西日本農業研究センター

所長室だより -所長就任にあたって-

所長だより-所長就任にあたって-所長写真

本年4月1日付けで、前任の尾関所長から近畿中国四国農業研究センター(近中四農研)所長を引き継ぐことになりました竹中重仁(たけなか しげひと)です。皆さま方には日頃から近中四農研に対するご理解やご支援をいただき厚く御礼申し上げます。所長就任にあたりまして、私の経歴並びに近中四農研を取りまく情勢や今後の取組等につきまして紹介致します。

私は、1982年4月に農林水産省に採用され、当時の北陸農業試験場(現中央農業総合研究センター北陸研究センター)の病害研究室に配属となり、主に雪の下で発生する麦類雪腐病という低温性の病害の研究を12年ほど実施してきました。その後、農林水産技術会議事務局(技会事務局)で研究目標・評価の業務を2年半担当した後、1999年4月に北海道農業研究センターに移り、主に微生物を用いた畑作物病害の生物防除の研究に10年間ほど携わりました。その後、農研機構本部と技会事務局で研究目標・評価・体制の業務を担当し、昨年4月に企画管理部長として近中四農研に参りました。

近中四農研は、近畿中国四国地域の特徴である中山間および都市近郊における水田作、野菜作、果樹作、畜産等の多様な農業生産・経営に係る課題解決と地域の活性化のための研究業務を推進しています。

まず、近中四農研を取り巻く最近の情勢について見てみますと、本年3月31日に、今後10年程度先の農政の方向性を示す新たな「食料・農業・農村基本計画」が閣議決定されました。今回の基本計画では、農業の構造改革や新たな需要の取り込み等を通じて農業や食品産業の成長産業化を促進するための産業政策と、構造改革を後押ししつつ農業・農村の有する多面的機能の維持・発揮を促進するための地域政策を車の両輪として、食料・農業・農村施策の改革を着実に推進することとしています。これを受けて、今後10年程度を見据えた農林水産研究の方向性を示す新たな「農林水産研究基本計画」が、本年3月31日に農林水産技術会議決定されました。この新しい研究基本計画では、生産現場が直面する課題を5年程度で解決するための研究開発を最優先課題に位置づけるとともに、生産現場に密着した技術の開発や普及の加速化を図るため、近中四農研を初めとした全国の5つの地域農業研究センターの機能強化や、普及組織・担い手と協働した地域農業研究を強力に推進することとなっています。

そこで、近中四農研としては、営農モデルの現地実証を進め研究成果を現場に普及するための「総合的研究」として、現在進めている農水省の「攻めの農林水産業の実現に向けた革新的技術緊急展開事業」および「農林水産業の革新的技術緊急展開事業」を着実に実施する必要があります。特に、近中四農研が代表機関として実施している1「中山間地等条件不利地の集落営農法人における軽労・効率的作業管理技術を核とする水田作の実証」、2「マルドリ方式・ICTなどを活用した省力的な高品質カンキツ生産技術体系とその実現のための園地整備技術の実証」および3「国産飼料の高度活用による資源循環型、牛肉生産システムの実証研究」の3つの研究課題については、いずれも今年度が最終年ですので、研究者と研究支援部門の職員が一丸となって、公設試験研究機関、民間企業、大学等の関係機関とも密に連携して、普及につながる成果を確実に出せるよう取り組んでいく所存です。

尾関前所長撮影 美咲町大垪和西の棚田また、我々は、短期的なスパンで研究成果が求められる「総合的研究」の他に、中長期的な視点で取り組むべき「基盤的研究」も、将来の目指すべき基本的な方向をしっかりと定め、着実に推進していなかければなりません。特に、近中四農研は、農業従事者の減少や高齢化等により疲弊している中山間地域を対象とした「中山間対応研究」を重点的に推進しようと考えています。本研究は非常にハードルが高いものと考えますが、我々の英知を結集して、外部にアピールできるような「中山間対応研究」を進めていきたいと考えます。

前述の新たな「農林水産研究基本計画」の中には、農林水産研究の重点目標に係る今までに得られた代表的な成果として、近中四農研の成果が6つ掲載されています。具体的には、1「高温登熟性に優れ、良食味で多収の水稲品種『恋の予感』」、2「傾斜40度の畦畔法面でも自走で草刈りが可能な『除草ロボット』」、3「圃場ごとのきめ細やかな作業管理を可能とする『作業計画管理支援システム』」、4「温室内のアブラムシを防除するための『飛ばないナミテントウ』」、5「稲発酵粗飼料用水稲の新品種『たちあやか』」、6「周年での屋外飼育が可能な『小規模移動放牧マニュアル』」です。いくら良い成果を出しても、広報・普及活動を組織的・戦略的に実施しなければ成果の普及にはつながりませんので、研究者と広報普及部門との綿密な連携により、これら成果も含めて近中四農研の成果の普及促進を図っていきます。

 地域農業研究センターには技術面におけるハブ機能を発揮することも期待されていることから、基礎研究主体の大学、商品化研究主体の民間企業、農業現場への適応研究主体の公設試験研究機関等と分担・連携した上で、実用化や普及を目指した共同研究に積極的に取り組んでいきたいと思います。そのためには、日頃から府県、民間企業、大学等と太いパイプを築き、外部研究資金の獲得にも積極的にチャレンジしていきます。

最後に、我々は主に国の予算を財源として運営している公的な研究機関であるため、コンプライアンスの確立した組織運営は重要と認識しています。職場内のコミュニケーションの徹底等により、リスクの未然防止や軽微なうちに迅速・的確に改善すること等により、不正の起きにくい職場環境を構築する「守りのコンプライアンス」と、研究成果の積極的な創出等による社会貢献の「攻めのコンプライアンス」の両方を推進していきます。

以上、近中四農研の役割をしっかりと果たすために、職員一丸となって取り組んで参りますので、皆様には引き続き近中四農研に対しますご理解とご支援を賜りますようお願い申し上げます。

平成27年4月

国立研究開発法人 農業食品産業技術総合研究機構

近畿中国四国農業研究センター所長

竹中重仁