西日本農業研究センター

所長室だより -年頭のご挨拶-

28年1月所長年頭挨拶新年あけましておめでとうございます。平成28年の年頭にあたりまして、ご挨拶申し上げます。旧年中は、農研機構近畿中国四国農業研究センター(近中四農研)の業務にご支援いただきまして、心より感謝申し上げます。

昨年の3月に農林水産省より、今後10年程度を見据えた農林水産研究の方向性を示す新たな「農林水産研究基本計画」が策定されました。その中には、「生産現場等が直面する課題を速やかに解決するための研究開発」を最優先課題に位置づけ、近中四農研をはじめとした地域に所在する地域農業研究センターの機能を強化し、普及組織・担い手等と協働した研究の推進等に取り組む、という基本的な考え方が示されています。

そこで、近中四農研は公立試験研究機関、生産者、普及組織、民間等と連携して、攻めの農林水産業の実現に向け、個別技術を体系化してそれを生産現場で実証する農林水産省の「革新的技術緊急展開事業」に、全力で取り組んでいます。特に、われわれが代表機関となっている「中山間地域の不利条件を克服するための稲・麦・大豆の水田作技術と6次産業化推進技術の実証」、「省力的で高品質なカンキツ生産技術体系の実証」および「自給飼料と放牧を活用した肉用牛肥育体系の実証」の3つの事業については、今年度が事業の最終年度となることから、今までに得られた研究成果を取りまとめて、皆さんにわかりやすくお示ししたいと考えております。

また、昨年のTPPの大筋合意を受け、政府が11月に決定した「総合的なTPP関連政策大綱」には、産地の国際競争力強化による攻めの農林水産業への転換が強く求められています。そこで、われわれは近畿中国四国管内の農業の競争力強化を実現するため、本年も水田作、カンキツ、園芸および肉用牛生産の各分野で、新たな技術体系の実証研究を進めていきたいと考えております。

昨年の4月から、農研機構は研究成果の最大化を目的とする「国立研究開発法人」となりました。技術体系の実証研究により研究成果の最大化を目指すためには、まず現場で使える優れた個別技術を開発・蓄積していかなければなりません。近中四農研が昨年開発したいくつかの個別技術を以下に紹介いたします。

一つ目は、「二重ネット工法を用いた畦畔法面におけるシバの植栽技術」です。中山間地域は圃場の畦畔率が高く、また高齢化が進んでいるため、省力的な畦畔管理技術に対する要望が非常に高くなっています。そこで、その解決策の一つとして、急傾斜の畦畔を、管理しやすい低草高の芝生に簡単に転換する技術を開発しました。

二つ目は、「農業支援情報の基盤となる50mメッシュ気温データの作成手法」です。複雑な地形に農地が散在する中山間地域で精密栽培管理を実現するためには、圃場単位の正確な気温データが必要となります。そこで、半年程度の気温観測値からアメダスポイントとの地点間温位差推定モデルを作成することにより、その後観測しなくても、農業支援情報の基盤となる50m解像度の日平均・日最高・日最低気温データを作成できるようにしました。

三つ目は、「殺線虫剤削減にむけた砂質土壌におけるサツマイモネコブセンチュウ被害予測」です。農業現場では線虫による被害を予測する方法がないため、不必要な土壌消毒が行われています。そこで、砂質のサツマイモ圃場の土の中に、サツマイモネコブセンチュウがどの程度いれば、どの程度の被害が発生するかを予測する技術を、分子生物学的手法等を用いて開発しました。

そのほか、新品種として、産地からの要望が高い硝子率(硝子状の粒の割合)の低い高品質・早生・多収の裸麦品種「ハルヒメボシ」を、近畿中国四国管内で消費の多い淡色味噌の原料に好適で、晩播栽培で多収の大豆品種「あきまろ」を育成しました。これらについて詳しくお知りになりたい方は、当HPの「研究成果情報一覧」をご参照ください。今年も、現場で使える優れた個別技術を開発し、研究成果情報として皆さんにお示ししたいと考えております。

新たな「農林水産基本計画」では、研究成果の創出とともに、得られた研究成果を迅速に社会に還元する取組の強化も求められています。そのため、近中四農研は研究成果の内容を生産者、実需者、消費者等の皆さんに分かりやすく伝えるとともに、双方向コミュニケーションを通じて、皆さんからの声を真摯に受け止め、研究開発にフィードバックするようにしています。昨年は、九州沖縄農業研究センターと連携して、西日本向け良食味水稲品種「恋の予感」、「にこまる」、「きぬむすめ」および「姫ごのみ」のお披露目会を開催するとともに、醤油醸造用の大豆新品種「こがねさやか」と「たつまろ」の説明会を実需者等と共同で実施しました。また、中山間地域向けの有用な農業技術として、「シバ二重ネット工法」、「点滴灌水技術」、「高収益イチゴ栽培技術」、「マルドリ方式・ICTなどを活用した省力的な高品質カンキツ生産技術体系」等に関するセミナーや現地検討会を開催しました。さらに、近中四農研の4つの研究拠点での一般公開や4回のサイエンスカフェを開催し、研究活動の広報にも努めました。われわれの研究成果の普及拡大のために、また、より多くの方に近中四農研ひいては農研機構の活動を理解していただくために、今年も職員一同全力で研究成果の広報や普及活動に努めていきたいと考えております。

本年4月1日より、農研機構は、農業生物資源研究所、農業環境技術研究所および種苗管理センターと統合し、職員3,000人を超す、基礎から応用、開発・普及までを一貫して実施する農業・食品研究分野におけるわが国最大の研究機関となります。その中で、地域農業研究センターは新法人のフロントラインとして位置づけられるとともに、地域農業研究のハブ機能を強化するために新たな組織構成となります。具体的には、管内の先進的な農業経営の担い手等で構成するアドバイザリーボードを新設するとともに、現場ニーズの把握や課題抽出に取り組むコミュニケーターを新たに配置し、管内の公立試験研究機関、大学、普及組織、民間企業等と連携した共同研究の企画・立案、調整等を行う専門の部署を設けることになります。新たな組織となっても、われわれは近畿中国四国管内の農業に貢献できる技術開発や普及活動に積極的に取り組んで参りたいと思いますので、引き続きご支援をよろしくお願いいたします。

最後に、本年が皆さんにとって健康で実り多き1年でありますことを祈念いたしまして、新年のご挨拶とさせていただきます。

平成28年1月

国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構

近畿中国四国農業研究センター所長

竹中重仁