西日本農業研究センター

所長室だより -所長だより-年頭のご挨拶--

所長年頭挨拶新年あけましておめでとうございます。平成29年の年頭にあたりまして、ご挨拶申し上げます。旧年中は、農研機構西日本農業研究センターの業務に多大なるご支援をいただきまして、心より感謝申し上げます。

昨年4月の法人統合により、農研機構は、基礎から応用・開発・普及までを一体的に実施する農業・食品産業におけるわが国最大の研究機関となりました。それにともない、農研機構の内部組織である我々「近畿中国四国農業研究センター」は名称を「西日本農業研究センター」(西日本農研)と変更するとともに、組織体制も新たに企画部、総務部、リスク管理室、技術支援センター、6研究領域(「営農生産体系」、「水田作」、「生産環境」、「作物開発利用」、「傾斜地園芸」、「畜産・鳥獣害」)といたしました。

法人統合により、西日本農研は、農研機構のフロントラインの一つとして位置付けられ、生産現場等が直面する課題解決に向けた研究開発を最優先に取り組むことになりました。また、当センターには、近畿中国四国地域における農業研究のハブ機能の強化も求められています。このハブ機能とは、「西日本農研が研究ニーズの把握や研究プロジェクトの推進、さらには技術移転等を実施する際に、公設試験研究機関、大学、普及組織、民間企業と連絡・調整を行う機能」をさします。このハブ機能を果たすことにより、管内の現場ニーズに適切に対応した農業研究の推進と開発した技術の着実な普及が図られるものと考えます。

そこで、西日本農研は上記の他機関と連携して、生産現場での課題解決を目指した現地実証型の総合研究を、「水田作」、「果樹」、「野菜」および「畜産」の各分野で実施しています。特に、農林水産省の「革新的技術開発・緊急展開事業」の一つである「地域戦略プロジェクト」に、当センターが代表機関として採択された1「スマートマルドリ方式技術体系の確立と高品質カンキツ生産技術支援の実証」と2「和牛産地を支える水田里山の戦略的展開」については、所を挙げて取り組んでいます。両研究課題とも初年目の研究成果が得られたところですが、本年はさらにターゲットとして想定している経営体の経営改善・強化につながる研究成果を創出していきたいと考えています。その他、実需者・生産者ニーズを踏まえた水稲、小麦、裸麦および大豆品種の育成、農村環境に配慮した総合的な鳥獣害対策技術の開発、ならびに地域特産農産物の健康機能性評価の研究も引き続き実施していきます。

また、現場ニーズに対応した研究をより確実に推進するため、今年から管内の先進的農業経営の担い手等からなる外部組織「アドバイザリーボード」を設置することにしました。本組織は上記の四つの分野からなり、本年度は2月に「果樹分野」で、3月に「畜産分野」でアドバイザリーボードを開催することにしています。アドバイザーからいただいた意見をもとに、新たなニーズ等に対しても機動的に対応していきたいと考えています。

昨年度の西日本農研の代表的な研究成果を、以下に紹介します。まず、一つ目は、「難防除雑草マルバルコウ防除のための大豆品種『あきまろ』の狭畦晩播栽培体系」という研究成果です。中山間地域の大豆栽培で転作が進まない理由として、マルバルコウ等の難防除雑草や梅雨時期の大豆の湿害による収量低下が挙げられています。そこで、1梅雨明け後に播種しても収量が確保できる晩播適性の大豆品種「あきまろ」の狭畦栽培、2フォアス(地下水位制御システム)による潅漑効果、3土壌処理剤、選択性茎葉処理剤の全面散布ならびに非選択性茎葉処理剤の畦間株間散布、の三つの技術を組み合わせることにより、難防除雑草の防除と大豆の収量を確保できる栽培体系を構築しました。

二つ目の研究成果は、「パン用小麦品種『せときらら』とデュラム小麦品種『セトデュール』」です。今まで温暖地西部になかった製パン性に優れ多収のパン用小麦品種として一昨年度品種登録出願した『せときらら』を、普及拡大させることに成功しました。また、国産のデュラム小麦を使用したパスタへの要望に応えるため、パスタ適性に優れた日本初のデュラム小麦品種『セトデュール』を育成し、「2016年農林水産研究成果10大トピックス」に選定されました。

三つ目は、「高糖分WCS用稲を微細断し高密度輸送・サイロ調製する収穫体系」という研究成果です。近年、中山間地域においては水田を活用して、畜産農家へ安全な国産飼料を安定供給するWCS(ホールクロップサイレージ)用稲生産への取り組みが行われていますが、なお一層の低コスト化が求められています。そこで、片道輸送時間30分以内であればコスト削減が可能な、1高糖分WCS用稲を微細断収穫機で収穫し、2トラックで飼料基地まで高密度輸送して、3バンカーサイロ等で調製する体系を構築しました。

その他、カンキツの糖度の指標となる「簡易土壌水分計」や、段差のある圃場においても灌水作業を自動化できる「拍動灌水システム」を開発しました。これら研究成果について詳しくお知りになりたい方は、当センターHPの「研究成果情報一覧」をご参照ください。

我々は研究成果を創出するとともに、得られた研究成果の社会実装のために広報・普及活動も積極的に行っています。昨年は、国産の麦・大豆品種に対する生産・加工ニーズに応えるため、パン用小麦品種「せときらら」、パスタ用小麦品種「セトデュール」、大豆品種「たつまろ」と「こがねさやか」、もち性大麦品種・系統の紹介とそれらの利用法についてフォーラムを開催しました。また、中山間地域の活性化や農業所得向上を図る上で必要不可欠な鳥獣被害対策に関するフォーラムも開催しました。さらに、「高糖分WCS用稲を微細断し高密度輸送・サイロ調製する収穫体系」の現地検討会や技術セミナーを、昨年新たに開始した農林水産省の委託プロジェクト「薬用作物の国内生産拡大に向けた技術の開発」の方向性を議論するためのシンポジウムをそれぞれ開催しました。その他、サイエンスカフェ、一般公開、プレスリリース等の外部へのPR活動も実施しました。

今年も、現場で使える優れた技術開発や技術体系の構築を目指すとともに、各種セミナー、シンポジウム、イベント、プレスリリース等により、研究成果の広報・普及活動を積極的に実施いたします。本年もご支援を賜りますようお願い申し上げます。

最後に、本年が皆さんにとって健康で実り多き1年でありますことを祈念いたしまして、新年のご挨拶とさせていただきます。

平成29年1月

国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構

西日本農業研究センター所長

竹中重仁