日本で発生する全てのトスポウイルスを検出できるユニバーサルプライマー

要約

アザミウマにより媒介されるトスポウイルスは世界で29種が報告されており、このうち日本では8種の発生が確認されている。既報ユニバーサルプライマーまたはその改変プライマーを用いたRT-PCRにより、現在日本で発生する全てのトスポウイルスを検出できる。

  • キーワード:トスポウイルス、遺伝子診断、ユニバーサルプライマー
  • 担当:中央農業研究センター・病害研究領域・リスク解析グループ
  • 代表連絡先:電話029-838-8885
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

トスポウイルスは、アザミウマにより永続的に媒介されるトスポウイルス属ウイルスの総称であり、世界の作物に大きな被害を与えている。本ウイルスは、微小害虫であるアザミウマにより媒介され、様々な作物に感染するため防除が難しい。発生国が拡大しているウイルス種もあり、日本未発生種の侵入が危惧されている。一方、国内既発生のウイルス種についても、発生地域の拡大や未報告の宿主への感染のため、特定のウイルス種を対象とした手法のみでは検出漏れが生じ、初期対応が遅れる恐れがある。このため、これらを網羅的に検出できる手法として、トスポウイルスの遺伝子情報に基づく汎用性のある検出技術を開発する。

成果の内容・特徴

  • The International Committee on Taxonomy of Viruses (ICTV)の分類基準に基づき、これまでに報告された文献等を整理すると、独立した種として種名が提案されているトスポウイルスは29種あり、このうち8種が国内既発生である(表1)。
  • トスポウイルスの検出に利用される既報のプライマーのうち、L RNA分節の一部を増幅するプライマーt2740とt3920c(表2)を用いて、現在日本で発生しているトスポウイルス8種にそれぞれ感染した植物から抽出したRNAを鋳型としたRT-PCRを行うと約1200bpのDNAが増幅される。本プライマー対は国内で発生するトスポウイルスの網羅的検出に利用できる。
  • 既報トスポウイルスの塩基配列に基づきt2740とt3920cの配列の一部を改変したプライマーt2740#1とt3920c#1(図1および表2)は、日本で発生しているトスポウイルス8種の検出能力を維持しつつ(図2)、t2740とt3920cより多種のトスポウイルスに適合している。

成果の活用面・留意点

  • 2種以上のトスポウイルスの感染が想定される場面では、特異的プライマーのみでは検出漏れが生じるおそれがある。本プライマーで網羅的検出を行うことで検出漏れのリスクを低減できる。
  • ウイルス種を同定するためには、増幅DNA断片の塩基配列解析が必要である。
  • RT-PCRの条件は、使用する機械や試薬により適宜変更を必要とする場合がある。
  • プライマーt2740#1とt3920c#1は、国内未発生種の検出への利用が期待される。

具体的データ

表1 国内で発生しているトスポウイルス;表2 検出に用いるユニバーサルプライマー;図1 新規ユニバーサルプライマーt2740#1(A)およびt3920c#1(B)の塩基配列並びに既報トスポウイルスRNA依存RNA合成酵素遺伝子(RdRp)の対合部位の塩基配列;図2 ユニバーサルプライマーt2740#1とt3920c#1による8種トスポウイルスの検出例

その他

  • 予算区分:交付金、農水委託プロ(温暖化適応・異常気象対応)
  • 研究期間:2015~2017年度
  • 研究担当者:奥田充
  • 発表論文等:
  • 1)奥田(2016)日植病報、82(3):169-184
    2)奥田(2017)関東東山病虫研報、64:68-72