西日本農業研究センター

所長室だより --年頭のご挨拶--

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新年あけましておめでとうございます。
平成30年の年頭に当たりまして、ご挨拶申し上げます。旧年中は、農研機構 西日本農業研究センター(西日本農研)の業務に多大なるご支援をいただきまして、心より感謝申し上げます。

昨年は、農業を取り巻く情勢に大きな変化があり、通常国会では、農業者の所得向上を図るための農業生産資材価格の引き下げや農産物の流通構造の変革等を柱とした農業改革関連法が成立しました。また、昨年11月には米国抜きの環太平洋連携協定(TPP11)が大筋合意され、さらに12月には日本とEUの経済連携協定(EPA)の交渉が妥結されました。このような動きの中、我々試験研究機関は、生産現場が直面している課題の解決に技術的な立場からより一層貢献していく必要があるものと考えております。

さて、西日本農研は、一昨年4月の農研機構の法人統合に伴い、組織体制を変更し、企画部、総務部、リスク管理室、技術支援センターならびに6つの研究領域(その下に共通の専門性を有する研究員のグループを18グループ配置)でスタートしました。その後、昨年4月には、近年の農地及び農業水利施設の地震・豪雨災害の頻発を踏まえ、傾斜地に立地する農地及び農業水利施設の防災及び減災技術の開発を実施する『傾斜地防災グループ』と、中山間地域の畜産業を成長産業化するため、ICT等の先端技術を活用した放牧管理技術の開発を実施する『先端放牧技術グループ』を新設し、現在、20の研究グループ体制で研究業務を推進しています。

西日本農研は、近畿中国四国管内に多い中山間地農業に対応した研究を重点的に実施しており、特に生産現場等が直面する課題解決に向けた研究開発を最優先に取り組んでいます。また、我々には、当管内の農業研究のハブ機能(西日本農研が研究ニーズの把握や研究プロジェクトの推進、さらには技術移転等を実施する際に、管内の公設試験研究機関、大学、普及組織、民間企業等と連絡・調整を行う機能)が強く求められています。

そこで、西日本農研は管内の他機関と連携して、生産現場での課題解決を目指した現地実証型の総合研究を、「水田作」、「果樹」、「野菜」および「畜産」の各分野で実施しています。特に、農林水産省の「革新的技術開発・緊急展開事業」の一つである「経営体強化プロジェクト」に、当センターが代表機関として採択された(1)「養水分制御を基盤とした樹体管理技術の確立による高品質カンキツ果実連年安定生産の実証」、(2)「低コスト・強靱化を実現する建設足場資材を利用した園芸用ハウスの開発」および(3)「水田里山の畜産利用による中山間高収益営農モデルの開発」の三つについては、所を挙げて取り組んでいます。その他、中山間地の水田への野菜導入のための麦、大豆、水稲の省力・安定多収栽培技術の開発、実需者・生産者ニーズを踏まえた水稲、小麦、裸麦および大豆品種の育成、農村環境に配慮した総合的な鳥獣害対策技術の開発、ならびに地域特産農産物の健康機能性評価の研究も実施しています。

昨年の西日本農研の代表的な研究成果を、以下に紹介します。まず、一つ目は、「縞葉枯病に抵抗性で糖含量が高い稲発酵粗飼料専用品種『つきすずか』」という研究成果です。最近、牛に消化されやすい茎葉の割合が高くサイレージ発酵に必要な糖含量が高い、西日本農研で育成された稲発酵粗飼料品種『たちすずか』の普及が進んでいます。しかし、この品種はイネ縞葉枯病に弱いため、本病の発生量が多い北関東地域では、なかなか普及できない問題がありました。そこで、本病に強く『たちすずか』と同様に稲発酵粗飼料生産に適する『つきすずか』という新品種を育成しました。

二つ目は、「低コストで高強度な建築足場資材を利用した、寒冷地適用の園芸ハウス」という研究成果です。狭く傾斜の多い中山間地に園芸用施設を導入しようとする場合、低コストで多少の積雪にも耐えうるような強靱な園芸ハウスが求められています。そこで、建設足場資材を利用して、滑雪性を高めて積雪による倒壊を回避できるように屋根勾配を20度以上とした、低コストで強靱な園芸ハウスを開発しました。

三つ目は、「防草性に優れた太陽光反射率の高い丈夫な白黒マルチシート」という研究成果です。我々は適切な養水分管理により高品質なカンキツ生産を可能とするマルドリ方式(株元に潅水チューブを設置し、雨水を透過させないために周年でマルチシートを敷設する栽培法)の普及を進めています。そこで、本方式の重要な構成資材である、防草性に優れ、太陽光反射率が高く、既製品より安価で引き裂き強度が高い白黒マルチシートをメーカーと共同で開発しました。

その他、「侵入防止柵の接地部を直管パイプで補強することで、イノシシのくぐり抜けを防止できる」という成果は、中山間地で深刻なイノシシ被害の軽減に役立つものであります。また、「シソ科植物に含まれるロスマリン酸は筋細胞のエネルギー消費を促進する」という成果は、シソ科植物の茎葉に含まれるロスマリン酸が筋細胞のエネルギーの消費を増加させることにより、肥満などに由来する生活習慣病の予防に役立つ可能性が期待できるというものです。これら研究成果について詳しくお知りになりたい方は、当センターHPの「研究成果情報一覧」をご参照ください。

我々は研究成果を創出するとともに、得られた研究成果の社会実装のために広報・普及活動も積極的に行っています。昨年は、社会的関心の高いテーマである気候変動を取り上げ、「気候変動に適応するための農業技術」に関するフォーラムを開催しました。また、「高品質・低コストな国産飼料生産を拡大する農業技術と品種」に関するフォーラムも開催しました。さらに、「前述の『たちすずか』や『つきすずか』を微細断し高密度輸送・サイロ調製する収穫体系」の現地実演会、「建設足場資材を利用した中山間地向け園芸ハウス」および「防草効果の高いマルチシートを利用したマルドリ方式」の現場への直接技術指導を行い、成果の普及に努めました。これら広報・普及活動に関しましては、当センターHPの「イベント・セミナー一覧」に掲載していますのでご参照ください。

今年も、現場で使える優れた技術開発や技術体系の構築を目指すとともに、各種セミナー、シンポジウム、イベント、プレスリリース等により、研究成果の広報・普及活動を積極的に実施いたします。本年もご支援を賜りますようお願い申し上げます。最後に、本年が皆さんにとって健康で実り多き1年でありますことを祈念いたしまして、新年のご挨拶とさせていただきます。

平成30年1月

国立研究開発法人 農業食品産業技術総合研究機構

西日本農業研究センター所長

竹中重仁