DNAマーカーによるネギネクロバネキノコバエの近縁他種からの識別法

要約

種特異的プライマーを用いたPCRにより、国内で新規発生したネギネクロバネキノコバエを国内既知害虫種から迅速に識別する手法である。

  • キーワード:クロバネキノコバエ、種特異的プライマー、分子系統解析
  • 担当:中央農業研究センター・虫・鳥獣害研究領域・生物的防除グループ
  • 代表連絡先:電話029-838-8916
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

ネギネクロバネキノコバエ(Bradysia odoriphaga)は、2014年に埼玉県で初めて発生が確認されたネギやニンジンの害虫であり、現在は群馬県でも発生している。
本種の分布拡大を防ぐためには、圃場で発見される種を迅速に同定し、侵入早期の低密度段階で適切な防除を行う必要がある。一般的に、クロバネキノコバエ科の同定は成虫の形態的特徴に基づいて行われる。しかし、圃場では本種との形態的な識別が困難な近縁種も発生する。また、形態による同定が困難な幼虫や蛹のみが発見される場合もある。
そこで、分子系統解析により本種の系統学的位置を推定した上で、DNAマーカーによって本種を他種から迅速に識別する手法を開発する。

成果の内容・特徴

  • DNAバーコード領域(ミトコンドリアDNA COI領域)の分子系統解析では、ネギネクロバネキノコバエは中国に分布するBradysia odoriphagaと遺伝的に近縁である(図1)。
  • 本種特異的プライマー(BCOF1)とLCO1490及びHCO2198を用いたマルチプレックスPCRにより、PCR産物長の違いにより本種を国内に分布するチバクロバネキノコバエなどの近縁他種から明確に識別できる(表1、図2及び図3)。
  • 本識別法は本種の成虫だけでなく幼虫や蛹についても、他種から識別することが可能である(図3)。
  • 本識別法をネギ圃場で発見されるクロバネキノコバエ類の識別に利用することにより、本種の発生の有無を迅速に確認することができる。

成果の活用面・留意点

  • 本識別法はネギネクロバネキノコバエが発生している埼玉県や群馬県の病害虫防除所、県から同定依頼を受ける植物防疫所において活用できる。
  • 本種以外の種を同定するためには、PCR増幅産物の塩基配列解析が必要である。

具体的データ

図1 ミトコンドリアCOI領域に基づくネギネクロバネキノコバエとその近縁種の近隣接合樹,表1 本識別法で用いるプライマー,図2 種特異的プライマーを用いたPCRにおけるネギネクロバネキノコバエと他種のPCR産物長の概念図,図3 種特異的プライマーを用いたPCRにおけるネギネクロバネキノコバエと国内農業害虫クロバネキノコバエ科3種のPCR増幅産物の電気泳動写真

その他

  • 予算区分:交付金、競争的資金(イノベ創出強化)、その他外部資金(レギュラトリーサイエンス)
  • 研究期間:2016~2018年度
  • 研究担当者:有本誠、上杉龍士、日本典秀、長坂幸吉、吉松慎一、末吉昌宏(森林総研九州支所)
  • 発表論文等:Arimoto M. et al. (2018) Appl. Entomol. Zool. 53:419-424