西日本農業研究センター

所長室だより -第3期中期目標期間はMVPで研究開発に取り組む-

所長と夏の圃場このたびの東日本大震災および原発事故で被災された方々に心からお見舞いを申しあげるとともに、被災地の一日も早い復興を願っています。
この大震災や原発事故を通して、私たちは、国土の保全や食料を安定して生産できる農業、農村の大切さを改めて思い知らされました。
この未曾有の国家的な危機の克服にあたり、研究開発の面から少しでもお役に立ちたいと考えています。

さて、農研機構はこの4月から5カ年間の第3期中期目標期間に入りました。
第3期においては、わが国の農業および食品産業に関するさまざまな問題を解決するために、農研機構内の研究所が横断的に連携して取り組むプロジェクト型の研究体制を確立しました。
それぞれのプロジェクト型研究に必要な研究職員と予算を効果的に配置するというものです。近畿中国四国農業研究センター(以下、近農研)は、このようなプロジェクト型研究をスムーズに行うため、福山本所に営農・環境と水田作の2つの研究領域、四国研究センターに作物機能開発と傾斜地園芸の2つの研究領域、綾部研究拠点に環境保全型野菜研究領域、大田研究拠点に畜産草地・鳥獣害研究領域を置くこととしました。
さらに、研究領域における研究開発の推進、若手研究員の養成、施設や機械の管理、外部との窓口対応などを効率的に進めるため、それぞれの研究領域に複数の研究グループを置いて、できるだけ専門性の近い研究者を同じグループに配置することとしました。

地域農業研究センターにおける研究で大切なことは、センターが所在する地域の農業の特徴に基づいた「地域性」を有し、しかも研究の「専門性」が高いことです。
近農研は、これまでも傾斜地や中山間地という立地条件を背景とした「地域性」があり、「専門性」の高い研究開発を行ってきました。
第3期中期目標期間中も「地域性」の見える研究と「専門性」の高い研究が大切であるという考え方を持ち続けます。すなわち、第3期期間中、近農研は、
(1)中小規模の水田における水稲、麦類、大豆の輪作による安定多収栽培技術、
(2)飼料用稲や放牧などを利用する黒毛和牛の高品質な牛肉生産技術、
(3)自然のエネルギーを利用した日光温室など低コストの施設園芸技術、
(4)カンキツ樹の水分や栄養状態に基づき肥培管理して高品質果実を安定生産する技術、
(5)農地への窒素などの肥料投入が瀬戸内海や当地域に多いため池の水質に及ぼす影響を解析するモデルと環境負荷の評価法、
(6)土着の天敵昆虫の利用や有機物の土壌すき込みなど農薬を使わない環境保全型野菜栽培技術の開発
に関する6つのプロジェクト型研究について戦略的に重点化して取り組みます。
これらの6つのプロジェクトは、近農研で実施するのにふさわしく、近畿中国四国地域の農業や食品産業の問題の解決に大きな貢献が期待でき、「地域性」が高いものです。

このほか、米粉用など加工業務用の多収水稲品種や家畜の消化率の高い多収の飼料用稲品種の育成、高品質のパン用やめん用小麦品種の育成、炊飯麦用や味噌用の高品質安定多収の大麦品種の育成、機械化栽培に適した豆腐用の大豆品種の育成、食品機能性成分の研究、地球温暖化に伴って発生する水稲の高温障害対策、イノシシやサルなど獣害対策などのプロジェクト型研究についても他の研究所と連携して取り組みます。
これらもわが国の食料自給力の向上や農産物・食品の機能性解明などに大きく貢献できる研究です。

農業や食品産業のさまざまな問題を解決するために今回農研機構が策定しました第3期の中期計画は、研究職員はじめ私たち職員にとってミッション(使命)にあたります。
私は、このミッションに対して全職員が自らしっかりとしたビジョン(展望)を組み立て、そしてそのビジョンの実現に向けてパッション(情熱)を持つことが大切だと考えています。
ミッション、ビジョン、パッションそれぞれの英語の頭文字であるM、V、Pで第3期の中期目標の達成に向けて決意を新たにして研究開発に取り組みたいと思います。

平成23年7月
独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構
近畿中国四国農業研究センター所長
長峰司