ミカンキイロアザミウマのTSWV媒介能力における個体群間及び雌雄間差異

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要約

国内に生息するミカンキイロアザミウマのTSWV媒介能力は個体群間で異なる。東北地域個体群の媒介能力は、中国地域(島根、広島)の個体群に比べて高く、TSWVによる顕著な被害が報告された静岡や高知の個体群と同程度かそれ以上である。また、雄の媒介能力は雌に比べて高い。

  • キーワード:ミカンキイロアザミウマ、TSWV、媒介能力、個体群間差異、雌雄間差異
  • 担当:農研機構・東北農研・地域基盤部・害虫生態研
  • 連絡先:019-643-3466
  • 区分:共通基盤・病害虫、東北農業・生産環境(病害虫)
  • 分類:科学・参考

背景・ねらい

多くの野菜花き類に経済的被害を及ぼすTSWV(トマト黄化えそウイルス)は、1990年にわが国に侵入したミカンキイロアザミウマ Frankliniella occidentalisによって媒介される。最近、このアザミウマのTSWV媒介能力における地域間や雌雄間差異が明らかになりつつあるが、一カ国内の多くの個体群について媒介能力を比較した研究例はない。同種内における媒介能力の違いはTSWVによる病害の発生と拡大に大きく影響すると考えられるため、これを明らかにしておくことはこのウイルスによる病害を防除する上で重要である。東北地域においてもTSWVの発生が報告されており、今後の被害拡大が懸念される。そこで、この地域に生息するミカンキイロアザミウマを含めた国内12個体群について、その媒介能力を個体群および雌雄別に評価する。

成果の内容・特徴

  • TSWVを獲得処理させた幼虫は成虫期に媒介可能となり、保毒虫と判定された成虫の半数以上の個体が媒介を行う(図1)。保毒虫のうち媒介した個体のウイルス濃度は高い(図2)。このようなアザミウマ体内のウイルス量の違いが媒介能力の違いの原因と考えられる。
  • 東北地域6県8カ所で採集されたミカンキイロアザミウマ個体群のウイルス媒介能力は、TSWVの発生が少ない中国地域の個体群(島根、広島)に比べていずれも高く、顕著な被害が報告された静岡や高知の個体群と同程度かそれ以上である(図3)。このような東北地域個体群の高い媒介能力は、東北地域で発生したTSWVの分離株(青森系統)だけでなく、他地域の分離株(茨城系統)でも同様に見られる。
  • 調査したいずれの個体群においても、雄は雌に比べて高い媒介能力を持つ(図3)。

成果の活用面・留意点

  • TSWVの媒介能力は雌雄間で異なるため、ミカンキイロアザミウマ個体群の媒介能力を推定する際には、雌雄に分けて個体数を調査する必要がある。

具体的データ

図1 ミカンキイロアザミウマ成虫のTSWV保毒率及び媒介率 図2 ミカンキイロアザミウマ成虫のTSWV保毒・媒介能 力とエライザ吸光度(A405nm ,TSWV-Nタンパクに対する 値)との関係縦棒は標準偏差

 

図3 ミカンキイロアザミウマTSWV媒介能力の地域個体群間及び雌雄間差異

その他

  • 研究課題名:アザミウマ類によるトマト黄化えそウイルス伝搬機構の解明
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:1999~2003年度
  • 研究担当者:櫻井民人、井上登志郎(岩手大)
  • 発表論文等:1)Sakurai and Inoue (2000) XXI-International Congress of Entomology ABSTRACT BOOK 21:817.
                      2)櫻井(2000)農林害虫防除研究会報告 5:52-58.
                      3)櫻井・井上(2001)北日本病害虫研究会報 52:258.