植物生息細菌から見出された新規のUVA吸収成分「メチロバミン」
要約
農業環境インベントリーに保存されている植物生息性Methylobacterium属細菌の菌体抽出成分より、紫外線A波(UVA)を吸収する新規化合物を見出し、これをメチロバミン(Methylobamine)と命名する。
- キーワード:植物生息微生物、Methylobacterium、UVA、メチロバミン
- 担当:中央農業研究センター・病害研究領域・生態的防除グループ
- 代表連絡先:電話029-838-8481
- 分類:研究成果情報
背景・ねらい
紫外線A波(UVA:320-400nm)は、ヒトの肌の真皮層まで到達しシワ・たるみ(光老化)の原因となることが近年広く認知され、その対策が求められている。紫外線吸収剤は、光老化を防ぐ効果があり、各種日焼け止め剤などに配合されている。しかし、UVAをターゲットとした吸収剤は種類が少なく、多様なニーズに対応するために、既存のものと異なる特徴を有するUVA吸収剤の開発が求められている。
植物に生息する微生物は各種の環境ストレスに曝されており、紫外線に対してもさまざまな対抗手段を取って生息しているとされている。農業環境インベントリーには、約2万菌株の植物生息微生物コレクションが収集・保存されているが、その中には新規なUVA吸収成分を保持する微生物種が存在する可能性がある。そこで、UVA吸収成分を保持する植物生息微生物を探索するとともに、吸収成分の同定および特性解明を行い、それらの利用促進に役立てる。
成果の内容・特徴
- イネやコムギなどの植物体から分離した細菌計200菌株中17菌株の菌体粗抽出液よりUVA吸収能を有する成分が確認され、これらの菌株はいずれもMethylobacterium属細菌である(図1)。
- 菌体から抽出された吸収成分は、含水メタノールや水などで抽出可能な低分子成分で、既存のUVA吸収剤にはない水に溶けやすい特徴を有する。
- 粗抽出液から固相抽出カラムおよびHPLCにより精製される吸収成分のUVA吸収能および吸収スペクトルは、既存の吸収剤アボベンゾン(avobenzone)と類似する(図2)。
- 精製した吸収成分は日光下やUVA照明下に暴露しても分解せず、光安定性が高い。
- INADEQUATE(炭素-炭素の連結関係を直接測定する方法)を含む二次元NMRおよびX線結晶構造などの解析より、吸収成分は糖とアミノ酸から生合成されると推定され、N-methyl-α-galactosamineを部分構造として有する新規化合物であり、「メチロバミン(Methylobamine)」と命名する(図3)。
成果の活用面・留意点
- メチロバミンは、既存の吸収剤にはない特徴を有する天然由来のUVA吸収成分として、日焼け止め剤の原料などの用途に活用できる可能性がある。
- メチロバミンは、Methylobacterium属細菌の菌体内に含有され、菌体外に分泌されないと考えられる。
- Methylobacterium属細菌から抽出されるUVA吸収成分は、メチロバミン以外にも複数存在する。
- 農業環境インベントリーの植物生息微生物コレクションの保存株をさらに活用することで、別の新規吸収成分が得られることも期待される。
具体的データ
その他
- 予算区分:交付金
- 研究期間:2011~2017年度
- 研究担当者:吉田重信、加茂綱嗣、平舘俊太郎、鈴木健、小板橋基夫、藤田一郎(昭和電工)、山木進二(昭和電工)、米田正(昭和電工)
- 発表論文等:
1)吉田ら「植物生息微生物由来の紫外線吸収剤組成物」特許第5751517号(2015年5月29日)
2)山木ら「紫外線吸収能を有する化合物またはその塩、およびその製造方法、皮膚外用剤、化粧料」PCT/JP2016/078032(2016年9月23日)
3)Yoshida S. et al. (2017) J. Photochem. Photobiol. B. 167:168-175
4)Kamo T. et al. (2018) Natural Product Communications. 13:141-143