化学合成殺虫剤を半減する新たなトマト地上部病害虫防除体系マニュアル

要約

トマト地上部の難防除害虫の防除に有効な天敵資材やその効果を増強する天敵温存植物と天敵誘引装置、さらに害虫忌避剤、侵入防止資材について、特徴と利用法を解説するマニュアルである。これらの技術の組み合わせにより、化学合成殺虫剤使用量を半減することができる。

  • キーワード:タバコカスミカメ、天敵温存植物、アセチル化グリセリド、新型赤色防虫ネット、紫色LED天敵誘引装置
  • 担当:中央農業研究センター・虫・鳥獣害研究領域・生物的防除グループ
  • 代表連絡先:電話029-838-8481
  • 分類:普及成果情報

背景・ねらい

トマト栽培においてコナジラミ類やアザミウマ類は植物体を直接加害するだけでなく、ウイルス病を媒介するなど非常に重要な害虫である。しかし近年、薬剤抵抗性の発達により、既存の化学合成殺虫剤のみによる防除が困難になってきており、生物的・物理的・化学的防除技術を組み合わせた総合的病害虫管理技術(IPM)の観点から、害虫防除における考え方を「殺虫から制虫へ転換」することが求められている。そこで、新たな防除資材を組み合わせて、既存の化学合成殺虫剤使用量を半減させる新たなトマト地上部病害虫管理体系の構築を行なう。
これらの体系を、全国7箇所の圃場において、それぞれの地域・作型に応じたパッケージとして圃場レベルで有効性を検証評価し、実用的な体系をマニュアル化して提示する。あわせて、それらを支える個別技術について技術者向けに解説するマニュアルも公開する。これにより、従来の化学合成殺虫剤防除回数を削減しつつ安定した防除効果を生産者にもたらし、我が国におけるトマト生産の安定化に資する。

成果の内容・特徴

  • 本マニュアルは、全国7地域の地域別体系化マニュアルおよび個別技術集によって構成される。
  • 本体系は、捕食性天敵タバコカスミカメと、それをより効果的に活用するための天敵温存植物利用技術および紫色LED天敵誘引装置、害虫の侵入を抑制する新型赤色防虫ネット、コナジラミ類をトマト植物体から忌避させるアセチル化グリセリド剤を、地域・作型によって適宜組み合わせた体系である(図1)。
  • 本体系では、とくに虫媒性ウイルス媒介虫であるコナジラミ類を「入れない」「増やさない」「出さない」を達成する各種技術を利用する。生物的防除においては、捕食性天敵タバコカスミカメの生物学的特性に着目し、天敵温存植物を併用して安定的な防除を行う。物理的防除においては「入れない」ためには、新型赤色防虫ネットを開発し、その有効性を検証した上で商品化を行う。「増やさない」「出さない」ために、タバコカスミカメを効率よく圃場内に分散させ安定的に防除可能にする紫色LED天敵誘引装置を用いる。化学的防除においては、コナジラミ類の新規忌避剤として食品添加物としても利用され安全性の高いアセチル化グリセリド(AG)剤を用いる。
  • コナジラミ類以外に発生する病害虫に対応するための殺虫剤、殺菌剤については、導入するタバコカスミカメに影響の少ない薬剤を提示し、総合的に防除する。
  • 新たなトマト地上部病害虫防除体系によって、慣行防除と同等の防除効果を得つつ、従来型の化学合成殺虫剤使用量が半減される(図2)。
  • 化学合成殺虫剤使用回数の低減は、生産者の薬剤散布の負担を軽減すると共に、害虫類における薬剤抵抗性の発達を回避することが期待できる。
  • 新防除体系は経済的コスト低減も期待でき、農業所得の改善も見込める(表1)。

普及のための参考情報

  • 普及対象:施設トマト生産者、普及指導機関
  • 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等:全国、施設トマト(大玉)の5%(150ha)
  • 全国7地域における体系技術については、各地で講習会を開催するとともに、地域に応じた防除体系として普及を進める予定である。
  • その他:天敵タバコカスミカメは、現在農薬登録申請中であり、製剤の放飼は試験以外では認められない。ただし、四国・九州地方など温暖地では、野外に分布する土着天敵を特定防除資材として利用することは可能である。この場合、紫色LED天敵捕集装置の活用が可能である。

具体的データ

図1 新たなトマト地上部病害虫防除体系に用いる防除資材。,図2 新たなトマト地上部病害虫防除体系によるトマト上の虫数(天敵:タバコカスミカメ、害虫:コナジラミ類)の推移。,表1 新たなトマト地上部病害虫防除体系の採算性

その他

  • 予算区分:その他外部資金(SIP)
  • 研究期間:2016~2018年度
  • 研究担当者:日本典秀、長坂幸吉、有本誠、安居拓恵、辻井直、安田哲也、田渕研、上杉龍士、安部順一朗、大鷲友多、霜田政美、村路雅彦、前田太郎、上原拓也、北村登史雄、水谷信夫、田中彩友美、安達修平、大西純、関根崇行(宮城県農園研)、猪苗代翔太(宮城県農園研)、鈴木香深(宮城県農園研)、高橋浩明(宮城県農園研)、畑中篤(宮城県農園研)、駒形泰之(宮城県農園研)、大矢武志(神奈川県農技セ)、折原紀子(神奈川県農技セ)、島田涼子(神奈川県農技セ)、上西愛子(神奈川県農技セ)、聖代橋史佳(神奈川県農技セ)、山崎聡(神奈川県農技セ)、高田敦之(神奈川県農技セ)、安井奈々子(神奈川県農技セ)、中野亮平(静岡県農技研)、斉藤千温(静岡県農技研)、土井誠(静岡県農技研)、片山晴喜(静岡県農技研)、西野実(三重県農研)、黒田克利(三重県農研)、鈴木啓史(三重県農研)、田口裕美(三重県農研)、川上拓(三重県農研)、松浦昌平(広島県農技セ)、星野滋(広島県農技セ)、西濱健太郎(広島県農技セ)、亀井幹夫(広島県農技セ)、古家忠(熊本県農研究セ)、江口武志(熊本県農研究セ)、坂本幸栄子(熊本県農研究セ)、本田裕貴(熊本県農研究セ)、行徳裕(熊本県農研究セ)、大野和朗(宮崎大学)、安達鉄矢(宮崎大学)、松尾光弘(宮崎大学)、手塚俊行(アグリ総研)、秋武秀行(アグリ総研)、小原慎司(アグリ総研)、伊藤健司(アグリ総研)、大橋祐輝(アグリ総研)、三浦早貴(アグリ総研)、安部洋(理研)、德丸晋(京都府農林セ)、伊藤俊(京都府農林セ)、山口雄也(京都府農林セ)、岡留和伸(京都府農林セ)、岩川秀行(京都府農林セ)、檜垣誠司(京都府農林セ)、山口雄也(京都府農林セ)、吾郷泰三(日本ワイドクロス)、阿部弘文(日本ワイドクロス)、中野昭雄(徳島県農総セ)、田村收(徳島県農総セ)、渡邉崇人(徳島県農総セ)、武知耕二(徳島県農総セ)、鈴木孝洋(シグレイ)、田中正彦(ネイブル)、八瀬順也(兵庫県農技セ)、田中雅也(兵庫県農技セ)、栁澤由加里(兵庫県農技セ)、冨原工弥(兵庫県農技セ)、吉田和弘(兵庫県農技セ)、三浦宏晴(兵庫県農技セ)、源昌宏(兵庫県農技セ)、森口彦弥(大協技研工業)、鈴木裕二(大協技研工業)、平塚美穂(大協技研工業)、山村信介(大協技研工業)、平岡正(大協技研工業)、大関顕久(大協技研工業)、加嶋崇之(石原産業中研)、上宮健吉(石原産業中研)、高野梓(石原産業中研)、花井衣理(日本総研)
  • 発表論文等: