大麦の複数の機能性成分を増加させるADP-グルコーストランスポーター遺伝子

要約

大麦のADP-グルコーストランスポーターをコードするlys5遺伝子の変異遺伝子型は、β-グルカンに加えて難消化性デンプン、フルクタン、γ-アミノ酪酸、アラビノキシランの含量を増加させる。

  • キーワード:大麦、機能性成分、lys5、ADP-グルコーストランスポーター、DNAマーカー
  • 担当:中央農業研究センター・作物開発研究領域・畑作物育種グループ
  • 代表連絡先:電話029-838-8862
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

大麦の機能性成分としてモチ性大麦などに多く含まれるβ-グルカンが注目されてきたが、その他の機能性成分(難消化性デンプン、フルクタン、γ-アミノ酪酸(GABA)、アラビノキシランなど)も高含有する高機能性大麦の開発により新たな大麦需要の開拓が期待される。そこで、ADP-グルコーストランスポーターをコードするlys5遺伝子の変異による機能性成分含量への影響を明らかにし、DNAマーカーを利用した高機能性大麦の開発に資する。

成果の内容・特徴

  • ADP-グルコーストランスポーターをコードするlys5遺伝子は、その変異型として「ビューファイバー」のもつlys5.h遺伝子型、「谷系QM-1」のもつlys5.i遺伝子型がある(図1)。lys5.ilys5.hはそれぞれ異なるアミノ酸の変異を有する。
  • lys5.h遺伝子型およびlys5.i遺伝子型はそれぞれに対応したdCAPSマーカーにより野生型および他のlys5遺伝子型と識別できる(図2)。
  • lys5.hをもつ「北陸二条裸67号」、lys5.iをもつ「北陸二条裸糯68号」は、標準品種「ファイバースノウ」と比較して、全粒粉中に約3倍のβ-グルカン、約4倍のフルクタン、約1.5倍の難消化性デンプン、約1.2倍のアラビノキシラン、15倍以上のγ-アミノ酪酸を含んでいる(図3)。一方、デンプン含量は約半分に低下しているため、これらの穀粒はしわ粒となる。

成果の活用面・留意点

  • β-グルカンを始めとする複数の機能性成分を高含有する大麦品種・系統の開発により、健康機能性を訴求する高付加価値大麦として新規需要の開拓が期待される。
  • lys5変異遺伝子型をもつ「北陸二条裸67号」および「北陸二条裸糯68号」は、いずれもはだか麦であるため全粒粉として利用でき、胚やふすま部分に多く含まれるフルクタンやアラビノキシラン等の機能性成分の損失が少ない。
  • 「北陸二条裸67号」および「北陸二条裸糯68号」は不良条件下での出芽性など栽培性、収量性に難点があり、栽培法の検討が必要である。
  • 複数の機能性成分含量に関わるlys5変異アリルを利用した育種においてDNAマーカーを利用した効率的な選抜が可能である。
  • lys5.i変異遺伝子型ではADP-グルコーストランスポーターの機能低下によるデンプン合成能の低下に伴い機能性多糖類(β-グルカン、フルクタン、難消化性デンプン、アラビノキシラン)の含量が増加したと推測されるが、γ-アミノ酪酸との関連は不明である。

具体的データ

図1 lys5遺伝子の塩基配列と対応するアミノ酸配列,図2 lys5変異遺伝子型を検出するdCAPSマーカー(A)判別用dCAPSマーカーのプライマー配列.(B)制限酵素処理後のPCR産物の電気泳動像.,図3 全粒粉中の機能性成分の含有量

その他

  • 予算区分:交付金、競争的資金(科研費)
  • 研究期間:2017~2018年度
  • 研究担当者:中田克、池田達哉、一ノ瀬靖則、野方洋一、関昌子、青木秀之、加藤常夫、小前幸三、長嶺敬
  • 発表論文等:
  • 中田ら(2018)育種学研究、20(2):124-132