西日本農業研究センター

所長室だより -年頭のご挨拶-

 

新年明けましておめでとうございます。平成27年の年頭にあたり、ご挨拶を申し上げます。

今年は、強い冬型の気圧配置の影響により、近中四農研センター本所が所在する広島県福山市も元旦から雪が舞い、当研究センター北側に聳える蔵王山(標高226m)からは雪景色の初日の出が見られました。

蔵王山からの初日の出

 

蔵王山からの初日の出

 (写真の手前中央が当研究センターの

研究施設及び隣接する試験圃場)

 

 

 

 

さて、私は所長に就任して以降、以下の5つの目標を掲げて、公的研究機関としての役割発揮に努めてまいりました。

  • 農業技術開発を通じて地域経済の発展に貢献します
  • 存在感があり、頼りにされる近中四農研センターを目指します
  • 直面する農業現場の問題解決に正面から取り組みます
  • 東日本大震災からの農業復興に貢献します
  • 公的研究機関としての適切な組織運営に努めます

 当研究センターの職員はこれらの目標を全員で共有しながら、昨年一年間、技術の現地実証研究の実施、研究予算の確保、関係研究機関や行政機関との連携に邁進してきました。まだまだ力不足の点もあろうかとは思いますが、今年もこれらの目標に向かって着実に前進する所存です。皆様方のご支援とご協力を引き続きよろしくお願い致します。

 特に、今年は次のような点に留意しながら所の運営に取り組んでまいります。

 □ 農業技術開発を通じて現場の問題解決と農業政策の円滑な実施に貢献します

 現在、農林水産省においては「攻めの農林水産業」の実行と農政の中長期ビジョンである「食料・農業・農村基本計画」の見直し作業が進められているところです。当研究センターでは、生産現場に近いという地の利を活かして、近畿中国四国地域を主なフィールドとして地域農業が抱える現場の問題解決と農業政策の円滑な実施に向けて、農業技術開発の面から積極的に貢献していきます。

中でも、平成25年度補正予算に基づく「革新的技術緊急展開事業」については、「中山間地等の集落営農法人における水田作」及び「省力的な高品質カンキツ安定生産技術体系」の2つの課題に関して、現場への普及が見込まれる革新的な技術体系の現地実証研究に積極的に取り組んでいるところです。今年も関係する府県及び市町村、民間企業、生産者団体等の皆さんにはお世話になります。

作物の品種に関しては、最近、稲・麦・大豆とも新しい品種を次々とリリースしています。一昨年は製パン性に優れ多収の小麦品種「せときらら」の山口県への普及に続き、昨年は高温耐性水稲品種「恋の予感」がそのネーミングの話題性もあって、注目が集まっています。「恋の予感」は、先月から広島県産の新米がJAで販売開始となったところです。昨年産の作付面積はまだ少なかったのですが、本年産以降は広島県内において計画的に作付面積が拡大される予定となっています。是非、ご期待下さい。

 「恋の予感」の米袋

 

「恋の予感」の米袋(5kg)

(一般公募により品種名とパッケージ

のデザインが決まりました)

 

 

 

 

 

 

 

また、「飛ばないナミテントウ」も、昨年は商品化を契機に大ブレークとなりました。もともとナミテントウは、天敵として施設野菜にとって重要な害虫であるアブラムシを大量に捕食する能力を持っており、この中から飛ばない系統を天敵製剤として商品化しました。お陰様で、農研機構のNARO RESEARCH PRIZEの受賞、農林水産省の若手研究者表彰、そして、先月には農林水産省の農林水産研究成果10大トピックスの1位に選んでいただきました。今後は、飛ばないナミテントウを露地で実用化することによって、広域での環境負荷の低減が期待できます。

□ リスクに強い中山間地域を造る研究に取り組みます

技術開発の視点としては、もちろん低コスト化や収益性の向上を目指すことが競争力の向上を図る上で大変重要です。一方で、特に中山間地域においては、「農業経営を取り巻く気象変動などの様々なリスクをいかにして低減させるか」も欠くことのできない重要な視点です。

 平成25年は相次ぐゲリラ豪雨の襲来や気温35°Cを超える猛暑日の連続など、気象災害に悩まされた年でした。翌26年の夏は台風の上陸に加えて、8月に入ってからは例年にない日照不足が続き、農業生産にも大きな影響を及ぼしたところです。

地球温暖化の進行に伴って、気象変動の振れ幅が大きくなり、ゲリラ豪雨、台風の大型化、豪雪など極端な気象現象が地域の農業生産や社会生活に悪影響を及ぼしつつあります。豪雨・土砂崩れによる農地・農業用施設の被害、一方では水不足や高温に伴う農作物被害が発生しています。さらには、過疎化と高齢化の進行により地域資源を適切に管理する機能が著しく低下していることが被害を拡大させる要因にもなっています。

自然的・社会的条件の変化によって農地や森林などの荒廃が進めば、結果として、河川の下流域に位置する都市部に洪水被害をもたらすリスクは高くなります。このため、当研究センターでは、災害などのリスクに強い安定生産技術や作物品種の開発に積極的に取り組んでいるところです。

ICTの活用も含めて地域資源の管理機能を低下させないような技術の開発も当研究センターの重要な研究課題としてあげられます。例えば、中山間地域の水田は法面の多い棚田を形成している場合が多いため、除草ロボットの開発など省力的な除草技術やシバ造成技術などの畦畔管理技術の開発に取り組んでいます。

 開発中の除草ロボット

開発中の除草ロボット

(中山間地域の畦畔法面における

草刈り作業の省力化・軽労化が期待)

 

 

 

 

また、担い手が不足している地域の水田や立地条件の悪い水田は耕作放棄されがちです。このため、農地の管理と黒毛和牛(経産牛)の付加価値向上を目的とした耕作放棄水田への肉用牛の放牧研究、イノシシなどの獣害被害から地域を守るため住民主体による獣害に強い地域作りを目指した取組方法の提案などを行っています。

 □ 地域農業研究のハブ機能の役割を発揮します

 当研究センターの役割としては、これまでご紹介した研究活動に加えて、地域農業研究をコーディネートする「ハブ機能」があげられます。言い換えれば、近畿中国四国地域15府県を中心とした地域農業研究のいわば「結節的」の役割を担うことです。公設試験研究機関、さらには、民間、大学、生産者団体などを幅広く巻き込んだ様々な連携に対応することが、研究活動と並んで重要な我々の責務です。

 特に府県の試験研究機関、大学を取り巻く環境は大変厳しいものがあります。このため、今後は、「各研究機関がそれぞれ得意とする研究分野や研究資源を持ち寄って、コンソーシアムを組みながら相互に連携して研究活動を行う研究方式」が技術革新を生み出す上で極めて効果的と言えます。いわゆるオープンイノベーションです。こういった研究連携を一層、押し進めるために、当研究センターはそのハブ機能の役割を発揮します。

 平成27年も、引き続きインパクトのある研究成果を社会に発信できるように、我々職員一同は全力で取り組んでまいります。

 それでは、今年も実り多い良き一年でありますように祈念して、私の年頭のご挨拶とさせていただきます。

                                                     平成27年1月

                                  近畿中国四国農業研究センター所長

                                                        尾関 秀樹

 <ちょっと一息>

イノシシこの写真は、福山市の蔵王山で見られるイノシシの足跡(左)とイノシシが泥浴びをするヌタ場(右)です。蔵王山では多くのヌタ場が観察されますが、これは何と幸運をもたらすハートでした。