西日本農業研究センター

所長室だより -年頭挨拶(2012年1月4日)-

年頭にあたりご挨拶を申し上げます。昨年の年頭挨拶で、私は仕事に対するチャレンジという話をしましたが、1年の始まりに何か新たに目標を決めてチャレンジするということはとても大切なことです。ぜひ今年も新たな目標にチャレンジしたいものです。

話題は3つです。一つ目は新しい研究態勢について、二つ目は地域発の研究の重要性と近農研の外に出て研究をしようについて、三つ目は業務災害ゼロについてです。

1)新しい研究態勢について

農研機構は、昨年の四月から第3期の中期計画期間に入りました。研究所を横断的に大課題・中課題を構成する新しい研究態勢を始めました。9ヶ月を経過して新しい研究態勢の良くなった点、あるいは不都合な点がだんだんと見えてきました。

良くなった点は、プログラム・プロジェクト制により大課題責任者である所長あるいは研究領域長が中課題の設計や成績の検討会に直接加わることによって、その専門の立場から研究の設計や成果の検討で今まで以上に議論ができるようになりました。私も研究領域の成績設計検討会に出席しましたが、所内の職員だけで検討するよりも深い議論ができていました。

また、今年度から一つの小課題を複数の研究者で担当するように改めたことにより、一人一人の研究者が第2期よりも少し余裕が出てきたのではないかと思います。さらには、研究領域制のもと、第2期よりも複数の研究に参画できる可能性が高まったと思います。

その反対に、不都合な点は、農研機構における成果の発表で近農研の顔が見えにくくなる場合が出てきたということです。すなわち、近農研の研究職員が実施した成果であっても、農研機構の外にアピールするときは、大課題・中課題を束ねる他の研究所で整理されてしまい、実施者である近農研の顔が見えにくくなるということです。この点はプログラム・プロジェクト制の欠点だと思います。

与えられた中期目標をこの5年間で着実に達成することは言うまでもありません。それに加えて大切なことは、次期の第4期中期計画に向けて、今から着実にシーズ研究に取り組むことです。近農研でなければできない地域性に富む新しい研究テーマに積極的に取り組むことが重要です。

2)地域発の研究の重要性と近農研の外に出て研究をしようについて

昨年、近農研は、複数の研究成果でいろいろな賞をいただきました。

一つは、鳥獣害研究グループが鳥獣害対策の理解増進により文部科学大臣科学技術賞を受賞しました。

二つ目は、水稲育種研究グループが稲発酵粗飼料専用の水稲新品種「たちすずか」の育成によりフード・アクション・ニッポン・アワード・2011において研究開発・新技術部門の優秀賞を受賞しました。

さらには、内部的ですが、鉄コーティング種子を用いた水稲の湛水直播技術の開発により、そして、超強力小麦「ゆめちから」の育成および用途開発により、NARO Research Prize Special Iを受賞しました。

近農研で実施した研究や技術が、特に他の分野の方々から認められて授賞されることは、その研究を直接担当した研究者はもとより、その研究を後ろから支援している一般職員、技専職員、そして契約職員を含めて大変嬉しいことです。今後の業務の励みにもなるものです。

これらの研究の多くは、近畿中国四国地域の農業問題にそのきっかけがあったものですが、成果の内容が全国的にも優れたものと認められ、めでたく授賞するに至りました。私は、地域発の研究および技術開発こそが全国的に優れた研究成果に繋がると信じます。

研究問題に対する視点を地元の近畿中国四国地域に向けなければいけません。もっと府県の試験研究機関、生産者、農政局と連携して、研究および技術開発を行う必要があります。農業の現場には多くの問題が残され、そして新たに起きていますが、府県の試験研究機関だけでは不十分です。そこで、近農研が得意とする研究分野で府県の試験研究機関と上手に連携して技術開発を推し進めることが重要です。研究所の中に閉じこもっていては、現場で普及・実用化できるような研究や技術開発はできません。近農研の外に出て、さまざまな業種の方々と連携して、タッグを組んで研究開発を行いたいものです。

これまでに近農研で開発した、トマトの安定生産技術、中晩生カンキツのマルドリ技術、飼料稲「たちすずか」の生産・飼料加工技術の3つの技術については、今年度から複数の府県と現地実証試験に取り組んでいます。私は、これらの3つの技術以外にも近農研をはじめとして農研機構で開発した研究や技術を府県と連携して普及・実用化させることがとても重要です。

最近、近農研の研究成果が近畿中国四国地域以外で現地試験が行われ、その実用性が検討されています。たとえば、鳥獣害対策技術は西日本の多くの県で、カンキツのマルドリ技術は東海や九州で、水稲種子の鉄コーティング技術は東北や北海道で、それぞれ普及・実用化に向けた取り組みが行われています。

私は、近畿中国四国地域発、近農研発の研究成果が、地域を超えて全国に普及・実用化されることを期待します。そうすることが、近農研の存在意義、そして存在感を全国に知らしめると思います。

3)業務災害ゼロについて

農研機構は、昨年の12月15日から今月15日まで「平成23年度年末年始無災害運動」を展開中です。この期間、「声出して ゆるむ気持ちのネジしめて 年末年始も無災害」という標語のもとに実施しています。

年末年始は何かとあわただしく、研究成績のとりまとめでとても忙しい時期ですが、気を引き締めて業務にあたっていただきたい。

昨年、研究所で3件の業務災害が発生しました。わずか3件の業務災害と侮ってはいけません。研究所は、とくに今回の契約職員の事故を反省して、採用時に安全のための教育訓練を実施し、そして職場環境の再点検を実施することとしました。今年こそ、業務災害ゼロで業務に取り組みたいと思います。

業務災害ゼロ運動は、所長などの幹部や労働災害の担当者だけに任せておけばよいというものではありません。同じ職場に働く、研究職員、一般職員、技専職員そして契約職員の全員が、それぞれの持ち場で労働災害防止の活動に参加して、問題を解決するいきいきとした職場づくりをめざすことが重要です。

他人まかせでなく、自らが行動することが一番大切です。業務を行う際に、意識して業務の中や職場環境に潜んでいるリスクの洗い出しとその改善に取り組みたいものです。研究職員の見方、一般職員の見方、技専職員の見方、契約職員の見方はそれぞれ違います。それぞれ違った見方で業務や職場環境におけるリスクの洗い出しとその改善に取り組んでください。私も業務災害のリスクができるだけ少なくなるよう、十分目配りをします。

平成24年1月
独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構
近畿中国四国農業研究センター所長
長峰司