イネツトムシに有効なBT水和剤の散布時期および残効期間

要約

BT水和剤は、イネツトムシが多発している水稲の有機栽培圃場において、中老齢幼虫発生期に散布を行っても、若齢幼虫発生期での散布と同等の高い防除効果が得られる。また、イネツトムシに対するBT水和剤の残効は、散布4日後まで認められる。

  • キーワード:水稲、有機農業、イネツトムシ(イチモンジセセリ)、昆虫病原細菌
  • 担当:中央農業研究センター・虫・鳥獣害研究領域・虫害防除体系グループ
  • 代表連絡先:電話029-838-8522
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

水稲の有機栽培では晩植すると、水稲害虫のイチモンジセセリ幼虫(以下イネツトムシ)の食害が多発する場合がある。化学合成農薬が使用できない有機栽培では、これまで有効な対策技術はほとんどなかったが、昆虫病原細菌であるBacillus thuringiensis を主成分とするBT水和剤が2014年にイネツトムシにも適用拡大された。本剤は比較的安価で、水稲有機栽培を中心に利用が期待されている。一般に、薬剤散布によるイネツトムシの防除は、若齢幼虫発生期に行うのが有効とされ、中老齢幼虫発生期の散布は効果が劣る例が知られている。しかし、若齢幼虫やその被害葉の発生を目安に散布時期を見極めるのは難しい。また、薬剤の効果を十分に発揮させるには、残効性を考慮して散布時期を決定することが重要であるが、水稲におけるBT水和剤の残効については明らかになっていない。そこで、中老齢幼虫発生期におけるBT水和剤によるイネツトムシの防除効果を明らかにするとともに、BT剤の残効性の調査を行い、BT水和剤を効果的に利用するための技術の確立に役立てる。

成果の内容・特徴

  • イネツトムシの中老齢幼虫に対するBT水和剤の殺虫効果を確認するため、食餌浸漬法による感受性試験を行うと、2000倍および4000倍希釈のBT水和剤の死虫率は全て100%を示し、高い殺虫効果を示す(表1)。このことは、中老齢幼虫発生期もBT水和剤の散布によって防除が可能であることを示唆している。
  • イネツトムシが多発している水稲の有機栽培圃場において、BT水和剤を中老齢幼虫発生期に4000倍希釈のBT水和剤を散布すると、幼虫・蛹数を1頭/株以下に抑えることができ(図1)、若齢幼虫発生期の散布(図2)と同等の防除効果を示す。
  • BT水和剤散布後に孵化する幼虫に対する殺虫効果を把握するため、その残効期間を調査すると、イネツトムシの若齢幼虫に対するBT水和剤の残効は、散布4日後まで認められる(表2)。

成果の活用面・留意点

  • BT水和剤は、中老齢幼虫発生期でも防除効果が認められるが、老齢(5齢)幼虫になると食害量が急増し、被害のリスクが高まるため、中齢幼虫発生期までに散布することが望ましい。
  • BT水和剤は、有機栽培および特別栽培米において、化学合成農薬の使用回数としてカウントされない。
  • イネツトムシに適用されるBT水和剤の希釈倍数は2000~4000倍で、10aあたりの価格は、2018年現在2000倍希釈100L/10aで620~700円、4000倍希釈100L/10aで310~350円である。

具体的データ

表1 イネツトムシの中老齢幼虫に対するBT水和剤の殺虫効果,表2 イネツトムシに対するBT水和剤の残効期間,図1 中老齢幼虫発生期のイネツトムシに対するBT水和剤の防除効果(2018年).,図2 若齢幼虫発生期のイネツトムシに対するBT水和剤の防除効果(2018年).

その他

  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2016~2018年度
  • 研究担当者:石島力、石崎摩美、三浦重典
  • 発表論文等:石崎ら(2018)関東病虫研報、65:65-69