バクテリオシンを産生する乳酸菌のサイレージ調製への利用

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要約

飼料作物から分離された乳酸菌(Lactococcus lactis subsp. lactis )により産生されるバクテリオシンは幅広い抗菌スペクトルを有し、サイレージの不良発酵原因菌である酪酸菌、ブドウ球菌およびBacillus属細菌に対する抗菌作用が強い。両菌株の添加により高品質サイレージが調製できる。

  • キーワード:バクテリオシン、サイレージ、乳酸菌、飼料利用
  • 担当:畜産草地研・家畜生産管理部・飼料調製研究室
  • 連絡先:電話0287-37-7804、電子メールcai@affrc.go.jp
  • 区分:畜産草地
  • 分類:技術・参考

背景・ねらい

乳酸菌が産生する抗菌物質であるバクテリオシンは熱安定性に優れ、動物腸管内の消化酵素により分解され、発酵飼料の風味に悪影響を与えない。さらにその抗菌作用は選択的であり、サイレージ発酵過程において、有用菌を生かしながらも、有害菌のみを排除する高度な微生物的制御が期待される。
そこで、乳酸菌のサイレージへの新しい利用方法の開発を目指し、バクテリオシンを産生する乳酸菌の探索とそのサイレージ調製への利用方法について検討する。

成果の内容・特徴

  • 分離菌株Lactococcus lactis subsp. lactis RO32株とRO50株はグラム陽性、カタラーゼ陰性の球菌であり、L(+)乳酸を産生するホモ発酵型の乳酸菌である(表1)。
  • 両菌株全領域の16S rRNA遺伝子の塩基配列を決定し、他菌種と比較したところ、それらの分子系統位置はLactococcus属のクラスターにある。両菌株はともにLactococcus lactic subsp. lactisの基準株ともっとも近縁な系統関係にあり、それと90%以上のDNA-DNA相同性を示すため、RO32とRO50株はLactococcus lactis subsp. lactisと同定される(図1)。
  • 両菌株により産生されるバクテリオシンは幅広い抗菌スペクトルを有しており、サイレージの不良発酵原因菌である酪酸菌、ブドウ球菌およびBacillus属細菌に対する抗菌作用が強い(表2)。
  • 両菌株はサイレージ発酵過程において旺盛に増殖し、生成するバクテリオシンや乳酸により、酪酸菌や大腸菌などの有害微生物の生育を強力に抑える。これらの乳酸菌を添加すると、サイレージのpH値、酪酸含量およびアンモニア態窒素含量が低下し、乳酸含量が高まり、良質なサイレージが調製される(表3)。

成果の活用面・留意点

  • 両菌株は新規乳酸菌添加剤として高品質サイレージの調製に活用できる。
  • 他の乳酸菌株と混合してサイレージに接種する場合、その菌株の生育がバクテリオシンによって阻害されないか、予め確認しておく必要がある。

具体的データ

表1. Lactococcus lactis RO32とRO50の生理・生化学性状 表2. Lactococcus lactis RO32とRO50の抗菌活性

 

図1.Lactococcus lactis RO30、RO50および近縁乳酸菌の16S rRNA遺伝子の分子系統樹

 

表3. イタリアンライグラスサイレージの発酵品質と微生物菌数

その他

  • 研究課題名:プロバイオティック乳酸菌によるサイレージの発酵制御
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2000~2002年度
  • 研究担当者:蔡 義民、サイド エナハ、藤田泰仁、徐 春城、村井 勝
  • 発表論文等:
    1)蔡義民・藤田泰仁・サイド エナハ (2002) 新規乳酸菌株、それを含有する微生物添加剤及び該当添加剤を

        用いる稲発酵粗飼料の調製方法。特許願2002年第202215号。
    2) Said Ennahar, Yimin Cai and Yasuhito Fujita (2003) Phylogenetic Diversity of Lactic Acid Bacteria Associated
        with Paddy Rice Silage as Determined by 16S Ribosomal DNA Analysis. Applied and Environmental
        Microbiology 69(1): 444-451.