバンク事業の運営を行いました。
その間、平成3年4月から4年熱帯農業研究センター(現国際農林水産業研究センター)沖縄支所で水稲雑種集団の世代促進事業にも携わりました。
そして平成16年4月から近農研の作物開発部長、研究管理監として3年、その後作物研究所の企画管理室長を3年勤めました。
作物の中でも水稲が主で、多様性解析や遺伝育種、栽培が専門です。

 

【日常業務をするにあたって】

1.「ホウレンソウ」をしっかり行う

私は、日常業務を行うにあたって「ホウレンソウ」を徹底していきたいと思います。
ホウレンソウのホウは報告のホウ、レンは連絡のレン、ソウは相談のソウのことです。
近農研では、研究職員が128名、一般職員が50名、技術専門職員が69名に加えて、106名の契約職員が一緒に働いています。
近農研の使命は、農業や食料に関する創造的な試験研究や技術開発を行い、それを近畿中国四国地域の農業や食品産業などに普及・実用化させることです。
この職場で職員が担当する業務の内容はさまざまですが、目的とするところは同じです。
同じ職場でさまざまな業務をして一つの目的を達成する上でホウレンソウはとても効き目があるものです。
業務を円滑に進めるにあたりホウレンソウをしっかり行うことは給料の一部である、と私は考えています。
近農研で業務をしていく上で、研究職員、一般職員、技術専門職員、契約職員がホウレンソウを十分行って、お互いの意志疎通を図るということが最も大切だと考えます。

2.農研機構の職員としての自覚を持つ

2番目は、農研機構職員としての自覚を持って業務を推進していきたいと思います。
私たちは、近農研の職員であることはもちろんですが、その前に農研機構の職員です。すべての業務は農研機構という名の下に進められています。
独法化する前は農林水産省傘下の独立した試験研究機関でした。
平成13年度に独法化され、3回の組織統合を経て、ようやく平成18、19年度あたりから農研機構としての組織の細かな制度が整ってきました。
たとえば、コンプライアンス、裁量労働制、利益相反マネジメント、情報セキュリティ対策、実験ノートなどなどたくさんあります。
導入したこれらの諸制度については、導入された経緯や理由をよく理解し、それらの制度の持つ良い面を上手に使っていきたいと思います。
また、利益相反マネジメントや情報セキュリティ対策などについても遵守するように努めます。

3.業務災害をゼロにする

3番目は、職場における労働安全の徹底です。
業務をしている最中にけがをしたり、あるいは、通勤途中で交通事故に遭ってしまうことは、本人にとっても痛いことですし、職場にとっても業務に支障が出てしまいます。
注意一秒、けが一生のことわざもあります。
平成21年度に近農研で発生した業務災害の原因が、いずれも手に物を持ちながら移動中につまずいてけがをしてしまったということでした。
慣れた場所は安全の意識が薄れがちですが、慣れた場所こそ注意が必要です。
今年度は近農研における業務災害はゼロにするという気持ちで日常業務にあたります。
本所の風景

 

【近農研の研究課題における地域性について】

農研機構が地域農業研究センターをそれぞれの地域に置く理由は、地域として明らかな農業の特徴があり、地域固有の農業や食品産業の問題から発生する研究課題をそこで行うことが効果的であるためです。
言うまでもなく近農研が研究対象とする地域は、南に太平洋岸地域、中央に瀬戸内地域、北に日本海岸地域というまったく異なる地理的条件および気候条件を持っています。
そして、そこで行われる農業もそれらのさまざまな地形と気候を背景にして、傾斜地の果樹園芸、都市近郊の野菜園芸、稲作中心の水田農業などとても多様です。
地域農試として設立された当時から近農研は、これまで地理的な特徴である中山間あるいは傾斜地を「地域性」のキーワードにしてそこで行われる農業に関する試験研究を行い、優れた研究成果をあげてきました。
しかし、近農研が、地域農業に貢献できる地域農業研究センターとしてこれからも研究を継続していくためには、また別の地域性を打ち出すことも必要です。
そこで、近農研の地域性の背景を私なりに考えてみると、それは、日本の中でも特徴的な瀬戸内式気候ではないかと思います。
年間を通して温暖で、降雨量が年間 1,000mm 程度の、時には干ばつも発生するような気候です。
そしてそれを背景にする農業ではないかと思います。
21世紀は「水」の世紀と言われています。
今世紀半ばには、人口の増加、水質の悪化、そして地球温暖化の進行により、深刻な水不足が起こることが予想されています。
水は農業にとって欠かせないものですが、農業ばかりでなく、これからはいろいろな産業でも水がとても重要なキーワードになることが各方面から指摘されています。
この近農研が立地する瀬戸内は、その気候の特徴から、今後世界的にも重要となると思われる水、あるいは水の不足を背景にした農業研究を行うには、またとない立地条件を備えているのではないでしょうか。
たとえば、水稲の節水栽培、大豆の干ばつ抵抗性や青立ち防止、果樹の点滴栽培、閉鎖水系における水質保全などなど、水を切り口に、水をキーワードにして、地域性を背景にした研究課題が立てられるのではないかと考えています。
もちろん、すでに着手されている研究もあります。
水という一つのキーワードだけで近農研の研究が急に進展したり、近畿中国四国地域の農業が一度に飛躍できるわけではありません。
次年度からの第3期中期計画を策定する中でさらに検討を加えたいと思います。

 

【運営の心構え】

私は、経歴で紹介しましたように、今回が近農研で3回目の勤務になります。
これも何かの縁だと思います。
近農研は私にとりまして、研究生活を始めたふるさととも言うべき研究センターですので、この職場を大切にしていきたいと考えています。
今後、近農研の運営にあたりましては、所長一同全職員一枚岩になって臨みたいと思います。

平成22年4月
独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構
近畿中国四国農業研究センター所長
長峰司