研究活動報告

北陸地域における水稲初冬直播き栽培の実用性と留意点

情報公開日:2024年5月29日 (水曜日)

耕地に占める水田の割合が9割に近い北陸地域では、生産者の高齢化に伴う離農により比較的若い生産者に急速に水田が集積しつつあります。これまでの水稲移植栽培だけでは作付けがままならなくなり耕作放棄の多発が危惧される中、農研機構中日本農業研究センターと岩手大学の研究グループは、現状を乗り越えるための飛躍的な作業分散技術である水稲初冬直播き栽培を北陸地域で実証するとともに留意点を明らかにしました。

試験の結果、北陸地域で普及している農研機構が育成した水稲品種「ちほみのり」、「つきあかり」、「みずほの輝き」、「にじのきらめき」を11月中頃に手播きすると、翌年に34~68%の出芽率が得られ (表1)、 実用性があると考えられました。また、前年産種子は出芽率が当年産種子より劣りやすいこと、チウラム水和剤の種子コーティングが出芽率を向上させることなど留意点を明らかにしました。当年産種子の準備の観点から早期に収穫できる早生の多収良食味品種「つきあかり」を用い、安定した収量に必要な苗立ち数を確保するための機械播種量を検討したところ、耕起同時播種での苗立ち率は概ね25%程度と考えられ、当年産種子約11kg/10aが必要と推定されました。実証試験として品種「つきあかり」を用いた生産者圃場での初冬直播き (11月中旬~12月上旬、写真1) 栽培では、肥効調節型窒素肥料を播種時に土中施用することで全刈り精玄米重が411~530kg/10aであり、収量500kg/10aを超える実用的な事例が試験した全3シーズンで得られました (表2、写真2)。また、玄米の外観品質は移植栽培と比較して遜色なく、玄米タンパク質含有率も早生品種としては問題のない数値でした。これらの知見は、北陸地域における初冬直播き栽培の初めての報告であり、本技術を体系的に確立するための基礎的知見となります。

関連情報

【発表論文】
タイトル:北陸地域の水稲初冬直播き栽培における出芽・苗立ち性および収量性
著者:大平陽一・加藤仁・下野裕之
雑誌名:日本作物学会紀事93:107-121.(2024)
DOI番号:https://doi.org/10.1626/jcs.93.107
【掲載情報】
岩手大学次世代アグリイノベーション研究センター
「【研究紹介】イネ初冬直播き栽培を北陸地域で実証しました」