西日本農業研究センター

所長室だより -変身する大麦-

稲穂と本館

大麦が変身しようとしている。

大麦と言えばすぐに思い出すのは麦ごはんだ。小学生の頃わが家では毎日麦ごはんを食べていた。当時のは褐色の筋が目立ち、パサパサして美味いものではなかった。昼に釜に残った麦ごはんを食べる時には、ご飯全体の色がさらに悪くなっていて食べたいとは思わなかったものである。

子供の頃のそんな印象のある大麦だが、最近、炊いた後麦ごはんの色が変色しにくい新品種が近畿中国四国研究センターで開発された。炊いて一晩おいても白いままだ。品種名を「キラリモチ」という。「もち性」なので炊くと粘りがある。麦ごはんは見栄えが悪くてパサパサという印象を持っているご年輩は驚くかもしれない。加えて、麦ごはんを食べたことのない若い世代、特に女性にとっては、この「キラリモチ」の麦ごはんは食べて美味しいし、大麦にはβ-グルカンというさまざまな健康機能性が知られている食物繊維が多く含まれているので、健康食品としても気に入ってもらえるかもしれない。

今年度、近農研は「キラリモチ」を連携普及重点項目の一つに位置づけ、一丸となって宣伝をしている。「キラリモチ」以外に、「白妙二条」や「はるしらね」という炊いた後麦ごはんの色が変色しにくい「うるち性」の大麦品種も農研機構で開発されている。変身した大麦をもっとPRして麦飯の消費拡大につなげたい。

もう一つの大麦の変身は粉で利用することだ。

粉で利用する小麦にはたくさんの種類の食品が開発されている。しかし、大麦は日本ではビールや焼酎原料など粒のまま利用することが多く、食品の種類が少ない。一般に食材を粉に加工すると他の食品素材と混ぜて使えるから、いろいろな食品が開発しやすい。大麦はこれまでもっぱら粒で使っていたため、他の食品素材とのコラボが進まなかった。(大麦を炒ってから粉にひいた「はったい粉」という加工食品は昔からあったが、小麦粉のように使うことはなかった。)

最近、農研機構は、大麦の需要を拡大する新たな試みとして粉に加工して、シフォンケーキやパンなどを焼いて加工適性を調べてみた。その結果、大麦粉100%のシフォンケーキはとてもソフトな食感になり、小麦のグルテンを混ぜた焼いた大麦パンは外側がフランスパンを思わせるパリッとした食感になった。まさに大麦の変身だ。大麦を粉で利用することにより新たな食品加工の道が一挙に開かれた。食品加工の分野とさらに連携すれば、新たな大麦食品が生まれるに違いない。

近畿中国四国農業研究センターは、高β-グルカン大麦利用研究会を組織して、さまざまな分野の方々と協力しながら大麦の需要拡大、そして生産拡大を図ろうと活動している。わが国ではこのところ大麦の生産が需要に追い付かない状況が続いている。11月になると西日本では小麦や大麦の種まきが始まる。もっともっと大麦を変身させて、生産の拡大を図りたい。

平成24年10月
独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構
近畿中国四国農業研究センター所長
長峰司

※先日、フード・アクション・ニッポンアワード2012の研究開発・新技術部門において、「高β-グルカン大麦品種の育成と大麦粉利用促進の取り組み」で、当研究センターと作物研究所が共同で入賞しました。また、12月17日から21日まで、農林水産省の「消費者の部屋」において、「大麦パワーで、もっとおいしく、もっと健康に!」をテーマにして、β-グルカンを豊富に含む品種、炊飯後の変色が押さえられる品種の品種や、大麦粉を利用した高付加価値食品について、パネルによる説明や現物展示を行いました。

(2012年10月30日公開・2012年12月25日内容修正)

 

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