西日本農業研究センター

所長室だより -年頭挨拶-

あけましておめでとうございます。平成25年の年頭にあたりご挨拶を申しあげます。

1.地域農業、そして地域に貢献する

所長顔写真

農研機構の地域農業研究センターの使命は、言うまでもなく府県の農業や食品産業を発展させるため、研究成果を普及、実用化して、地域の農業、そして地域に貢献することです。

グローバル化はわが国の農業や食品産業にも大きな波となって打ち寄せ、農家の高齢化は進み、地域における農業をめぐる状況はとても厳しいものになっています。農業の課題は多様化しており、昨今、研究関係予算や人員が減少している府県の試験研究機関だけでは、十分な対応が難しくなっています。

農研機構も交付金や人員では府県と似たような状況にありますが、地域農業研究センターは、府県の試験研究機関としっかりと連携を取りながら、現場の農業問題の解決につながる研究成果を普及、実用化することがもっとも重要な任務だと思います。

そして、地域農業研究センターは農研機構の最前線に立って、機構の研究成果を府県に普及・実用化させる重要な役割を担わないといけないと思います。

地域農業、そして地域に貢献するという大きな使命感を持って、研究を研究に終わらせることなく、論文、特許許諾、品種許諾にまで持っていき、普及、実用化しうる技術にまで仕上げることが大切です。

私は、地域のかたがたに近農研の研究や役割をもっと知っていただきたいと思い、昨年から地場産フェアなどのいろいろなイベントに積極的に出展したり、福山市ではサイエンス・カフェをあらたに開催するなどの情報発信をしています。今年も研究センターをあげてこのようなアウトリーチ活動を引き続き行いたいと考えています。

2.地域性が見えて国際水準の研究を

農研機構では第3期中期計画期間に入り、大課題ごとに課題の内容および研究成果について外国人研究者によるピュア・レビューが行われるようになりました。国の研究関係独法で行われる研究の内容を高度化して、国際水準にまで研究のレベルを高めることが求められています。

近農研でこの数年間に行われました、飛ばないナミテントウの開発、日射制御型自動潅水装置の開発、籾の割合が少なく糖含量の高い飼料稲「たちすずか」の育成などの研究成果は、まさに世界水準の研究成果であると私は自負しています。

飛ばないナミテントウの開発手法は、これから環境保全型農業を推進するうえで、重要なツールの一つになるでしょう。日射制御型自動潅水装置は、水の足りない地域において高品質で低コストな野菜や果樹を生産する大切なツールになるでしょう。籾の割合が少なく糖含量が高い飼料稲品種は、日本と同じアジアモンスーン地帯にある韓国や中国などの水田地帯における粗飼料生産においてこれから重要な役割を果たすようになることでしょう。

これらの研究成果は、近畿中国四国地域の農業の立地条件や背景をしっかりと踏まえてから仕事をしています。その成果そのもの、そしてその考え方はこの地域ばかりでなく、日本の農業にも大きなインパクトを与えることでしょう。

私は、近中四農研ニュース37号(2010年7月)で、地域性が見え、専門性が高い研究が重要だということを書きました。地域性の見える研究で専門性の高い研究というのは矛盾するように思えますが、紹介しました3つの研究成果をよくよく考えてみますと、地域性が見える優れた研究は、国際的にも高く評価されるものだと確信します。

地域性に基づいて、しかも国際水準の研究を目指して研究と技術開発を展開したいと思います。そして大切なことは、近農研の福山本所、善通寺の四国研究センター、綾部研究拠点、大田研究拠点でなければできない地域性に富む研究テーマに積極的に取り組むことだと思います。他の研究所でできる研究ではなく、近農研だからこそできたといわれる研究が重要です。

これまで地域農業研究センターは、農業分野全体にわたる研究単位を組織に抱えて運営を行ってきました。たとえてみればデパートのようなものです。しかし、最近のように、研究職員の数が少なくなり、技術開発の中核となっていた研究室という単位がなくなり、しかもプロジェクト型の研究課題の運営をしていきますと、扱う研究分野は広いけれども、研究の深みのない研究センターになる恐れがでてくるのではないかと思います。たとえてみれば品揃えの悪いデパートのようなものです。

地域農業研究センターの今後の発展を考えますと、私は、近農研を品揃えの悪いデパートから、複数の分野で優れた研究を行う組織に変えていくことが必要ではないかと考えています。たとえてみれば専門店のようなものです。

私は、一昨年、第3期中期計画期間を開始するにあたり、一部の研究分野でそのような考えのもとで態勢の整備を図りました。今年も他の地域農業研究センターや専門研究所との連携を図りつつ、府県の試験研究機関とよく相談しながら、専門店化へ向けて近農研の運営にあたっていきたいと思います。

平成25年1月
独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構
近畿中国四国農業研究センター所長
長峰司