施設野菜類の微小害虫防除に役立つバンカーシートと利用マニュアル
要約
バンカーシートはカブリダニ類にすみか・増殖場所を与え、害虫に対する防除効果を高める天敵増殖資材である。本資材の活用により、イチゴやキュウリ等の施設栽培の野菜類で問題となるハダニ類、アザミウマ類、コナジラミ類の発生を安定的に抑制できる。
- キーワード:バンカーシート、利用マニュアル、生物的防除、カブリダニ類、微小害虫
- 担当:中央農業研究センター・虫・鳥獣害研究領域・生物的防除グループ
- 代表連絡先:電話050-3533-1838
- 分類:普及成果情報
背景・ねらい
ハダニ類やアザミウマ類、コナジラミ類は施設栽培の野菜類に大きな被害を与える重要害虫である。これらの微小害虫は薬剤抵抗性を発達させており、化学農薬による防除が難しいため、天敵であるカブリダニ類による生物的防除の併用が進められている。しかし、従来のカブリダニ製剤(ボトル製剤やパック製剤)は取扱いが難しく、栽培環境の影響で効果が安定しないことが課題である。そこで、優れた天敵保護効果と持続的な天敵放飼を可能とする新たな天敵増殖資材を実用化し、本資材を利用した施設野菜類における微小害虫防除技術を確立する。その利用法と効果をまとめたマニュアルを公表し、都道府県の普及指導者や天敵利用に関心を持つ生産者に対して天敵利用技術を普及する。
成果の内容・特徴
- バンカーシートは耐水紙でできた封筒状の簡易シェルターで、中にカブリダニ類のパック製剤と保水資材、天敵産卵用資材を入れて作物に設置する(図1)。本資材には、薬剤散布・灌水・乾燥等からカブリダニ類を保護する効果がある(図2)。また、保水資材や天敵産卵用資材の働きにより、カブリダニ類の増殖と作物への持続的な放出を助ける。これらの特長により、簡便で防除効果の高い天敵放飼が可能になる。
- 害虫の発生直前または発生初期にバンカーシートを設置することで、防除効果が得られる(図3)。害虫の密度が高い場合には十分な効果が得られないため、カブリダニ類に影響の少ない薬剤を散布して害虫密度を下げた後に天敵放飼を行う。
- バンカーシートで利用可能な天敵はミヤコカブリダニとスワルスキーカブリダニの2種である(図1)。前者(天敵セット製品名:ミヤコバンカー)は施設野菜類等のハダニ類、後者(天敵セット製品名:スワルバンカー)は施設野菜類(トマトやミニトマトを除く)等のアザミウマ類やコナジラミ類に対して利用が可能である。
- 「バンカーシート利用マニュアル」を活用することで、天敵利用経験の浅い生産者でもカブリダニ類を利用した害虫防除が可能になる。本マニュアルにはバンカーシートの特徴や使用上のポイント、薬剤との併用事例等が作物別(施設栽培のイチゴ・キュウリ・ナス・サヤインゲン)にまとめられ、写真や図表で分かり易く説明されている。マニュアルはインターネットでダウンロードできる(URLは発表論文等を参照)。
普及のための参考情報
- 普及対象:施設野菜類の生産者、都道府県試験研究機関および普及指導機関
- 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等:イチゴ・キュウリ・ナス・サヤインゲン等の施設野菜類(スワルバンカーはトマトやミニトマトを除く)。目標普及面積1000ha。
- その他:バンカーシートの保護効果は資材内部に限定され、作物上のカブリダニ類への保護効果はない。導入にあたっては、地域の試験研究機関や指導普及機関等と連携し、使用を避けるべき薬剤の種類や期間等、注意すべき栽培環境について周知、徹底することが重要である。利用マニュアルの内容に関する問い合わせ先は農研機構中央農業研究センター、商品に関する問い合わせ先は石原バイオサイエンス(株)である。
具体的データ

その他
- 予算区分:競争的資金(農食事業)
- 研究期間:2014~2017年度
- 研究担当者:下田武志、日本典秀、後藤千枝、平岡正(大協技研工業)、森光太郎(石原産業)、香川理威(石原産業)、吉澤仁志(群馬農技セ)、中野昭雄(徳島農林セ)、松比良邦彦(鹿児島農総セ)、柳田裕紹(福岡農林試)、下元満喜(高知農技セ)、安達鉄矢(高知農技セ)、中島哲男(石原バイオ)、関康洋(普及支援協会)
- 発表論文等:
1)農研機構(2017)「バンカーシート利用マニュアル2017年度版(第一版)」http://www.naro.affrc.go.jp/project/research_activities/laboratory/narc/077789.html(2017年10月24日)
2)Shimoda T. et al. (2017) BioControl 62:495-503
3)松比良ら(2017)、九州病害虫研究会報、63:86-90