土壌物理性簡易診断として圃場全面深さ60cmまでの土壌硬度を三次元分布で評価する

要約

GNSSレシーバーと貫入式土壌硬度計を用いて圃場全面に対し深さ60cmまで土壌硬度を測定した後、深さ1cmごとの土壌硬度等高線マップを作成し、土壌硬度の三次元分布を構築する手法である。土壌硬度の偏りを根拠に地表面からの浸透水が集積しやすい地点を特定し、干湿害を予測する。

  • キーワード:簡易土壌物理性診断、干湿害、GNSS、土壌硬度、微地形
  • 担当:中央農業研究センター・土壌肥料研究領域・土壌診断グループ
  • 代表連絡先:電話029-838-8979
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

圃場一筆あたりの面積拡大や大型農業機械による直播・不耕起栽培の普及により、圃場内が不均一なまま作物生産が行われるようになった。土壌物理性の良否が作物生産に大きく影響するため、圃場全面に対し迅速および簡易な土壌物理性診断技術が求められている。
そこで本研究では、土壌物理性として土壌硬度(貫入抵抗)に着目し、全球測位衛星システム(GNSS)レシーバーと貫入式土壌硬度計を用いて圃場全面に対し深さ60cmまでの土壌硬度を三次元分布で評価し、その三次元分布図によって作土から耕盤を経て下層土に至る土壌構造の偏りを明らかにする。また、地表面からの浸透水が集積しやすい地点の特定にも利用する。

成果の内容・特徴

  • 本技術は、民生用GNSSレシーバーで調査地点の緯度経度を記録しながら、10~15mメッシュ程度で貫入式土壌硬度計によって深さ60cmまでの土壌硬度を測定した後、深さ1cmごとに土壌硬度等高線図を60枚作成して、土壌硬度三次元分布を構築する手法である(図1)。調査時間や労力を考慮すると1ha圃場では調査点数は60ヶ所程度が好ましい。調査時間は1~1.5時間程度/ha・人、データ解析はバッチ処理が可能なため、数分で処理できる。
  • 深さごとに土壌硬度の平均と標準偏差を算出しグラフにすると、深さ15cmを中心に、平均は急速に大きくなり、標準偏差はピークとなるふくらみがある(図2)。この深さで土壌硬度のばらつきが一番大きいことから、地表面からの浸透水が通過するときにボトルネックとなることが想定される。
  • 水の集積程度を判定するために、今回の調査圃場では深さ15cmよりやや上の深さ12cmの土壌硬度等高線図(図3)を用いて浸透水が集積しやすい地点(土壌硬度が周りより低い地点、三方を囲まれている地点)をチェックする。
  • 土壌硬度を測定した地点でコムギ「さとのそら」の収量調査を行い、土壌硬度同様に等高線図を作成すると、図3でチェックされた地点の収量が周りに比較して低くなっている(図4)。

成果の活用面・留意点

  • レーザーレベラーで均平化を図っている大区画水田圃場での輪作や転換畑に有効な技術である。
  • 新たに借りた圃場での生育ムラを事前に予測でき、土壌改良方針を決定するのに役立つ。
  • 水はけの悪い圃場で排水性を向上させるための明暗渠の施工に有効な知見を与える技術である。
  • 土壌中の微地形を把握できるため、その年の降雨の状況によって作物収量の変動を予測するのに役立つ。すなわち、干ばつ気味な年は浸透水が集積しやすい地点で収量が上がり、降雨が続くような年は浸透水が集積しにくい地点で収量が上がることが想定できる。
  • 土壌硬度(貫入抵抗)の測定条件:コーン底面積2cm2、測定深度<60cm
  • GNSSレシーバーで補足できる人工衛星の数は15機以上が望ましい。想定している人工衛星は、現在のところ、GPS、GLONASS、QZSS(みちびき)である。

具体的データ

図1 土壌硬度三次元分布図 構築手順,図2 深さごとの土壌硬度の平均と標準偏差,図3 深さ12cmにおける土壌硬度等高線図,図4 図3と同一圃場における小麦収量の分布 (平均6.00Mg ha-1)

その他

  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2014~2018年度
  • 研究担当者:江波戸宗大、岡崎圭毅
  • 発表論文等:江波戸、特願(2017年7月20日)