コムギ春播性遺伝子Vrn-D1の準同質遺伝子系統の発育および収量特性

要約

秋播型準同質遺伝子系統は春播型原品種に比べて、播種後の気温が高い早期播種では二重隆起形成期、頂端小穂形成期および茎立期が遅く、3月中旬以降の乾物生産性が高く、1穂粒数が多くなり多収である。

  • キーワード:秋播型コムギ、春播性遺伝子、Vrn-D1、発育、収量
  • 担当:中央農業研究センター・生産体系研究領域・輪作体系グループ
  • 代表連絡先:電話029-838-8481
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

低温要求性はコムギの出穂の早晩性を制御する主要な特性である。温暖地や暖地で広く普及してきた低温要求性の小さい春播型コムギに代わって、低温要求性が大きく凍霜害に遭いにくい秋播型コムギ品種が開発され、普及してきている。低温要求性に関与する春播性遺伝子座のうち、暖地・温暖地の在来品種の春播性はVrn-D1によることが明らかになっている。本研究では、春播型早生品種とそれらを背景として育成されたVrn-D1に関する秋播型準同質遺伝子系統の圃場環境下における発育および収量の違いを明らかにし、温暖地暖地向け秋播型コムギ品種に適応した栽培技術の開発と、今後のコムギ品種の育成に資する。

成果の内容・特徴

  • 早期播種(10月中旬)と標準播種(11月中旬)では、秋播型準同質遺伝子系統の二重隆起形成期は春播型原品種より遅く、その後の頂端小穂形成期と茎立期も遅いが、開花期と成熟期はほとんど変わらない。一方で、播種後の10日間の日平均気温が12°C以下と低温である晩期播種(11月下旬~12月上旬)では、二重隆起形成期以降の発育がほぼ同時である(図1)。
  • 播種後の気温が高い早期播種では、秋播型準同質遺伝子系統の方が春播型原品種より3月中旬以降乾物生産性高い(図2)。
  • 早期播種では、秋播型準同質遺伝子系統の方が春播型原品種より1穂粒数が多く、多収となる(表1)。

成果の活用面・留意点

  • 秋播型コムギ品種に適応した栽培技術の開発と春播性遺伝子を利用した品種育成に資する基礎的なデータとして活用する。
  • 本試験で用いた準同質遺伝子系統は秋播型のエビスコムギを1回親、春播型「アブクマワセ」および「アサカゼコムギ」を背景として育成されたものであり、秋播性程度はIVである。
  • 本結果は、温暖地(茨城県つくば市)において,標準的な肥培管理で行った栽培試験によって得られたものである。

具体的データ

図1 春播型原品種と秋播型準同質遺伝子系統の発育,図2 早期播種栽培(10月中旬)における春播型原品種と秋播型準同質遺伝子系統の乾物重の推移,表1 春播型原品種と秋播型準同質遺伝子系統の収量と収量構成要素

その他

  • 予算区分:委託プロ(温暖化適応・異常気象対応)
  • 研究期間:2011~2017年度
  • 研究担当者:松山宏美、松中仁、澤田寛子、中村和弘、境哲文、岡村夏海、松﨑守夫、関昌子、島﨑由美、小島久代、乙部千雅子、髙山敏之、大下泰生、藤田雅也、小田俊介、加藤鎌司(岡山大)
  • 発表論文等:
    • 松山ら(2017)日作紀、86(4):311-318
    • Sawada H. et.al. (2019) Plant Prod. Sci. 22(2):275-284 doi:10.1080/1343943X.2018.1563495