ハシブトガラスは自分の体重を超える重量を持ち上げる

要約

有害鳥ハシブトガラスの、これまで解明されていない持ち上げ能力について1個体で試験を行い、報酬飼料を得るために持ち上げる円蓋の重量を順次増加させると、体重の約1.5倍にあたる1,100gをくちばしで持ち上げることができる。

  • キーワード:カラス類、ハシブトガラス、身体能力、重量、持ち上げ
  • 担当:中央農業研究センター・虫・鳥獣害研究領域・鳥獣害グループ
  • 代表連絡先:電話029-838-8481
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

有害鳥による農作物への被害では、カラス類によるものが面積、量、金額すべてにおいて最大である。カラス類は農作物被害の他にも、畜舎への侵入や家畜の傷害、ゴミ集積所における生ゴミの散乱等、さまざまな問題を起こしている。これらの被害を防止する網等を設置する場合、カラス類に壊されたり移動されたりしないように十分な強度や重量が必要である。カラス類では、くちばしによる咬合力、突刺力、引張力の研究例があるが、持ち上げ可能な重量については解明されていない。そこで、本研究では、被害対策技術の開発に資するために、ハシブトガラスが持ち上げることができる重量に関する知見を得る。

成果の内容・特徴

  • 飼育ハシブトガラス1個体は、体重の約1.5倍にあたる1,100gの円蓋をくちばしで持ち上げることができる。
  • 試験は、直径16cmのアクリル製の円蓋の内側に金属製のおもりを取りつけ、深さ6.45cmのブリキ缶を板に固定した受け皿に報酬飼料(ビスケット)を入れて円蓋をかぶせたものを試験個体に提示する方法である(図1)。試験個体は報酬飼料を得るために、円蓋頂部のツマミをくちばしでくわえて、垂直方向に6.45cm以上持ち上げる必要がある(図2)。試験個体は平均的な体格の成鳥で、年齢は14歳以上、体重は試験直近には722g、他の時期には725g~813gである。
  • 報酬飼料が見える透明の円蓋を用いる試験は292gから開始し、重量を順次増加させる46試行において(図3a)、最大1,005gまで全ての試行で試験個体は円蓋を持ち上げ、要した時間は円蓋への最初の接触から30±7(範囲1~338)秒である。
  • 不透明の円蓋を用いる試験は306gから開始し、重量を順次増加させる26試行において(図3b)、最大1,100gまで全ての試行で試験個体は円蓋を持ち上げ、要した時間は円蓋への最初の接触から319±126(範囲5~2,491)秒である。
  • 持ち上げに要した時間と提示した重量の相関係数はいずれの試験においても小さい(r=0.17, P>0.2; r=0.22, P>0.2)。
  • 持ち上げ行動の回数と提示した重量の相関(図3a, r=0.16, P>0.3; 図3b, r=0.47, P<0.05)は試験により異なる一方で、はばたき回数と提示した重量には有意な相関が見られたが(図3a, r=0.82, P<0.000; 図3b, r=0.48, P<0.05)、990gを持ち上げるのに23回目で成功し12分超かかったのに対し、1,090gでは7回目の27秒で持ち上げているなど、提示した重量と持ち上げる努力量の関係は必ずしも一貫していない。

成果の活用面・留意点

  • 本研究は円蓋を持ち上げて報酬飼料を得ることを順調に習得したハシブトガラス1個体の結果であるが、被害対策技術の開発において網等の固定に必要な強度や重量の参考情報として有用である。
  • 試験個体の負傷等を防ぐため、1,100gを超える重量の提示は行っていない。
  • 中央農業研究センター動物実験委員会承認番号[No.27-2]。

具体的データ

図1 試験用の円蓋(a)と受け皿(b),図2 試験個体が重量985gの透明の円蓋を持ち上げる様子(囲み数字は秒),図3 透明の円蓋を用いる試験(a)と不透明の円蓋を用いる試験(b)における持ち上げに成功するまでの行動の詳細

その他

  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2016~2018年度
  • 研究担当者:吉田保志子、佐伯緑
  • 発表論文等:Saeki M. and Yoshida H. (2018) Ornith. Sci. 17(2):237-244